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野ペンギンと恋3
しおりを挟む「そうだ。ペンのことだが」
「はい。どうしたんですか?」
「どうして学園にいたのか調べてみたんだが、2週間前に代わった前理事長が飼ってたものらしい」
「えっと、理事長が、学園で…?」
「そうだ。ここだと許可さえもらえばペットも飼えるだろ? それで個人的に飼っていたらしいんだ。それも世話は人に頼んで。それで体調を崩して理事長を辞めるにあたり、飼えないから学園に寄贈という形にしたそうなんだ。しかし、…引継ぎの時にうまく話が伝わらなかったのか、もしくは本人が伝えた気になっていて実際は伝えてないのか、とにかくペンは誰に知られることなく学園に放置されることになったんだ。それで現在の理事長と話し合っているところなんだ」
「…どうなるんですか?」
どういうことだと言いたいような話を聞かされた雪は不安そうにしている。大丈夫だ。なにがどうなろうとも俺の力でどうとでもしてみせるから。家の力を使うのは最終的で、できるだけ俺自身の力で解決するつもりだ。
「前理事長は学園に、と考えていたし、学園のペットってことになる可能性があるが、正直突然ペンギンをもらっても困る。ひとまずは保護という形にするが。その先はどうとも言えない」
適当な推測を言うのはよくないだろう。俺が大人なら任せろというんだがな…。
「そうですか…。ペンギンですもんね」
「そうだな」
まだペンギンがどんなものか、なんとも分からないから困るんだよな。ペンには悪いが、犬猫だったら話はとても簡単だったろう。
ペンの未来を思ってか、雪はしょんぼりしている。
「ユ、…コナミはペンがどうなるのが一番いいと思う」
ペンの気持ちより雪の気持ちが最優先だ。悪いなペン。
「…わからないけど、人が飼わないとペンは生きていけないよね。学園で飼える可能性はどれくらいなのかな?」
「ここは山奥で敷地も広いが、今の理事長の様子では厄介だという感じだったな。誰かもらってくれないかと思ってるんじゃないだろうか。うちは金持ちの子息が多いからな」
「そっか…。最悪誰かに飼ってもらえるよね。ペンと離れることになるのは寂しいけど」
「ユ、…コナミはペンと離れたくはないか?」
小波雪の家は一般家庭だからな、ペンギンは飼えないのかもしれない。
「そりゃ、…前だったらペンギンを飼えるなんて思いもしなかったから、望むなんてこともないけど、こうしてすぐ側にいると欲が出るだろ?」
「なんとか、ここで飼える方向で話を進めよう」
「…ありがとう会長」
綺麗な笑顔を見せた雪。…たまらん。
いやいや変態じゃないぞ。誰だって見惚れるに決まってるほどなんだ。誰かに見せるなんてことしないがな。
……あの男は何度も見てるんだろうな。
「…会長?」
「…そうなると、もっとペンギンの飼い方も調べないとな。前に学園でペンを世話していたという人を探してみよう。再び世話してもらえるかもしれない」
「…世話は俺がしますよ?」
「だとしても話を聞く必要はあるだろう」
「そうですね。お願いします」
「ふっ。ああ」
「…なんでそこでそんな女の子に見せろみたいな笑顔になるんですか」
「そんな顔だったか? 自分では分からないが、さっき考えてたのはユキがまるでペンの保護者みたいだなって思ってな」
「……そんな気分ではありますよ。俺が見つけたんだし、最後まで面倒みないといけないかなって」
照れてるのか、雪は少し顔を赤くして顔をそむけた。可愛すぎる。
こんな近くに雪がいる。うっかりすると涙が出そうなほどに胸がいっぱいになる。それが幸せかなんなのかは分からないけど。
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