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落ちた。9
しおりを挟む「それが気に入っているなら同じ道を歩ませてやろう」
氷るような表情のフェレントは再び手を振る。
エルバラはせめてと貴広の身体を抱きしめる。
大きな音が響いた。
「…ウィリダ…、なぜ?」
さらなる攻撃はウィリダによって防がれた。
城の壁にもたれて見物でもしているかのように立っていたウィリダ。その表情は常と変わらない。
「なぜって、自分のものを守っただけなんだけど?」
「ただの奴隷だろう?それとも本当に大事なのか?その男が」
自分で言って苦しむフェレント。
「はー、もう。なんでわからないかなー?やだねー、力の所有者は」
「ウィリダ…?」
「別にそんなんじゃないからー。とにかくマロウ見ながらゆっくりお茶飲もうよー」
「あ、ああ…」
いつも自分ペースなウィリダであることは有名である。フェレントも見つかって怒られることがなかったしで無理矢理気にしないことにして返事をした。
「エルバラ、キヒロちゃんの具合はどうかなー?」
「キヒロ、平気か?」
「お前、早く助けろよ…」
間違いなく危なくなるまで見てるだけだったウィリダに貴広は睨む。そんな強気でも身体を震わせる貴広にエルバラは心配する。
「さすがキヒロちゃんだねー、よくわかってる。元気そうだし一緒にお茶しようよ。さっきは一応奴隷ってことだし別がいいかなと思ってたけど、もう遠慮することないよね」
「ウィリダ…」
「王子ー?俺に怒らないでほしいなら文句はなしでお願いー」
「わ、わかった…」
奴隷とともにお茶なんて常識として考えられない。それでもフェレントはウィリダに逆らえなかった。
貴広はエルバラの支えによって立ち上がり、気丈に身体を動かす。気を張っていないとこの世界ではやってられない。
マロウの群れ近くにテーブルが置かれ、貴広も席についた。エルバラは後ろに立ち、向かいにウィリダと不服顔のフェレントが座っている。
「まずはー、フェレントってばそんなに俺のこと好きだったわけー?」
「そうだ。何度も結婚したいと伝えただろう?」
「そうなんだけどー、俺と結婚する前に他の人と結婚してるじゃん」
「そんなに嫌だったか…?ならすぐにも別れよう」
「うーん、それはひとまずどっちでもいいから、それより…」
言葉途中でウィリダは、お茶する人に慣れたマロウが草むらに体を横たえてるのをじっくり眺めた。満足すると話すのを再開する。
「そうだなー、王城にある宝を見せてくれないかな?それとエルバラの解放。それに、キヒロちゃんとついでにエルバラにもかな、加護を与えてくれるなら、結婚考えてもいいよー?」
「そんなにあの奴隷が大事なのか?!」
「そこが気になるわけ?」
ウィリダはかなりの無茶な望みを言ったが、貴広にそれは分からない。そして無茶なことより貴広への対応というのが気になるフェレントというのも貴広には分からない話だ。
「そうじゃなくて、それくらいのことして俺への愛をしめしてほしいってことだよ?」
「愛してる。誰よりも」
「言葉なんて信じられませーん。まして結婚してて、遊んでるってけっこう噂の男が言う言葉は。俺もこんなだし、適当な言葉なら気持ちがなくても言えるなんてよく知ってるしね」
「そんな…、俺の愛が信じられない?」
立ち上がってウィリダの前にひざまずきその手をとったフェレント。王子なだけに優雅な動きでさまになっていた。その相手がウィリダというのは貴広には冗談にしか見えないが。
そんなフェレントを珍しく冷めた目で見下ろすウィリダ。
「できるの?できないの?それが唯一しめす方法だよ」
無茶だからこそ意味がある。
「…………ウィリダの気持ちが、それで手に入るというのなら、望むままにしよう」
「…フェレントはやっぱりフェレントだねー」
無茶をあっさり受け入れたフェレントに嬉しそうな笑顔を見せたウィリダ。貴広によく見せるような人を馬鹿にしてるようなものとは違い柔らかく、貴広は驚いた。
その後、普通?に和やかなお茶会となり、貴広はウィリダと帰路についた。
「ふー、疲れたー。やっぱ遠出とかないなー。マロウいっぱい見れたからいいけどー」
ソファーに寝転がるウィリダに、貴広は不満の目を向ける。
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