ツクチホ短編まとめ

はるば草花

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会長を中心に世界が回る17

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「カスミ!」


内鍵を無理矢理ぶち壊して風紀室に入ってきたのは、もちろん、佐城だ。

家墨の姿を見つけると身体全体を確認する。


「カスミ、大丈夫そうですが、大丈夫ですか?」

「問題ない」


少し焦っていても落ち着きながら尋ねる佐城に家墨も普通に返す。北義にくっついていることを見られていることも気にしてない。


「…サジョウ…」


北義のほうは佐城に敵意を剥き出している。


「あなたの部下が信用してくれと言ったのと、カスミの叫びが聞こえてくるようでもないので待ちましたが、時間がたちすぎです」

「まだ、んなたってねえだろ」

「カスミ、そんなでかいのが上にいて重くないですか?」

「重い」

「あ、わり」


あっさり家墨の上からどいた北義。ここに強行手段で連れ込んだのに。

それによって家墨は身体を起こす。もう離れてもいいはずなのに、北義にくっつく。

その事に北義は顔をだらしなくでれでれにして、佐城は驚いた。そんな佐城がおかしく見えた家墨だが、あることに不安になる。


「……だめか?」


佐城に反対されないか気になった。


「…いえ、とても驚きましたが、カスミが脅されてとか、同情でないのならばかまいせんよ。例え、相手がろくでなしでも、私が見張ればいいだけのことですからね」


悪趣味だとしても家墨の気持ちを尊重する。


「おい…」

「そうか。よかった」


佐城の反対があったなら一番困っただろうから、家墨は安心した。

安心して北義にくっつく家墨はほんのりだが幸せそうである。

佐城は家墨の笑った表情を誰より見ていると思っているが、こんなふうに柔らかい表情は初めて見る。

こんなのどこがいいかさっぱり分からないし、そもそも家墨は男を好む趣味などなかったはずだ。偏見はないだろうが。

理解不能な佐城だったが、気づいた。

北義は熊だ。

家墨はでっかいクマに抱きついてニコニコしている。ように見える。


「そういうことですか…」


家墨の好みは、子猫より頼りがいのあるクマのほうが好きだったのだろうと結論が出た。書記の水上にくっついていたのも裏付けになる。


佐城の目線に気づいた北義。


「なんだ。うらやましいか」

「ありえません」


呆れた目で北義を見る佐城と、佐城を睨む北義。

そのタイミングで現れる男。


「…どうだった?」


上司を信じて佐城を止めた青井である。


「ええ。カスミはクマに懐いたようです」

「そうか…」


意味を理解した青井は胸をなで下ろす。信じていたけど、つい、とかありそうだ。


「カスミー…」


青井の出現を気にもとめない北義は顔をぐりぐりと家墨の頭に押しつけたりと、家墨を堪能する。


「そうだ。付き合う記念にもう一度、んー、ちゅー……ぐっ」


調子にのって家墨に顔を近づけた北義を佐城が素早く北義の頭を掴んで止めた。


「公衆の面前でイチャつくのは許しません」

「あああ?!てめえに関係ねえだろ。とられて悔しいからって嫌がらせはやめろ」

「とられてません。無関係の通りすがりでも非常識なことは止めさせます」


大迫力北義にも家墨がからめば怖いものなし佐城は引かない。


「つっこむわけじゃねえんだ。ちゅーくらい問題ねえだろ」

「あなたの勝手な妄想にカスミを引き込まないでいただけませんか」


一触即発。この2人を放っておいては危険である。


「あー、ここはカスミ会長の意見を聞くべきじゃないか?」


青井の危険回避の言葉に2人は家墨を見た。


「あ?…俺は……、嫌だな」

「ですよね」

「なんでだ!カスミ!」

「なんでそんなショック受けてんだよ」

「…やっぱサジョウのほうがいいとかじゃないよな?」

「はあ?なんでそんな話になる。…恋人はお前だ」

「カスミーー!!」


離れていた家墨の身体を飛びつくように抱きしめた北義。ぎゅうぎゅう力をこめる。少し苦しいレベルだ。

「気持ちは察しますが、カスミを離してください」

「あん?!」


佐城の言葉に北義は全力で威嚇する。


「仕事があります」


このままくっつかせてはおけない。それを家墨は理解した。


「あー、そうか。離れろ」

「………くそっ」


さすがに北義も仕事をおろそかにできないと知ってるだけに、渋々渋々家墨から離れた。


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