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呼ぶ人
呼ぶ人2悩み
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講堂の裏で、1人の男が数人の男達に囲まれていた。
囲まれている男は縮こまっていたが、ふいに突き飛ばされて地面に倒れる。
「ちょっと頭いいからっていい気になんないでよね」
「あんたみたいなのが上位学部にいるなんてふさわしくないの。隅のほうで目立たないようにしてよ!」
「あはは、うぜー。もっと顔醜くしてやろうか?」
「もうすぐ授業始まるよ。お前、また目立つ行動したらもっと酷い目にあわせるからね」
周囲を囲んでいた男達は地面に倒れる男を放置してその場を離れていった。
地面に倒れていたクルクは、痛みに顔を歪ませながら立ち上がる。
「…何がいけないんだろ…」
目立つつもりはクルクにはない。むしろ地味に目立たないほうがいい。なのに、よく目立つなといじめられている。それは単純に弱い人間をいじめて自分の鬱憤をはらしたいというもので、クルクは弱そうで狙われやすいということなのだが、クルクは自分のどこかが悪いからだろうかと悩む。
自虐したいわけではないが、いじめの対象にならない方法がほしかった。
クルクは平凡な容姿であるが、学校の成績がよく、初等部から中等部に上がる頃に、教師の推薦で上位学部となっていて、高等部に上がった現在も成績は上位をキープしていた。
それがさらに貴族の生徒からすると気に入らないのだ。
クルクは学校から支給された服のほこりを叩き、近くにあった鞄をとって歩きだした。
向かったのは教室でなく図書室だ。
第2校舎の隅にある小さな図書室は滅多に生徒が来ない。
今日も誰もいなかった。図書委員もいない無人なのだ。
その部屋の、日のあたる席が、クルクのお気に入りで、そこに座った。
最近好んでいる著者の長編小説の本を開き読む。
クルクが通う図書室に人がほとんど来ない理由は、人の多い第1校舎に立派な図書室があり、この第2校舎は不便なせいもあるが、さぼりたい生徒もよりつかないのは理由がある。
夜中に魔物が出るという噂があるからだ。
噂だけでは気にしない生徒もいそうだし、昼間なら問題なさそうだが、好奇心旺盛な生徒が、たまに魔物が本当に出現するのか確かめることがあり、その生徒が恐怖体験をすること度々なので、誰も近寄らなくなったのだ。
そのことをクルクも知っているし、前は近寄らなかったが、いじめから逃げるのに、この図書室を選んだのだ。
外が暗くなり始めた頃、それにクルクは気づかず、夢中に本を読んでいた。
その時、鳴き声のようなものが部屋に響く。
それに気づいたクルクは本を閉じて辺りを見た。
「シェン」
そう、クルクが呼べば、影から一匹の獣が現れる。
「よしよし。ほら、お菓子持ってきたよ」
クリュクリュと鳴き、クルクに甘えるように体を押しつける獣。
誰が見ても、一般的な獣の姿ではない。大きさは犬くらいであるが、背にはドラゴンのような翼を持ち、毛色は全体が白銀で、部分的に金と黒。
「お前は魔物なの?」
クルクはがつがつとお菓子を食べているシェンと名付けた獣を見つめ呟く。
噂の原因はこの獣だろうと推測できる。ただ魔物であるかどうか、クルクには分からない。
悪いものには見えないのだ。それでも魔物かもしれない。そもそも魔物だからって悪い存在ばかりではないのかもしれない。
なんにせよ、上位学部で親しい者がいないクルクには癒しだった。
柔らかそうな毛を撫で微笑む。
「誰だ?」
「ひゃっ!」
突然の人の声にクルクは身体を跳ねさせた。
「生徒か? なぜこんな時間に………、な!それは…、噂の魔物か?」
何も言わないクルクに焦れた男が中へと入ってきてシェンの姿を見た。
「あ、あの、この子は別に悪いことは何もしてないんです。だからあの、誰にも言わないでください」
魔物だと思われればシェンは退治されるかもしれないとクルクは慌てて男にお願いする。
「お前…。それをかばっているのか?」
「本当に悪いことは一つもしてないんです」
「なるほどな…。たしかにそれは魔物じゃないからな。存在しているだけで退治対象になったりはしない」
「違うんですか? よかった…」
クルクはシェンを抱き締め安堵する。
「ただ、凶暴なら、退治されるかもしれないが」
「え! シェンはいい子です」
「そうか? 俺にはずいぶん威嚇しているようだが」
シェンは男には向かって牙を見せていた。
「え、シェン、駄目だよ?」
