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第十一話・決別しよう2

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それからあっという間だった。

ナタリー達の裸に近い格好に惑わされ戦意を失うどころか、闘志を燃やしたロイドは力で彼女たちをねじ伏せた。
彼に迷いはなかった。冷静に、だけど力強く攻めていく。

私はそれに驚きつつも、連携を組みなおし彼女たちを追い詰めていく。勝負はすぐに決した。

「な、なんで……」

女冒険者たちを退けてきた騎士団が追いつき、ナタリー達を拘束する。
両手を縛られながら、ナタリーはロイドと私を睨みつける。

「どうして邪魔をするのよ!あんたなんか雄として終わってる劣等種のくせに!」

「……」

「ねぇ!あんたもなんでロイドと一緒にいるのよ!そいつの見たことある?小指よあんなの!」

「それがなにか?」

あまりにも言いたい放題なナタリーがムカついたので私はそう言い返す。私も彼女たちに言いたいことがあるからだ。

「彼は素敵な人よ?見ず知らずの子供が魔物に襲われているところを、ボロボロなのに身を挺してその子の盾になるくらい真っ直ぐで、自分のために利用しているだけに過ぎない愚かな私にお礼を言ってしまうくらい心がきれいな方…そんな方を、どうしてたかが男性器の大きさなどで捨ててしまったの?…あぁ失礼、あなた方にとってそこが男性を選ぶのに重要でしたっけ?ごめんなさい、私人間ですのであなた方メス豚の気持ちなんて分かりませんの」

「はぁ!?」

そう言いつつ持っていた扇子で口元を隠す。お、今の悪役令嬢っぽいな私。
まぁそんな感じで見降ろしていると、ナタリーは顔を真っ赤にして震えていた。

「なによっ!そいつは元々私の恋人だったのよ!?あんたがどう思おうが、そいつは」

「黙れ」

ナタリーがわめいていると、それを遮るようにロイドが私の前に出た。
その時、見えてしまった。優しいはずの彼の鋭く、冷たい視線を。

「今まで、領主にされていたことを気付かなかったオレにも非はあるかもしれない。だけど今はそんなこと関係ない。自分の快楽のために他人を平気で傷つける恋人なんかいらない」

「ロイ、ド?」

こんなに冷たく言い放つ彼は見たことがない。それは彼女達も同じだろう。この中で一番付き合いの長いナタリーですら戸惑い、怯えるほどだ。

「ど、どうしたのよそんな怖い顔して、あ、もしかしてヤキモチ?しょうがないわね、入れるのは無しだけど口でなら…」

「いるかよそんなの」

ナタリーはひきつった笑みでロイドに媚びを売ろうとしたが、それは本人に一蹴された。

「お前たちが王都を襲ったとなれば、冒険ギルドの信用もなくなって、迷惑どころの騒ぎじゃなくなるんだ。それに故郷の村のことだって、村の出身のものが国家転覆に加担したと噂されて、村の人たちが世間から白い目で見られるんだぞ」

彼の言う通りだ。邪教を倒したことによりロイドやナタリー、キャロにミモザは王都でも勇者のように賞賛されているから、顔は知れ渡っているし、今や看板のようなものになっている。

そんな彼女たちが、成功しようが失敗しようが王都への侵略行為に手を貸したとなると、名声は一気に悪名へとなるだろう。
出身地だってギルドに登録されているのだから、すぐにばれてしまう。

「村だけじゃない、キャロやミモザだってそうだ。お前ら獣人やエルフの評判だって風評被害を受けることになるんだ。他でもないお前たちのせいで」

「そ、それは……」

「うぅっ……」

そうなる事を考えていなかったのか、キャロもミモザも気まずそうに顔をそむける。

「分かるか?お前たちはオレだけじゃない。ギルドの、故郷の皆を裏切ったんだ」

シン…と三人は黙り込む。私自身、彼がこんなに厳しく言う所なんて初めて見た。ゲームではあまり話さないタイプの主人公だったのに。

「…昔のお前たちはそんな奴らじゃなかった。だけどもうお前たちはオレの知っている仲間じゃない。じゃあな、裏切者のクソビッチども」

最後にそれだけ言うと、ロイドは三人に背を向けた。

「ろ……ロイド…?」

ナタリーが絞り出すように名を呼ぶが、彼は振り向かない。

「お兄ちゃん?」

キャロが呆然としたまま呼ぶ。だけど彼は返事をしない。

「ロイドさん?」

ミモザが震えた声で呼ぶ。それでも彼は何のリアクションも返さなかった。

「大丈夫かソフィア」

「え、えぇ、大したことありませんわ。騎士団の回復術士の方が治してくださいましたから」

「そっか、よかった」

「ロイド、ねぇロイドったら!」

ナタリーがもう一度呼ぶが反応しない。無視を決め込むようだ。
もはや哀れに思えるくらい彼女たちはロイドを呼ぶが、もう彼は彼女たちの声に耳を貸さず、私にいつもの優しい顔を見せてくれた。

「ソフィア、無事だったか」

「お兄様!」

ちょうどそこへエリオたちも合流してきた。女冒険者たちも全員、捕縛されたらしい。
その中にシャルロッテ様や、見知らぬエルフと狼の獣人の女性がいた。もしかしたらグレンやガルフの関係者かもしれない。

「女冒険者たちは全員捕まえたが、セルドの奴がどこにもいねぇ」

「隠れるのは得意なようだね…混乱に乗じて逃げたようだ」

「とりあえず、全員無事でよかったです」

セルドを取り逃がしたが、まだそう遠くへは行ってないはずだ。
すぐに追いかけようとしたその時、ドォ…ンと地響きが聞こえた。

「っ、なんだ!?」

揺れはすぐに収まり、何事かと窓の外を見ると、ここから遠く離れた森から、黒い光が一筋の柱のように発生しているのが見えた。

「あれって…まさか悪魔の魔石か!?」

もしかしたらあそこにセルドがいて、悪魔の魔石を使ったのかもしれない。

私たちは女冒険者たちを騎士団に任せ、急いでその場へと向かった。

その間、最後までロイドは、ずっと彼の名前を呼んでいる彼女たちに一瞥することもなかった。
  
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