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バルファ旅行記すりー前編
すりー前編9
しおりを挟む「………そうか…」
誠那は何か言いたそうだが言わないようだ。
「よし。ちょっと仕事もらってくる」
「は?」
「俺は金がないからな。仕事もらう。木彫り一個分くらいなら1日で稼げるよな?」
「待て待て。それなら俺が後で落ちついてから、買いにくるから、今はやめろ」
「しかし、お前にはすでに世話になっているしな」
今まで世話になってる分を返すのもバイトが必要かと考えてるんだが。
「…分かった。それなら後で仕事は見つけてやる。ここじゃ余所者は足下見られるだけだ」
「む。そうか…。しかし…」
どうしても今、あの木彫りの人形が欲しい。
定番土産だから、なくなりはしないのだろうが、後で来て売り切れていたら後悔しそうだ。とはいえバルファの土産はたくさんあるだろう。これだけじゃない。これ1つにそこまでこだわる必要があるか?
そもそも、今は緊急事態なんだ。悠長に土産の為に1日を費やす訳にはいかないだろう。
大丈夫、土産はこれだけじゃない。我慢だ俺。我が儘はダメだ。
「…そうだな。…悪い。今はいち早く帰ることを考えないとな」
「ああ。…お前のバルファ愛は分かっている。そこは謝ることはないさ」
かなり安心しているな誠那。そんなにここで仕事するのは危険なんだろうか?やっぱり俺がむちゃ言い過ぎたかな?
土産を諦めた後は今日の宿を探す。巡礼者が多いので宿もたくさんあるんだが、荒い雰囲気の宿が多い。泊まって朝起きたら身ぐるみはがされ捨てられてるとか、ありそうな気がしてしまう。
誠那もそう考えているから適当な宿に行かないのだろう。巡礼者はよく平気で泊まるものだと思うが、きっと何度か泊まってるとか、知り合いに聞いた宿だったりするんだろう。
街はちょうど巡礼の道を真ん中に栄えていて、俺達もそこを進んで歩く。けっこう大きな街のようだ。荒んだ雰囲気だけど。
「なあ、セイナ。巡礼者達の格好は巡礼者特有なのか?」
巡礼者らしき人々はけっこう歩いている。だいたい質素な服で、さらに大きな布を身体に巻き付けている。
「そうでもない。旅をするのに都合がいいからああしている。ただ、長くそうしてきたから、それが巡礼スタイルだと思ってる人も多いな。それでも決まりじゃないから、そうしない者もいる。裕福な者になるとまずあれはないな」
使い古されたような布切れを裕福な者は身につけそうにないよな。
「あそこにするか」
「おお。けっこう疲れてきたからよかった」
誠那が見つけた宿はそれなりの大きさの宿で、金持ちが泊まりそうである。ただ、やはり荒れた雰囲気があるが、それはしかたないんだろうか?
中に入ると料理屋もしているようで、巡礼者や地元民が騒がしく会話をしながら食事をしていた。
「泊まりたいんだが、空いているか?」
「お2人ですか? えーと、ああ、ちょうど2人なら。少しお高い部屋ですが大丈夫でしょうか?」
「問題ない。できればいい部屋がよかった」
「それはよかった。ではご案内しましょう」
誠那が交渉して部屋があったようでよかった。案内された部屋は言っていたようにいい部屋のようで、2人で使うには広いんじゃないだろうか。
すぐお茶が運ばれてきたので座って落ち着く。
「疲れた…」
「そうだな。あまり休んでいる間もなかった。ここが安全でとくに問題ないなら何日か泊まっていくか。ここまでいい部屋はこの先あるか分からないし」
「…ここまでいい部屋は滅多にないのに、安全じゃないかもしれないのか?」
「荒れた場所だからな。客を失っても得るものがあれば、あっさり裏切るんじゃないか? だが安心していい。対策はたてるからゆっくり眠れる。そうだ。さっき買ったこれを持っていろよ」
「…なんだ?」
さっき道具屋で買った魔法具を投げて渡してきた。指輪で深い青の宝石がついている。
「守りの石、といった感じだな」
「…それって微妙に防御力の上がる?」
防御+1とか。
違ったようで誠那は首を振る。
「これは子供など弱い者に渡すことが多いが、利用方法は色々ある。効果は周囲に近づく悪意を感知して知らせてくれる。同時に対の魔法具にもその状況を伝えるんだ」
「防犯用みたいだな」
「そうだな。そういう扱いが多いが、オミは撃退がしやすくなっていいだろ? 俺も持っているから、お互いに分かる」
「なるほど…」
助け合うことにもいいわけか。
「相棒っぽい」
「ああ。ただ、感知は完璧とはいえない。はっきり分かりやすい悪意なら確実なんだが、わかりにくい場合もあるし、目の前で突然悪意をもたれて感知しても遅いしな」
「それでも助かる。誰もが悪人かと疑っていくのは俺には無理だしな」
俺は悪人を見分ける自信はない。うちの学園に少ないがいる不良みたいに分かりやすいといいんだが。
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