ツクチホ短編まとめ

はるば草花

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落ちた。8

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城の奥の薄暗い場所にやってきて、そこにある何かを運ぶのかと思われたが、侍従の男は振り返ることなく、部屋の奥へと入っていく。そして貴広が中に入る前に扉は閉まる。

これはついていくべきなのか、思案した貴広だったが、不意の気配にとっさに後ろに下がる。


「なんだ、お前ら」


武器を構えて不穏な空気を纏う男達が3人、貴広に向いている。

勘違いということもありえなくはないので貴広は尋ねてみるが返事はなく、そのかわりに貴広に向かって剣を振り上げた。

それを避けた貴広は手頃な男に近づき腹を殴る。衝撃に男が怯む隙に蹴りを入れて他の男達のほうへ倒す。

男達の体勢が崩れてる間に貴広は逃げる。

来た道を帰ろうとするが、はっきりと分からない。そのうちに他の兵らしき者達もやってきて、その相手もしなきゃならなくなる。


「なんなんだ!」


どんな理由で狙われているのか、分からなくて腹が立つが、ウィリダによって苛立ちは鍛えられたので冷静に対処していく。

この世界ではウィリダのもとに行くしかないのも腹立たしいながら、ウィリダのもとを目指す。


日の光が見えて外が近いと感じ向かうが男が立ちふさがっており、貴広の身体は強ばった。しかし見覚えがある。


「エルバラ…?」

「ああ…」


貴広の前に現れたのは王の住まう城で出会った強い男前エルバラだった。

この男相手では貴広は勝てない。


「うわ?!」

「大人しくしていろ」


どうするか迷う貴広の腕がエルバラに掴まれ引き寄せられた。


「なに…?」

「今回はお前の殺害命令が出ている」

「え…」


エルバラの言葉に貴広は思考が止まる。


「…大丈夫だ。俺はそんな気はない」

「エルバラ…」

「大丈夫だ。他の兵はお前を怪我させることもできないだろう?俺さえ味方なら大丈夫だ」


貴広を安心させるかのようにエルバラは貴広の背を撫で、何度も大丈夫だと言葉を重ねる。エルバラとは捕まった経験しかないが、貴広はエルバラに安心する。


「…しかし、命令をくだしたのはフェレント王子だ。失敗しましたですむことはないだろう。…どうしたものか…」

「フェレント王子?なんで?」


何故よく知らない相手に殺されようとするのか。


「…フェレント王子がウィリダに執着しているのは有名なことだ。それでじゃないか?あのウィリダの興味をひいてるお前が気に入らないのだろう」

「そんな…」

「今はひとまずこの包囲を抜けるか」

「うわっ」


エルバラの威圧によって近づけないでいたものの、多くの兵士が2人を取り囲んでいた。

2人は兵士を倒しながら逃走する。城の外に出るが、先は水面で進めず、結局囲まれた。

とはいえ最強2人組に兵士はなすすべないという状態となった。

このまま兵士を全滅させるしかないのかと貴広はうんざりしたが、その時、すぐ目の前に雷らしきものが落ちる。

兵士が数人巻き込まれて吹き飛んだ。呻いているので意識はあるようで、そのことからそれほど大きな雷ではなかったと考えられる。

ただ、偶然雷が落ちたとも思えない。

その通り、兵士とは別の男が少し離れた場所に現れていた。男は今まで見せていた顔と違い、貴広が憎いと表情が語っていた。


「しぶといな。さっさっと潰れろ」


忌々しそうに男、フェレントが言葉を告げるとその途端に貴広の身体に覚えのある衝撃が襲う。


「ぐ、あ…」

「キヒロ!」


崩れ落ちた貴広の身体をエルバラが抱える。


「やめろフェレント!キヒロはなにもしていないはずだ!」

「ウィリダの気をひいていることが十分に大罪だ」


フェレントはさらに攻撃を加えようと手を軽く動かした。


「させない!」


フェレントの動きとほぼ同時にエルバラも手を前に出す。そして力がぶつかりあったような音があたりに響いた。


「ふん、防御はそれなりにできるようだな?とはいえ弱い者には何度も防げまい」

「くっ…」


受けた衝撃にエルバラの手が痺れる。次は受け止めることもできないだろう。
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