夢喰(くら)う君が美しいから僕は死んでも良いと思った

七瀬京

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38 呪いと祝福

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「邪魔をする」

 狭間の世界の雑貨屋に、一人の客が現れた。

 白と黒、頭の中央で半分に色分けされた珍しい髪に、黒いロングコート。現実離れした、美しい美貌。

「やあ。久しぶりだね」

「ああ。久しいな……約束の『夢魔の牙』を持ってきた」

「そう。確かに、受け取ったよ。ありがとう……それで、どうだい、お茶でも飲んでいく?」

 雑貨屋が、満面の笑みを浮かべて獏を誘う。

「いや、興が乗らぬ」

「そう。じゃあ、気が向いたら、またどうぞ」

「どうせ対価を求められるのであろうが」

「こっちも、商売でねぇ」

 くすくす、と雑貨屋は笑う。獏から手渡された、玉虫色に輝く、小さな牙を撫でながら。

「……獏、ちょっとだけ聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「後悔、していないのかい?」

 何を、とは雑貨屋は聞かなかった。

「……それを、言っても致し方あるまい」

「そうなんだ。……君だけが、一人で、思い出を抱きしめながら、生きていくのは、しんどいと思ってね。もう一つ、あの宝珠があるけど、入り用かい?」

 雑貨屋の問いに、獏は静かに首を振った。

「どんな痛みを伴おうとも、記憶は宝だ。前にも言っただろう?」

「まあ、そうだね。……君は役割を全うした。そして……君一人、ここで永劫の時間を過ごすんだ」

「呪いのような言葉を浴びせるのは止めてくれ」

「……祝福だよ。もっとも、呪いと祝福は紙一重だけれども」

 くっくっ、と雑貨屋は笑う。

「相変わらず、悪趣味なことだ」

「……来ぬ人を待つ仲間がいるのは、ちょっとだけ心強いんだよ。ねぇ、君も大分、人間っぽくなったんじゃない?」

 獏の瞳が、す、と細められる。

「身勝手だよ」

 雑貨屋の言葉を背に聞き、反論もせずに獏は歩き出す。繽紛と百花が咲き乱れる中、さらり、と墨を流したように白黒の髪が宙を舞った。





  ◇◇



 狭間の世界に、獏がいる。

 黒いロングコートを身に纏った姿のままで。

 菩提樹の下でまどろみ、誰かを待つように、ずっと、そこにいる。



 了
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