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バルファ旅行記すりー前編
すりー前編11
しおりを挟む「ん? そんな興味あるなら、ここでじっくり…。おっと過激な坊ちゃん達だな」
誠那が一瞬にして男の前に抜いた短剣を突き出した。
「…しょうがねえな。簡単にいえば拾っただけだ。どこかのお嬢ちゃんが捨てたんじゃないか? 見つけた時にはすでにやせ細っていてな。きっと野生での生き方を知らなかったんだろ」
「…そうか…。…オミ、俺はちょっと…」
短剣をしまった誠那は振り返り申し訳なさそうな顔をする。ラルクスの話を詳しく聞きたいんだろうな。
「いや、俺も一緒にいる。俺もラルクスは気になってしかたない」
「悪い…」
「おっ! 一緒にいてくれる気になったってことだな。そりゃいい。おい、お前らそこ開けろ」
「えぇー。シバルの旦那、そりゃない」
「うっせ。こんな美人を近くで拝めるのも俺のおかげだろうが」
シバルと呼ばれた男と同じ席だった荒くれ達は渋々席をはずしたので、俺達は遠慮なくそこに座る。
「おー、すげー眺め。そこらの花街とか目じゃねえな。よし、なんでも頼め。俺の奢りだ」
「…いや、」
「そのラルクス後で触らせてくれるか?」
「オミ?!」
真面目な誠那は奢るってのを断ろうとしていたが、くれるっつーもんはもらっていいと思う。タダじゃなくて目の保養させてるし。
「おう。いくらでもいいぞ。俺の言うことなら聞くしな」
「なら、いい。それじゃあ、オススメ頼む。かなり腹減ってんだ。あ、酒はいらないぞ」
「そっちはいいノリだ。よっしゃ、お前ら美人にうまいもん持ってこーい!」
わははと上機嫌な男が周囲に命令し、荒くれた男達は楽しそうに従った。
「なあ、あんたの名前はシバルでいいのか?」
「おう。そっちはオミだな。もう1人は?」
「…セイナだ」
「どっちも可愛い名前だ」
美人に続き可愛い発言に誠那はまた眉間を寄せる。風紀委員長はそういうふうにからかわれることが少なかったんだろうな。
思ったより早く料理が運ばれてきて驚くが、気にせず食べることにした。肉がどーんとか盛りつけが豪快なものばかりだ。
「うまい」
「そりゃよかった」
「で、そのラルクスは拾ってあげたシバルに懐いてんのか?」
果実酒だろうお酒をシバルのコップにそそいでやりながら話を聞く。
「おう。ありがてえ。そうだな。ラルクスは飼いやすいもんだ。従順で大人しいし、エサ代かからないし、さっきのように認めた人間のことは必死に守ろうとするし、人気が高いのも頷ける。それなのに捨てるなんて金持ちなんて馬鹿だな」
「金持ちを馬鹿と同意するわけにもいかないが、捨てるなんて馬鹿だとは思う。これもうまっ。セイナも食ってみ」
怖い顔が変わらない誠那にも揚げ団子を勧める。
「ああ…。…うまい」
「よかった」
「わはは、もっと食え。俺はセイナのほうが好みだぞ」
シバルの言葉に誠那が再びすごい表情になったが、テーブルの上で果実を食べているラルクスを見て気持ちを落ち着かせたようだ。
「なら。ラルクスを救ってくれて感謝する」
ラルクスの為だろう。誠那がシバルにお酒をついであげた。大満足そうな顔のシバルは少し腹立たしい。
「ラルクスに思い入れでもあんのか?」
「ああ、家の近くにいっぱいいてな。懐いてくれている」
家っていうのは王城のことな。俺のバルファの居場所ってそこしかないし。
「へえ。野生は懐かないって聞くぞ?」
「悪い奴から救った英雄だからだ」
「そうか。それなら、」
「うおっ」
シバルがラルクスの首根っこを掴まえ俺のほうにラルクスを放り投げてきた。もちろん俺はしっかりキャッチする。
ラルクスは始め何が起きたか分からないでいたが、抱えているのが俺と知り、じっと顔を見てきた後、顔を身体に寄せてきた。
「へー。本当にラルクスと仲いいんだな」
「これで判定できたことになるのか?」
シバルのいうこと聞いてるだけなのでは?
「命令でそんなふうに懐いたりしない。きっとオミについている他のラルクスの匂いに気づいたんだろう」
誠那の説明で納得した。
あれ?そうなると…。俺はラルクスを誠那に渡してみる。
ラルクスはきょとんとしたが、新しい人間が何者か確認するように匂いを嗅いで、すぐに俺にしていたよりもめっちゃ身体を誠那に寄せている。ちょっと嫉妬するが、当然だろう。同じ仲間なんだから。
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