バルファ旅行記

はるば草花

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バルファ旅行記つー

つー13

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「だが、こいつらは獣感覚でいいのか?お前と一緒だとすると接し方を考えないといけないが」


俺達の周りで漂っているラルクスのじゃれてくる姿は犬猫を彷彿とさせるが。


「ああ、この子らは普通の獣よりも繊細で頭がいいが、思考が人とは違う。これまでどおり可愛がってあげてくれ」

「ならよかった。もふもふしたいからな」


誠那からはラルクス達が大事なんだという溺愛ぶりが感じられ微笑ましい。
この子らと誠那の違いは、猫と猫又みたいな感じかな。同族だけど別物。

それからメリルとラルクス達にたっぷりじゃれつかれ、ほどなく準備が出来たと呼ばれて、魔法陣からもとの世界へと帰った。


「おお。分かってたことだが、ちゃんと戻ってくるとか神秘だな」


自分の部屋に瞬時に帰れるとか凄い。
持ち帰る許可の出た、貰った魔法具を眺める。顔がかなり緩んでいることだろう。

これってつまり、これからもバルファに何度でも行けるということを証明しているってことだぞ!凄すぎだろ。

1時間も緩んだ顔でいた俺だが、重要なことがずっと胸をもやもやさせていた。

魔法具眺めてばかりなのは現実逃避していたからかもしれない。

決心した俺は、隣の部屋へと行く。


「セイナ。聞きたいことがあるんだ」


隣は風紀委員長の部屋だ。

こうしてあっさりと中に入れてくれたってことは、さっきのは似た別人でなく本当に誠那で、一緒にいたんだな。


「ああ。なんだ」


俺が真剣な顔をしているからか、誠那の顔も堅い。


「セイナは俺が小さい頃に会ったラルクスなのか?」

「……は?」


あれ?誠那の顔が間抜けになった。それでも男前さは崩れてない。さすがだな。


「それは…、どういう意味だ?」


今度は疲れたような顔になっている。別に俺が何か言ったわけでもないのに何があった。


「そのままの意味だ。俺はこの学園で初等部の頃に、ラルクスを見たことがあるんだ。…お前、だろ?」


それとも他にいるのか?誠那のパパんママんだとか。記憶では授業参観の日ではなかったはずだが。


「そうか…、見られてたとはな。俺も小さかったから獣姿のほうが楽だったんだ」

「……セイナ、だったんだな」

「ああ…」


俺の様子に誠那は困惑する。そりゃいきなり知り合いが感動しだしたら驚くよな。


「会いたかった…」


感動すぎて誠那に抱きつく。身体がびくっとしたが無視してくっつく。

あー、やっと会えた。
もう離さないというようにぎゅっと抱きしめる。


「お、おい。どういうことか説明してくれ」


焦ったような困惑するような誠那の声。……まあ、そうだよな。

少し落ち着いた俺は少々物足りなさを感じつつも、誠那から離れてソファーに座った。

そして俺がいかに出会ったラルクスに再び会いたかったのかを話した。


「そういうことだったんだな。オミがバルファを好きだとは知っていたが」

「ん。で、だ」


本題だ。うずうずしている。


「ん?」

「ラ、ラルクスの獣姿?というのを見てみたい」


手がわきわきしてくる。もふもふ。誠那が引き気味だが、とにかく見せろ。


「いいが…」


ん?迷ってる?困ってる、か?


「これまでどおりの関係なんだよな?」

「それは無理だな」

「は?しかしさっき…」

「お前が、あのラルクスと知ったからには、目を輝かせて見てしまうことがあるだろう」

「……それもちょっと困るが、………まあ、いい」

「さすが男前!さあ、早く見せてくれ俺の愛するもふもふ」

「変になってるぞ」


微妙な目の誠那。わざわざ伝える必要はないんだ。自覚してるから。

諦めたのか、小さく溜息をついた誠那は立ち上がって、少し離れた。

なんでだ?もふもふされたくないのか!と悲しく思ったが、違ったようだ。

もやりと空間が歪んだかと思ったら、でかいラルクスが現れた。


「え、ラルクス?」

「ああ。力の大きさが多少なり獣姿に影響が出る。これを見ると同じラルクスでも違いがあるのが分かるだろう?」

「しゃべった!」


ちょっとでかいけど、確かにラルクスが喋るなんてファンタジーだな。思ってたより違和感を感じる。誠那の声であることも余計にそう感じさせるな。

昔は普通のラルクスサイズだったが、あれは小さい年齢のわりにでかくて普通の大人サイズだったというわけか。

とにかく声からするに誠那であることは明白なわけで。


「触ってもいいよな?」

「あ、ああ…」


迫る俺の圧力に戸惑う声が聞こえるが構わず、がばりと抱きついた。
勢いつけたのに、身体が傾くことはなかった。でかくて逞しいなおい。

さらに両腕をがっぷり、でかラルクスの身体に回して抱きしめ、頬をあてて、もふもふを堪能する。くはっ。もふもふ~。

誠那は若干戸惑う気配がするも嫌がることはなく、たっぷり堪能させてもらった。


「ありがとな、セイナ。そしてこれからもよろしく」


心残りがなくなって、これからは純粋にバルファを探訪できる。次行くのが楽しみだ。
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