11 / 23
10.新聞記者と埋められていく外堀
しおりを挟む薄衣一枚で寝所に仕えていた娘……というのが大々的に宣伝されるというわけか!
それは、避けたい。
さすがに、そんな、破廉恥なことを書かれては、外を歩くことも出来なくなる。
「リリア様は恥ずかしがっておられるようですけれども」
カミラ嬢が、こほん、と小さく咳払いをしながら続けた。「実際、初夜の折には、既婚の貴族女性が立ち会いますのよ」
「えっ!?」
リリアが思わず顔を上げる。カミラ嬢と目が合うと、彼女は「おはようございます」と優雅に挨拶をした。
「おはようございます、カミラ様。今日も、良いお天気ですわね」
と返したあとで「なんで、立ち会いが必要なんですか!?」と問う。全く、理解の範囲外のことだった。
「これが決まりですの。わりと、どこの国でも王族になれば、こういった風習がございましてよ。初夜の折、無事婚姻が成立したか、また、処女であったか、さまざまなことを調べられます」
「わ、わたし、絶対に、そんなことはイヤですからっ!」
「問題ありませんわ。みんな、そう言うことをしてきているのですから……皇后へお立ち遊ばす方に、羞恥心などはご無用です。それは、陛下とお二人の時のみ発揮なさって下さいまし」
カミラ嬢の言葉を聞いているうちに、気が遠くなってくる。
今の言葉は、本当らしい。皇帝が、口を挟んでこないのも、本当のことだからだろう。
「……なるほど、リリア様は、恥じらいをもたれた清純なお嬢様なのですね」
感心した新聞記者が、そう呟きながら、手帳にメモしているようだった。
「そうなのだ。身持ちは堅く、私の再三の求めにも応じてくれぬのだ……正式に婚姻関係が成立するまでは、ということだ。政に悪影響があってはならないということらしい」
すらすらと。立て板に水のごとく、皇帝は言う。
(この大嘘つき……っ!)
とは思うが、この方は皇帝だ。この方の口から出た言葉が、正しいのだ。そういう方なのだ。
「そうなのですね。今時なんと珍しい貞操概念をお持ちで……さすが、ウィレムス公のご養女ともなる方だと、古風な方なのですね。その上、慈善事業にも興味がおありということで、国民は、ご令嬢の噂で持ちきりですよ」
目を輝かせて言う新聞記者に、リリアはうんざりしていた。
(本当のことをぶちまけたい……)
第一、リリアは、『湯たんぽ係』であって『雇われ婚約者』などではないのだ。
「陛下、ご成婚はいつになりましょうか」
「ああ、昨日、寝殿が吉日を選定してな。……三月後に決まった」
「それは……! 国民、皆国を挙げて祝福致します! いまより、我が新聞社では、総力を挙げてリリア様の特集を組ませて頂く所存です!」
「ああ、それは喜ばしいな。国民から歓迎される婚姻を結ぶことが出来るのは、望外の喜びだ」
陛下は、にこりと微笑む。永久凍土すら溶かしてしまいそうな、素晴らしい微笑みだった。
「ええ。それでは、今日から、わたくしのお茶会にはこちらの新聞記者が付きますが、こういったものたちは、慣れて下さいまし。一挙一動が観察されているものですのよ。すべて、リリア様に感心と深い愛があるからですわ」
カミラ嬢が、こちらもにこりと微笑む。
どう考えても、皇帝の相手―――皇后には、こちらのカミラ嬢がふさわしいだろう。
なのに、なぜ、こんなことになってるのか、全く理解出来なかった。
そして、本人の意思は全く無視して、リリアの結婚式は、三月後の吉日に開催されることになったらしい。
「あの……急な結婚の儀式のお話しで……したくが間に合わないのでは……ウィレムス公のほうも、ご都合があるでしょうし」
心構え的な部分も含めて。
「ああ、その件ならば、ウィレムス公には、なんとか快諾頂いたよ。私にとっても義父になる方だからね。そこは怠りないよ」
ならば、本人にも、もう少し説明をして欲しい。
けれど、この皇帝には、そう言うつもりはさらさらないのだろう。
リリアは、ふと、ガルシア卿の言葉を思い出していた。
「あの人、もう、なんていうか……手段を選ばないタイプの人間ですから、もう、こうなったら、諦めて溺愛されてください」
ここが、人生一番の頑張りどころなのはないか?
このまま流されれば、皇后になるのは必須だ。
しかし、庶民中の庶民が、皇后になどなっても良い事などあるはずがない。
(なんとか、しなきゃ……)
なにか、アクシデントが起こって、そういうお話し自体がなくなりますように、とリリアは祈らずに居られなかった。
31
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる