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第10話 放課後ビーティング
しおりを挟む生徒会選挙も近づき、そろそろ俺のやる雑用もなくなりつつある休み明けの月曜日である。
後援の人とは一度顔を合わせたきり、それ以来は会っていない。ほんとに応援する気があるのか甚だ疑問であるが、あえて突っ込まないことにしようではないか。
空き教室には俺と猫村先輩の二人。相変わらずだ。
随分と日も長くなってきて、夕方と言えども蒸し暑さがいい感じに鬱陶しくなってくる。夏服の薄い半そでシャツが汗で引っ付いて、「猫村先輩って意外と巨乳なんだな」と思ったものである。
なんてしょうもないことを考えつつ、最終下校時刻のチャイムの残響の耳を傾ける。
やることもないし、この時間まで俺がいる必要があるのか?という疑問は置いといて、はてさて猫村先輩の『帰りましょう』が聞こえてこないではないか。
「あの、猫村先輩」
この一週間ほどで事務的な会話をしたからか、猫村先輩の名前は割と滑らかに呼べるようにはなった。
なお、名前を呼ぶだけで会話は別問題である。
「猫村先輩?」
返事のない猫村先輩をもう一度呼ぶが、やはり返事はない。
なになに、どうしたの……。
重たい腰を上げて猫村先輩の座る席へと向かう。
Ah……
すぅすぅ
とも聞こえてこない小さな寝息を立て、机に腕枕をして寝ている猫村先輩を見つける。
アニメやラノベによくありがちな、黙っていたら可愛いのに。というのはまさしくこんな感じで、不意にも女の子の寝顔にドキッとしてしまったことは言うまでもない。
起こすべきか?
一つの疑問が頭に思い浮かぶ。
いや、確実に起こすべきだろうが、しかしどうやって?些細な疑問に普段使わない頭を回転させる。
パターン1。体をゆすって起こす。
……。
いや、無理だろ。女子の身体に触るとか100%無理。猫村先輩が起きた時に叫ばれでもしたらもう学校来れないし。
パターン2。叫ぶ。
声…出るか?姉ちゃん以外とろくに会話してこなかったこの喉で声が出るとは思わない。うん、無理。
考え始めて1分足らずですべての選択肢を否定し、気持ちよさそうに眠る猫村先輩の前に呆然と立ち尽くす。
とりあえず…トイレでも行くか……。
迷ったらトイレ。これぞまさしく王道である。
別にトイレがしたいとか、そういう理由で使われることは滅多にない。ただ、あの閉鎖的な空間が他人から守ってくれているようで何とも居心地がいいのだ。
トイレがボッチの逃げ処ナンバー1とも唄われる所以なのだろう。
なんてボッチ論を考えながら、教室を出て夕焼けの差し込む廊下へと出る。
行きたくもないトイレに行かざるを得ないわけだが、かく言う俺も別にトイレが嫌いなわけではない。どこかから聞こえてくる吹奏楽の音はさぞかし青春を謳歌していることだろう。
( ˘ ω ˘ )
トイレを出て教室へと戻る。
起きてたらいいな。なんて考えつつ教室のドアを開くが、案の定起きてはいない。
「はぁ……」
小さく溜息をついて猫村先輩の前に立つ。
さて、どうするか……。
「んっ」
!?
「オモチ?」
お…お餅?
「ふっ…くぅっ……」
謎の言葉に続いて猫村先輩が大きく腕を伸ばす。
自主的に起きて頂き何よりでございます。しかし目の前に俺がいたらやばいのでは……
「……」
「……」
なんて考えるのは既に遅く、寝起きの猫村先輩と無言で見つめ合う。
やばい、なんて言い訳しよう……。
「帰りましょうか?」
「あ……そうですね」
猫村先輩は特に言及することもなく、少し不思議そうな顔をしていつも通りの言葉を俺に掛けた。
まぁ当たり前と言えば当たり前の話である。世の中の女の子にとって、俺のことなど眼中にあるわけがない。
鞄を持ち、教室の電気を消す。
この教室に来るのもあと僅かである。
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