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18.腹が減っては・・

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 王都中から集められた物資を持ち、ご令嬢五人と共に戦地へ赴くことになったのは良いものの。

 新聞の効果もあって、持ちきれないほどの荷物が集められ、資金も沢山集まった。

「余ったお金については、戦で怪我をした方、名誉の戦死を遂げられた方への補償やお見舞いに出来ませんか?」

 リリアの申し出により、残分が出た場合、戦後の補償に使われることに決定した。

「やはり、リリア様は、立派な方ですわ」

「ええ、わたくしなど、余った物資をどうするかで、しばらく悩みそうですもの……」

 同行したご令嬢は、カミラ嬢をはじめとして、全員、騎士を婚約者に持つものたちだった。

 ご令嬢たちはそれなりに恋愛をしていたらしく、恋人を心配していたらしい。―――というより、恋人と幸せになりたいという私利私欲から、リリアに皇后を押しつけるという暴挙に至っている訳だが、本人達は、あっけらかんとしている。



『あら、わたくしたち、女ですもの。恋のためでしたら、国の一つや二つ滅んでも構いませんわ。あ、でも、リリア様のことは全面的に応援いたしましてよ!』

 

 リリアは、反論する気を失った。そして、護衛に付いたのが『戦場を駆ける獅子』の異名をもつ、我が国の軍神、ウィレムス公である。

 長男も、ウキウキと『この年で初陣って、凄いよねぇ』と言いながら、戦装束を身につけているわけだが、どう見ても、護衛というレベルの軍装ではなかった。―――が、これはリリアも見ないことにした。気にしない。ご令嬢たちに怪我をさせるより、かなりマシなはずである。

 さて、強固な護衛を付けたリリアたち一行は、街道沿いで熱烈な歓迎を浴び続けながら、戦場へ向かわなければならなかったのである。

「皇后陛下! お気を付けて下さい!」

「皇后陛下万歳!」

「帝国に幸あれ!」

 口々に叫び、歓喜の表情を浮かべる彼らも、慎ましやかな日々の生活くらしの中から、物資を提供したものたちである。それを思えば無碍にも出来ず、やんわりと微笑んで、手を振り返すというのを王都から、戦場までずっと続けていなければならなかった。

「……わたくし、ちょっとおもいますけど」

 同道の馬車の中、小さな声で、令嬢の一人が呟く。

「……リリア様は、本当に、皇后に適した方だと思いますわ。わたくしなら、こんなことは出来ませんもの」

「ええ。ご自分のことより、民や皇帝陛下のことを最優先に考える方ですものね。本当に、頭が上がりませんわ」

 最近、リリアは、反論が出来なくなってきた。





 戦地の陣営に、リリアたち一行が到着すると、途端に戦場が大歓声に包まれた。

 敵方が、その大歓声を奇襲攻撃と勘違いして戦場に出てくるというハプニングもあったが、リリアたち一行は、諸手を挙げて迎えられた。

「皇后陛下っ!!」

「まさか、こんな所に来て下さるなんて!!」

 感涙にむせび泣くものたちはともかくとして、ウィレムス公には皇帝陛下に戦況の確認に行って貰う傍ら、リリアはガルシア卿と連携を取って、けが人の状況などの確認、物資の運搬などを指示して回る。

 ご令嬢たちは、各自、自分の婚約者が無事と知ると、速やかにリリアについて回った。

「リリア様、如何なさいますか? このまま、物資だけを置いて帰ることも出来ますが」

 そう問うたカミラ嬢の言葉を、一度、リリアは頭の中で反芻する。

 ガルシア卿と確認した結果、けが人が割と多い。治療が足りていないようだった。それと、衛生状態が低下している。食事の様子も難しそうだった。

「皆様には、けが人のお世話をお願いします。ウィレムス公家からのものたちは、食事の用意を。……戦が長引いていて、敵陣営も疲弊しているところに、炊事の煙が立つのを見れば、あちらも戦う気がなくなるでしょう」

 とリリアは告げる。

 昔、大家と喧嘩になったことがあった。大家の息子が、リリアに手を出そうとしたのを返り討ちにしたのだ。だが、大家は腹いせに、家賃を五倍に引き上げると言った。それで、リリアは殴り込みに行こうと思ったが、大家の家から、美味しそうな食事の薫りが漂ってきて、殴り込みに行く気が削がれてしまったのを思い出す。結局、町うちにあったその貸家は引き払って、今住む掘っ立て小屋に移ったのだが、自分がひもじいとき、相手がたらふく食事をして居るというのは、存外惨めな気分になるのだ。

「な、るほど……それは、思いつきませんでした。では、当家は、盛大に食事の用意を致しましょう」

 と去っていったのは、ウィレムス公家の長男。リリアに取っては『兄』だが、何と呼んで良いものか、今もリリアは解っていない。

「私は、皇帝陛下の元へ参ります」

 リリアが告げると、「そうなさいませ」と一堂が一斉に頷く。

 ガルシア卿も「どーかお願いします」と手を合わせているので、なんとなく、離れていた間、皇帝陛下が荒れていたのだろうと推測出来た。




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