聖女に転生した性悪女

クラッベ

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一話

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私は美人で、だれからも愛される女だ。

学生の頃からなんでも男たちが欲しいものを買ってくれたし、行きたいところに連れてってくれてチヤホヤしてくれた。

周りのブス共の僻みが心地よくて、いつも学校で顔のいい男を隣に侍らせていた。
私は注目されるべき存在なの、みんなが私に羨望のまなざしを向ける。それが私の幸せだった。

だけどそれは長く続かなかった。私がアラサーになることには大人の女性になったからか皆が気軽に声をかけづらくなったみたいで、私が頼んでも遊びに連れて行ってくれなくなったし、バッグも何も買ってくれなくなった。

そんなある日の事、たまたま覗いていたSNSで、高校の頃付き合ってた男子が、私よりも地味でブスな女と結婚したという書き込みを見かけた。

それが信じられなくて、許可なく私の男と付き合ってるブス女に制裁を加えようと家を飛び出した矢先…私は車にはねられてしまったのだ。

******

そして気が付いたら私は、知らない美しい女になっていた。
この姿を私は知っている。前世ではまっていた乙女ゲームのヒロインの姿だったからだ!

そっか!ブスに貶められた私を神様が憐れんでくれたのね!

大好きだったゲームの世界のヒロインとして生まれ変わった私はこれから、この国の聖女としてイケメンの王子様達に愛されるのね!
前世の日本じゃ味わえないような贅沢が出来て、皆が私を聖女として、この国の救世主として崇め、奉る。なんてすばらしいの!

それからというもの私はゲームでの知識を基に舞台となる学園に入学し、攻略対象となる王子様達に近づいた。
彼らは現実でもイケメンで、私の事を愛してくれた。王子の他に騎士や宰相、商人の息子たちも私をお姫様として扱ってくれた。

これよ!これこそが私にふさわしい扱いなのよ!

だけどそんな私の生活を脅かす女が現れたの。悪役令嬢であ、あいつが…

ゲームではヒロインに嫉妬していじわるして、そこへ王子様達が助けに入るイベントが発生するんだけど…どういうわけかあいつはイベント通りにやってくれない。
いつも攻略対象の誰かと二人だけでいると「婚約者のいる方とそんなに親しくするのはよくない」とか「淑女としてそんな立ち振る舞いはよくない」って言ってくるの。うるさいわね、私は美しくて何よりも尊い聖女なんだから、このくらいの事がなんだっていうのよ!

ムカつくし、あいつがちゃんとイベント起こさないと王子様達とのハッピーエンドを迎えられないんだから、私は自分でいじめの証拠を作ることにした。

ノートを破いたり自分で噴水に飛び込んだりと苦労したけど、悪役令嬢がやったって王子様達に泣きついたらみーんな信じてくれた。
ふふっ、ブサイクの分際で私にたてつくからいけないのよ。

そうしていく内に時間は進んで、待ちに待った断罪イベントが始まった。

王子様を筆頭にイケメンたちが私を守るように取り囲んで、悪役令嬢に婚約破棄と国外追放を言い渡す。

ざまぁみなさい!目障りなあんたはもう終わり!これから私は王子様達に愛されて、国民から、いや全世界から注目を集めるの!

そう、私がこれからのことに思いを馳せている時だった。

悪役令嬢が、私が自分でいじめの現場を自作自演している証拠をつきつけてきやがった。なによ!あんたがゲーム通りにイベントを起こさないから悪いっていうのに文句あるわけ!?

それから王子様達が私にプレゼントをするために国家予算に手を出したり、悪役令嬢を貶めるためにいろいろと画策したことが露見されていき、気が付けば断罪されたのは悪役令嬢じゃなくて私達の方になっていた。

なんでよ!私は何も悪くない!あいつらがやったのよ!
やめて!こんな展開なんて認めない!そんな目で見ないで!そんな目で私に注目しないで!

私は王子様達を押しのけて悪役令嬢のそばで、あいつと親密になっている男に近づいて私を助けるように頼んだ。

私を貶めた慰謝料としてこの男を貰ってあげる。こいつは隣国の王子らしいからちょうどいいわ。選ばれるのはいつも私なんだから。

だけどそいつは冷たい目で私を拒絶した。「キミのような品のない女はごめんだよ」ですって!?脳みそ腐ってるの!?私以上に気品溢れる淑女はどこにもいないでしょ!?

私の主張なんて誰も聞いてくれず、廃嫡された王子様達と一緒に連れていかれた。

それから私は王子様達と別々のところに閉じ込められそうになったけど、隙をついて何とか逃げ出した。私はこんなところで死んでいい女じゃないのよ!

…そこまではよかったんだけど、それで私は指名手配され、どこに行っても軽蔑のまなざしを向けられる。

やめてよ…そんな目で私に注目しないで。

あれほど欲しかった注目の眼差しが今は恐ろしく感じる。
人目を避けていく内に私は森の中で彷徨って、最終的には力尽きて倒れてしまった。もう一歩も動けない。

風の噂で、本来だったらこうなるはずだった悪役令嬢が隣国で王妃となったというのを聞いた。拾った新聞に写っている彼女は幸せそうで、人々から祝福されて笑っていた。

…どうしてこうなったんだろう。本当ならこの幸せをつかむのは私だったのに。
もういくら考えても分からない。何も見たくない私はそのまま目を閉じた。
 
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