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保護動物は保護対象2
しおりを挟む「…なんだ?」
振り返りたくないが、振り返った真紘は不遜な仮面をかぶって対応した。
「…噂は本当ってことか?」
委員長が嘲るように聞いてくる。それに内心びくびくしてる真紘だが、頑張って受け答える。
「なんのことだ?」
「はっ、しらをきるつもりか?そこの一匹狼とただならぬ関係なんだろう?」
「…馬鹿を言うな」
ただならぬ関係という言葉の響きにだけにもパニックの真紘だ。噂のことは知らない。俺様っぽい返答をしておく。
「こうして一緒に帰ろうとしてるのに関係ないと?」
「それは…」
さすがにごまかしきれなくて言葉がつまる。
「お前には関係ないことだ」
「あ?かばってるのか?」
このままではまずいと恭が口を挟む。そのことで風紀委員長は苛立ったように眉を寄せる。それを見た真紘は身体を震わせる。表情はひきつりつつも頑張って俺様を演じてる。
「話す必要はないだろう」
「このこと、誰かに話したっていいんだぜ」
にやりと脅す委員長に真紘は表情を崩しかけるほど動揺するが、恭は涼しい顔だ。
「好きにしろ」
「なっ!いいのか?」
「勝手な噂ならすでにある。今さら一緒にいた情報が増えてもなにか変わるものでもないだろ」
その通りで、委員長は舌打ちする。真紘はびくっと肩をはねさせた。
大方、会長である真紘の弱みでも握りたかったのだろうと恭は推測する。
それ以上追求できなくなった委員長は、自販機の側にあったゴミ箱を蹴って去っていった。
2人だけになるとまた涙目になった真紘を恭が慰めつつ2人は部屋へと帰る。
あんな乱暴な男を真紘に近づけさせたくない恭だが、相手はあんなのでも風紀委員長という生徒会と同等の権力があるのだから、近づかせないようにするのは難しい。仕事のこともある。
どうしたものかと頭を巡らせつつ恭は食材を選ぶ。今回はチーズ入りハンバーグにしようかと思う。
怖がり真紘は生徒達に騒がれるのも好きでなく、騒がしい食堂も苦手でよく食わせている。
帰る道は目立たない人通りの少ない道を選ぶ。
そこであの問題の男を見つけてしまう。こちらには気づいてないので、足を止め去っていくのを待つ。
風紀委員長は周囲を見回しながら歩いている。なにか起こってはいないかと見ているのだろう。
早くどっか行けと見ていれば、
委員長がこけた。
まあ、そういうこともあるだろうと恭はとくになにか思うでなく、見続ける。
なかなか立ち上がらない。
どうやら木の枝に制服がひっかかっているようだ。
しかし、本人きづいてなくて、じたばたしてる。
やっと気づいたと思ったら、はずそうとしているものの、なかなか取れない。
見ていた恭は抑えきれなくなった。
「うっくそ。なんで取れねえ?また脱ぐなんてパターンはごめんだ!」
ぐいぐい引っ張るだけで取れるものではない。
「うー、やっぱり俺には無理なのか?風紀の誰かを呼ぶか…、いや、しかし。うー、くそ」
身体を回転させて取れまいかとするも取れるものでなく。
「…なんでだよ。…取れろよ」
声が弱々しくなってきた。強気は崩さないが、動きもなくなってきた。罠にかかった野生動物が、はじめは暴れてたのに時間がたって弱ってきたかのようだ。
「…く……………」
停止寸前。
「ほれ」
恭の手によって、あっさり制服は枝から離れた。身体がぼてりと倒れる。
「おう!?」
驚いて飛び上がった風紀委員長。不良も恐れる風紀委員長が。
「大丈夫か?」
もはや恭には忌々しい相手には見えない。
「おま、え、…一匹狼?…なんで…」
「メシは食ったか?」
「へ?いや…」
「よし。俺が作るから部屋に来い」
この風紀委員長の伊能優斗はおそらく極度の不器用でドジなタイプと恭はみた。
それを知られたくなくて虚勢を張り、そのせいで誰かに頼れない。
ゴミ箱を蹴飛ばしていたのも、わざとじゃなくて当たってしまったのかもしれない。
そう考えると振り返りざまによけれなかったという感じだった気がする。
苦労しているに違いない。これは保護しないと可哀想だ。
呆気にとられた顔をしている優斗は怖さがない。これなら真紘も怖がらないだろう。
「なんで…」
「ハンバーグ作ろうと思ってるんだ。チーズ入り」
「まじか。ここの食堂のはないんだよな。チーズ入り」
「そうか。じゃあ行こう」
「いいのか?」
「ああ」
優斗はいきなりのことに迷うもチーズ入りの誘惑に負けて恭の後をついていく。
「キョー。おかえりー」
真紘が嬉しそうに恭を出迎えた。
「ん、ただいま」
「………やっぱり、そんな関係なのか…」
真紘の登場に優斗は心なしかショックを受けた表情になる。
「ひゃっ!」
恭の隣に優斗がいると気づいた真紘は慌てて恭の身体に隠れる。俺様の仮面は忘れてしまった。
「?!」
そんな真紘に優斗も驚く。
「な、なんで、風紀が。ふえ、うえ」
「え、あ、おい。なんもしねえよ?」
泣きそうな真紘に優斗は慌てて無害だと主張しながら手をわたわたさせる。
恭は成り行きを見守ることにしてみる。
「あー、ほら、泣きやめ。これからこいつがチーズ入りハンバーグ作ってくれるらしいぞ」
おそるおそる真紘の頭を撫でる優斗。その手つきは恭のように丁寧でなく、髪がくしゃっとなっているが、悪意がないのは伝わり、落ち着いてきた真紘。
「…ほんとう?」
「そうだ。帰りにユウトと会ってな。仲良くなったんで連れてきた。いいだろ?」
真紘は優斗を見る。今まですっごく怖かった人間だ。だけど、こんな怖がりな自分を見ても馬鹿にしたりしてこない。
「うん。いいよ。ユウトも一緒に食べよ」
「ありがと。マヒロ」
嬉しそうな様子の優斗はどうやら前から真紘と仲良くなりたかったようだ。
2人の関係を聞いてきたのはそういうことなのだろう。
それなら応援しようと思う恭。
保護動物が仲良くなるには同じく保護動物なほうがいい。小動物な真紘に野生動物の優斗はちょうどいい組み合わせである。
チーズ入りハンバーグができたから皿出すの手伝えと恭がリビングスペースに戻れば、
2人はソファーに寄り添うように座ってテレビを見ていた。
むつまじい動物2人に癒された恭は、真紘のお腹が鳴るまで見ていたのだった。
ぐう。
あ、そうだった。
20121103
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