繊細な悪党

はるば草花

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呼ぶ人

呼ぶ人4ちっちゃい動物

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「チッ。見つかって逃げるようなことやるんじゃねえよ。おい、お前。こんなことよくあるのか?」


地面に倒れるクルクの腕をセルツァーが掴んで強引に引っ張りあげた。


「あ、ありがとうございます」

「礼なんていい。それでどうなんだ。よくあんのか」

「は、はい。まあ…」

曖昧な笑顔てクルクは答える。


「なんでだ。反論したのか」

「反論というか、何度か目立つつもりはないと言ったんですけど、僕がこの学校にいるだけで生意気なんだそうで。それじゃあどうしようもないですし、やめてほしいと言っても、生意気だってさらに悪化するだけで。あ、でも殴られたのはここでは初めてです。いつもは突き飛ばされたり鞄の中をばらまかれたりするくらいで。だから今日は会長に止めていただいて助かりました」

「…ものすごい色々気になるが、まずは怪我の手当が先か」

「え、でも、これくらい…」

「慣れてるとか言いそうだが、異論は認めない。ちょうど他に人はいないし、図書室行くか」

「え、あ、わわ」


今いる場所は一応人の少ない第2校舎の2階、廊下の隅なので、さらに人の来ない3階の隅にある図書室にクルクは押し込められる。

一旦セルツァーは図書室を出て、救護用の箱を持ってくる。


「え。自分でできます!」


セルツァーが貼り薬を準備しはじめたので、クルクは慌てて自分ですると言うがセルツァーは渡さない。


「…それも、慣れてるとか言うのか?」

「慣れてるっていうか経験があるというか…。あ、いたっ」

了承なく、クルクは頬に薬をぺたりと貼られた。


「フン。痛みにまで慣れてはいないか。どういうことか、なんて言いたくないか。まあ、この学校では初めてらしいから、それはひとまず置いておこう。それであんな目にあう原因は、お前がただの庶民だからか?」

「まあ…。そうですね。それに僕はその。知られているから、会長もそのうち知ると思うんですけど、僕は孤児院の人間なんです。それがどうもさらに気に入らないみたいで…」

「…出生がなんだろうと1人の人間なのにな」

「そういう考えのほうが珍しいですよ」

「実際、お前をいじめる奴らのほうが貴族であるのに醜い。自分達が何をしているか分かってないなんて馬鹿だろ。情けない話だ。俺としては、貴族のほうがよっぽど醜い奴が多いと思うがな」


醜い連中を思い浮かべてるのか、セルツァーは顔を歪ませる。


「…僕は貴族がどんな人達か詳しく知らないですけど、会長も貴族でしょう? それなら立派な貴族もいるということじゃないですか」

「お前な…」


呆れるセルツァーに、その意味が分からないクルクはきょとんとした顔をする。

クルクは自分のことは自虐とまでいかないまでも、怒る様子はないのに、セルツァーのことにフォローする。というか褒めてる。自覚がなさそうのでそれ以上なにか言いはしない。


「…とにかく、それが当たり前に行われている風潮は生徒のトップである俺の責任だな。悪かった」


貴族が庶民を蔑ろにするのはセルツァーも分かっていた。それを忌々しく思いつつ、そんなものだと放置していた。

いじめられて嫌なら反論すればいいと。

それが今自分が情けなく感じる。そう感じる理由はどうしてか、セルツァーははっきり言葉にすることができない。


「え! いえ、会長は少しも悪くないです。むしろちゃんと助けてくれる立派な方なんです。ああいうのは別に貴族でなくてもあるんですから、学校だけの風潮じゃないですよ。早くなくなったほうがいいですけど、簡単にはいかないでしょう。僕もどうしたらいいか分かりませんし」

「お前な…」


また呆れるセルツァー。また褒めたし、また気になる発言したし、トップの存在といじめられっ子では立場が違うのに一緒にしたし。これも自覚はないんだろう。けれどしっかりした考えをもっているのが分かる。


「気になることは色々あるが、まず、会長でなく名前を呼んでくれないか?」

「カリハルフィー様」

「いや、名前で」

「…セルツァー様?」

「様いらねえ」

「無理ですよ」

「無理じゃない。俺もお前をクルクと呼ぶ。…まあ、俺はかなり地位の高い家柄だからな。そう言わないわけにはいかないか。なら、2人だけの時くらいいいだろ。頼む。そう呼んでくれる奴は少ないんだ」

真剣な目でクルクを見るセルツァー。


「うー…。分かりました。2人だけの時だけですよ?」


きっとセルツァーも地位の高い貴族で、会長で、敬遠されていることが歯がゆかったに違いないと判断したクルクは自分だけでも、頑張って呼ぶことにした。


「よし、ならさっそく呼んでくれ」

「ええっ。うー、セ、セルツァー?」

「おう。なんだ?」

「呼べって言ったからだし」

「ははっ。そうだなクルク」

「うー」

「なんかちっちゃい動物がいっちょ前に威嚇してるみたいだな」

「えー…。なんだかうれしく感じられないんですが」

「ははっ、だろうな。褒めてない」


思わずセルツァーはクルクの髪を撫でる。クルクはむすっとした顔で少し頬を染めた。
その色の意味はどちらにも分からない。
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