繊細な悪党

はるば草花

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呼ぶ人28祝福

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「強固な壁を」


静かに呟いたクルク。小さい声には誰も気づかない。


「いたっ。なんだ?!」


生徒の拳はクルクに当たらず、その前に弾かれる。


「なにやってんだ? うおっ?!」


別の生徒がクルクに勢いよく向かっていくも、やはり弾かれ、今度は勢いがあったからか、身体ごと弾かれ、地面に倒れた。


「や、やっぱり魔物だったんだ!」


上位学部の生徒は、一般生徒を弾いたのをクルクが胸に抱える生き物の仕業だと考え、怯えてその場から逃げていく。その状況に他の生徒も同じく、その場からいなくなった。


「…ふうっ。…よかった」


生徒の攻撃を弾いたのは、シェンの力を使ってクルクが作り出した魔術である。

攻撃なんてクルクにはできないが、とっさに魔術を使うことができたのは、シェンを守ろうという気持ちが防御の魔術を発動させた。

シェンがクルクを呼ぶと、クルクはその場にへたりこんだ。


「ふわっ。怖かったよシェン。シェンが来なかったらどうなってたんだろ…。ありがとうシェン」


身体を震わせるクルクにシェンは身を擦り寄せる。気持ちが落ち着くまでその場所にとどまった。

とても怖かったが、クルクに心境の変化が起きた。

使った防御の魔術は比較的簡単な魔術であったが、きちんとできたことが、クルクの自信につながった。

自分でも、少しはできることがあった。




「クルク」


入ってきたクルクの姿を見たセルツァーは頬を緩めた。図書室にはセルツァーと、今入ってきたクルクだけしかいない。


「あ…、セルツァー…。あ、あの…」


緊張しているようなクルクに、セルツァーは苦笑する。2度目の告白があったことで、2人っきりな状況に戸惑っているのだろうとセルツァーは判断した。


「落ち着け。まずは座ってゆっくりしろ」

「う、うん」


椅子に座っていたセルツァーは、別の椅子を近くに置いた。そこにクルクが遠慮がちながら座る。この近くに座ってくれたことにセルツァーは内心喜んだ。


「あ、あ、あのね」

「…ん?」


落ち着くまで会話はないかと思われたが、クルクは椅子に座ってすぐに声を出した。

それに少し驚きつつも、何か言いたいことがあるんだろうとセルツァーは言葉を待つことにした。


「ええっと…、その…」


よほど、言いにくいらしい。クルクの顔を盗み見ると、少し頬が赤いように見える。それは緊張からくるものなのか。


「…いくらでも待つから。ゆっくりでいいぞ」

「ううっ…、そう言われると一生言えないよ。こういうのは勢いだよね。僕も男だもの。勇気だせ!」


頑張っているようなので、セルツァーはクルクの顔を静かに見ながら待つ。


「あう。えと、セ、セルツァー! す、好きです! 仲良くしてください!」


勇気を出して、勢いでクルクは言い切るが、すぐに勢いをなくして反対方向に向いて身体を縮こまらせた。セルツァーからは耳が真っ赤になっているのが見える。

好きだと言われたセルツァーは言われたことに衝撃を受けつつ、内容を理解しようとじっくり考える。

あの告白だとお友達として好きですという意味でもおかしくはない。とはいえ、セルツァーの告白をなかったことにして言っているとは思えないので、好きという意味はそういう意味でいいのだろう。たぶん。おそらく。そうに違いない。

セルツァーは時間はかかるのを覚悟していた。それが大きく心境の変化があったのか、クルクは力強い目をしてしっかりと自分の気持ちを言ってきた。

驚いたが、そんな変化がセルツァーは自分のことのように嬉しくなった。ならば、セルツァーとしてはこちらもかっこよいところを見せたい。


「クルク。とても嬉しい。ああ、仲良くなろうな。リンメルよりも!」

「…リンメル?」


リンメルの名前が出てきて、クルクは少し落ち着きを取り戻す。


「そうだ。リンメルと一緒にいることのほうが多いだろう? 俺としては非常に嫉妬している」

「ふふっ。そうなの?…そんな一緒かなあ?」

「お前の手料理目当てによく部屋にいるんだろう?」

「ああ、そうかも。…でも、気にしなくてもいいのに…」

「どうしてだ?」

「その…。全然違うというか…、リンメルにはウィンレイ様っていう恋人がいるんだし」

「つまり?」

「む。いじわる。…だから、セ、セルツァーのことは…、好きの意味が違うというか」

「なら。俺とは恋人ってことでいいのか?」

「……こんな僕でもいいかな?」

「クルクがいいんだ。ものすごくクルクがいいんだ。顔のいい奴や性格のいい奴じゃなく、クルクがいいんだ。誰よりも好きなんだ。頼む。かなり重い気持ちかもしれないが、俺の気持ちを救ってほしい」

「…僕でよければ、お願いします」

「ああ…! ありがとう。絶対に幸せにしてみせるから!」


セルツァーの満面の笑みに、クルクはちゃんと言ってよかったと幸せな気持ちが胸に広がって笑顔になる。


「あわわっ」

「ははっ。嬉しい!」


嬉しすぎるセルツァーがクルクを勢いよく抱きしめた。いっそうに顔を赤くしたクルク。

次の日には、ウィンレイには何も言ってないのに知ってたかのように祝福される。それでリンメルにも知られる。

クルクはリンメルから遺産がもらえるように手続きしとくといいぞと言われると、そういうのは興味なくて側にいられればそれだけで十分だと答えたら。


「ふーん。まあ、あいつ男前だしな。人が側にいるのはいいもんな」

「うん…」


祝福されたようで、とても嬉しかったのは、セルツァーには内緒にしておこうと思った。
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