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五日目 人類の敵
しおりを挟む最近、私がドラゴンを飼うために真剣に考え込んでいるので、どうも、深刻な顔をしてその辺を歩き回っていたのを、近所の人が、兄夫婦に連絡したらしい。
親切というよりは、おそらく、孤独死してどろどろに溶けた姿で発見されたら、ご近所として困るというところなのだろう。
ともあれ、近所の「心配」は、兄夫婦に伝わり、近所に住む兄夫婦が、日曜の午前中、まだ寝ていたところを叩き起こされた。
爺さんが私に隣の空き地を買ってくれたように、兄にも少し怖い離れた土地を買ってくれていて、兄夫婦は、そこに新居を構えたのだった。
寝起きの私はとりあえず、着替えて兄夫婦を待たせておく。なんのために来たのか、理由がわかっていなさそうな甥っ子も一緒のようで、元気なことは良いことだが、まあ、うるさい。
顔を洗って歯を磨く。髪だけ櫛を入れて、とりあえず、兄夫婦の待つ客間へ向かう。
兄夫婦は行儀よく、並んで座っていた。線香の匂いが漂っている。両親の仏壇に備えてくれたらしかった。
私は、といえば、最近仏壇に線香を供えていない。仏壇を預かる身としては、申し訳ない心地になった。
ひと通り、近況の交換だとか、天気の話だとかをするのかと思っていたら、兄はズバッと本題に切り込んだ。
「お前、最近なんか悩みごとがあるみたいで、近所の人が心配してたぞ?」
心配そうな顔をしているが、その実、おそらく、近所から連絡の手前、なにか対応しなければならないというところだろう。
そこはかとない面倒くささを感じた。
「いや、ちょっとペットを買おうと思って、色々検討してるんで」
ドラゴンをなんと表現して良いのかわからずに、私は当たり障りなくペット、と言ったが、違和感に背中がムズムズする。
「ペット?」兄は怪訝そうに眉を潜めてから「お前、独身でペットなんか飼ったら、結婚が遠のくだろうが。ちゃんと考えろよ!」と語気を荒らげた。
「結婚するつもりはないよ。しても仕方がないと思ってる。そういう人間がいたって良いじゃないか」
「いや、お前は人類の敵だ。この少子化の時代に、少子化に手を貸して人類の総数を少なくしようとするのに等しいんだぞ」
だいぶ、強めの思想が出てきたな、と内心舌を出す。
「そんなの、兄貴が六人産んでもらえばいいだろ。そんな思想には付き合えないよ」
人類の数の話をするならば、夫婦一組に、子供が二人ではいけない。将来の頭数は変わらないからだ。
「なんで、そんなに」
「俺の分まで人類増やしといて」
「はあっ!? なんで!?」
「俺は別に人類が少なくなっていくことに、責任とか、増やす側への使命感とかないから。ある人がやればいいだろ」
兄は立ち上がった。
「話にならん!!」
そしてそのまま、乱暴な足取りで家を出ていった。兄嫁は、一言も声を発さなかった。なんとなく、その、アンバランスな感じが気になった。
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