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落ちた。4
しおりを挟む「ウィリダ!来ていたんだね」
「あー…。どーもー。フェレント様」
ウィリダに新たに近づいてきた男は今までと雰囲気からして違う。華やかな美形で、着ている服装は一番上等そうだ。
貴広なんて存在してないかのように、ウィリダしか見てない。
「私の美しい宝石。ますます美しくなったね」
「あはは、どーも」
甘ったるい声でウィリダの手を取ったフェレント。ウィリダは変わらぬ表情だが、嫌がってる気が貴広にはする。
「久しぶりに会って、我慢ができないよ。そろそろ私のもとに来る気はないか?」
「えー、前にも言ったじゃないですか。フェレント王子はもうお嫁さんいるからいいでしょうけど、俺はまだ1人もいないんですよー?王子と結婚したら他の子が遠慮して結婚しにくくなるじゃないですか」
この世界では、力さえあれば複数との結婚が可能だ。それも、性別関係なく婿側も嫁側も複数と婚姻が結べる。
ウィリダの言う他が遠慮して結婚できにくいというのは確かでもあるが、断る理由だったりする。
「それは…、私1人では駄目か…?」
「もうすでに1人いる人がそんなこといいますかー?」
王子相手とあれば、そもそも断ることなどできないのだが、ウィリダの力は跳ね返せるほどに強い。
「う…。そうだな…。しかたない。もう少し待とう」
「はい。すみません。我慢してください。ああ、ほら、あっちの美しい女性が王子を待ってますよ」
「ああ、確かに。では、またなウィリダ」
熱烈に結婚を迫っていたのに、フェレントはあっさりと女性のほうへと行ってしまった。
それには、2人のことがどうでもいい貴広も呆れる。
「なに、あの人」
「たらしってやつじゃない?」
「ウィリダもそうじゃないのか?」
「あそこまでひどくないよー。顔よしで王子してたらいっぱい寄ってくるんだろうけどー」
見た目はウィリダのほうがたらしっぽいが、王子という立場は、複数と付き合っても許されるのだろう。
ウィリダがそんな状態をよく思ってないなんて、少しも知らないで。
「キヒロちゃん。ちょっとあっちのほう行こうか?」
「?なんで?」
「いいからいいから」
「胡散臭いぞ」
嫌な感じがするが、拒否できるわけもなく、広間から別の場所へと行く。
そこは小さな部屋で、休憩室のようなものかもしれないが、他の人はいなかった。
「なに?」
「ちょっとさー。調べてきてよ」
「は?なに言ってんだ?」
「ほらこれ見て」
いぶかしむ貴広のことなんて気にせずウィリダは懐から見取り図を取り出し貴広に見せた。
「今ここねー。で、ここをこう行って、ここを曲がってー、ここにある部屋に、国のとても大事な宝があるらしいんだよ」
「…それが?」
すでにウィリダがなに言いたいかわかるが。
「ちょこーと見てきてよ。どんなものか、前から気になってたんだよねー。あ、盗ってこなくてもいいからね。それだと犯罪者になっちゃうから」
「あんたが見たことないってことは、見るのも許されてないんじゃないのか?」
「まーねー。でも見るだけなら問題ないって。ねー」
貴広を外に連れてきた理由が分かった。
その宝は見ようとするだけでも危険なのだろう。
「そんなのできる能力ない」
映画の主人公じゃあるまいし、危険をかいくぐる能力なんてない。
「キヒロちゃんなら大丈夫!部屋にたどり着くまでにいる兵士達を倒せばいいだけだから」
「………いやだ」
「なんでー?」
「うまく事がすすんでも、兵士の人に顔見られたら、俺が犯人だってばれるだろ」
「平気だって、不法侵入じゃないんだから、部屋に迷いこんだとして考えてくれるよ。俺の力があれば」
だったら、その力で宝を見せてもらえるようにすればいい。
そう貴広は思うが口にはしない。どうせ宝が気になるというより貴広がどこまで出来るかと面白がってるに違いないからだ。
そして貴広に拒否権なんてない。
一度、息を吐き、貴広は応じることにした。
「…失敗する可能性のが高いと思うから、ちゃんと助けてくれよ」
「もちろんだよー」
なんとも信用できない軽い声。期待したってしかたないが。
貴広は広間のほうとは逆の扉から部屋を出る。
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