クルクが言えば、シェンは不満そうに口を閉じたが、男をじっと見ている。
囲まれている男は縮こまっていたが、ふいに突き飛ばされて地面に倒れる。
「ちょっと頭いいからっていい気になんないでよね」
「あんたみたいなのが上位学部にいるなんてふさわしくないの。隅のほうで目立たないようにしてよ!」
「あはは、うぜー。もっと顔醜くしてやろうか?」
「もうすぐ授業始まるよ。お前、また目立つ行動したらもっと酷い目にあわせるからね」
周囲を囲んでいた男達は地面に倒れる男を放置してその場を離れていった。
地面に倒れていたクルクは、痛みに顔を歪ませながら立ち上がる。
「…何がいけないんだろ…」
目立つつもりはクルクにはない。むしろ地味に目立たないほうがいい。なのに、よく目立つなといじめられている。それは単純に弱い人間をいじめて自分の鬱憤をはらしたいというもので、クルクは弱そうで狙われやすいということなのだが、クルクは自分のどこかが悪いからだろうかと悩む。
自虐したいわけではないが、いじめの対象にならない方法がほしかった。
クルクは平凡な容姿であるが、学校の成績がよく、初等部から中等部に上がる頃に、教師の推薦で上位学部となっていて、高等部に上がった現在も成績は上位をキープしていた。
それがさらに貴族の生徒からすると気に入らないのだ。
クルクは学校から支給された服のほこりを叩き、近くにあった鞄をとって歩きだした。
向かったのは教室でなく図書室だ。
第2校舎の隅にある小さな図書室は滅多に生徒が来ない。
今日も誰もいなかった。図書委員もいない無人なのだ。
その部屋の、日のあたる席が、クルクのお気に入りで、そこに座った。
最近好んでいる著者の長編小説の本を開き読む。
クルクが通う図書室に人がほとんど来ない理由は、人の多い第1校舎に立派な図書室があり、この第2校舎は不便なせいもあるが、さぼりたい生徒もよりつかないのは理由がある。
夜中に魔物が出るという噂があるからだ。
噂だけでは気にしない生徒もいそうだし、昼間なら問題なさそうだが、好奇心旺盛な生徒が、たまに魔物が本当に出現するのか確かめることがあり、その生徒が恐怖体験をすること度々なので、誰も近寄らなくなったのだ。
そのことをクルクも知っているし、前は近寄らなかったが、いじめから逃げるのに、この図書室を選んだのだ。
外が暗くなり始めた頃、それにクルクは気づかず、夢中に本を読んでいた。
その時、鳴き声のようなものが部屋に響く。
それに気づいたクルクは本を閉じて辺りを見た。
「シェン」
そう、クルクが呼べば、影から一匹の獣が現れる。
「よしよし。ほら、お菓子持ってきたよ」
クリュクリュと鳴き、クルクに甘えるように体を押しつける獣。
誰が見ても、一般的な獣の姿ではない。大きさは犬くらいであるが、背にはドラゴンのような翼を持ち、毛色は全体が白銀で、部分的に金と黒。
「お前は魔物なの?」
クルクはがつがつとお菓子を食べているシェンと名付けた獣を見つめ呟く。
噂の原因はこの獣だろうと推測できる。ただ魔物であるかどうか、クルクには分からない。
悪いものには見えないのだ。それでも魔物かもしれない。そもそも魔物だからって悪い存在ばかりではないのかもしれない。
なんにせよ、上位学部で親しい者がいないクルクには癒しだった。
柔らかそうな毛を撫で微笑む。
「誰だ?」
「ひゃっ!」
突然の人の声にクルクは身体を跳ねさせた。
「生徒か? なぜこんな時間に………、な!それは…、噂の魔物か?」
何も言わないクルクに焦れた男が中へと入ってきてシェンの姿を見た。
「あ、あの、この子は別に悪いことは何もしてないんです。だからあの、誰にも言わないでください」
魔物だと思われればシェンは退治されるかもしれないとクルクは慌てて男にお願いする。
「お前…。それをかばっているのか?」
「本当に悪いことは一つもしてないんです」
「なるほどな…。たしかにそれは魔物じゃないからな。存在しているだけで退治対象になったりはしない」
「違うんですか? よかった…」
クルクはシェンを抱き締め安堵する。
「ただ、凶暴なら、退治されるかもしれないが」
「え! シェンはいい子です」
「そうか? 俺にはずいぶん威嚇しているようだが」
シェンは男には向かって牙を見せていた。
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クルクが言えば、シェンは不満そうに口を閉じたが、男をじっと見ている。
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