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07 獏
しおりを挟む今日得た思わぬ知見としては、あやかし? にも重量が、ある、ということだ。しかも、かなり重たかった。普段の生活には、まるで不要な知識なのは間違いない。
「あー……重かった、明日、筋肉痛だな、こりゃ」
ため息を吐きながら、萌樹はベッドの上に横たわる獏を見やる。青白い顔をしていた。背が高すぎてベッドから足がはみ出している。
獏。
夢を喰らうあやかし。
夢を食べ過ぎて眠ってしまうというのは、かなり、面白い。萌樹は、獏のことなど詳しくはないが、食べて寝るだけの生活ならばかなり羨ましいものだ。
獏の寝顔を見ながら、萌樹は食パンを取り出してきて、そのまま齧る。近所のパン屋から格安でかった超見切り品のパンだが、コンビニの食パンよりは遥かに美味い。ジャムやその他アレンジするものはなかったが、それでも十分、美味しいから満足感がある。
「……足りるのか?」
ふいに、柔らかな声が聞こえた。
ベッドの上に横たわる獏は、目を開けて、萌樹を見ている。
「気がついたのか。良かったよ、あと、重かった」
「それは済まない」
獏は目を閉じる。美しい顔だな、と萌樹は目を奪われる。薄く唇が開いて、細い嘆息がもれた。散らかった部屋のなかで、獏だけが仄白い光を放っているように、まぼろしのように、美しかった。
「え、と……あんた、獏、なんだよな?」
獏は、萌樹を見ていたが、やがて、ふいっと視線を逸らして、ぶっきらぼうに答える。
「いかにも、獏だ」
「そうか……じゃあ、蒼の悪夢は、どうなったんだ?」
「あの者は……」
と呟いて、獏は、いくらか言葉を選ぶように、慎重な口振りで続けた。
「先ほども言ったが、夢魔にでも捕らわれているのであろう」
「夢魔……?」
「そう。その者に、心地よい夢を見せ、精気を奪って殺すというものだ」
「それっ……ヤバイやつじゃあ……!」
居ても立っても居られなくなって、萌樹はたち上がる。それを、獏が、す、と美しい手を軽く上げて制した。
「なぜ、そのように、あのものを夢中になって救おうとする?」
「えっ?」
「見たところ、血縁があるわけでも、恋人というのでもないだろう。理由がわからぬ。人は―――自分さえ良ければ、なんでも良い生き物であろう?」
すくなくとも、吾は、そう思っている。と、獏は付け足して、ゆっくりと上体を起こした。白と黒の美しい髪が、さらりとベッドの下へと流れる。長くて美しい髪だった。
「あんたら、あやかし? の人間に対する感情って、そんな感じなの?」
「身勝手で愚かなものだと思っている」
獏は、容赦なくぴしゃりと言い切る。それが、あまりにも、迷いのない言葉だったので、萌樹は思わず笑ってしまった。
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