夢喰(くら)う君が美しいから僕は死んでも良いと思った

七瀬京

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05 獏

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 青白い光はやがて人の形になった。

(いや、人……か?)

 百七十八センチある萌樹より、頭一つ分くらい背が高い、痩身の男だった。長く伸ばした髪は、丁度身体の右半分と左半分で色彩を異にしている。右半分が黒。左半分が白。そして瞳。黄金色の瞳をしていた。

 白くて裾に桜の花が描かれた着物の上に、豪華な打ち掛けを羽織っているが、これもまた、白黒半分ずつだった。

(コスプレ……じゃなかったら、人じゃ、ないよな……)

 白と黒の鮮やかなツートンカラー。

 あっ、と萌樹は思いついた。その記述は、最近目にしたばかりだったからだ。

「もしかして、あんた、獏、か?」

 物憂げな眼差しが萌樹に向けられた。人ならぬモノの眼差しに射抜かれて、ぞくっと背筋が震える。

「そなたが、吾を呼んだか?」

 低く、まろやかな声だった。聞いているだけで酩酊してしまいそうになるような声だ。

「お、おう……。あんた、獏、なんだろ? こいつが、悪夢を見てるなら、なんとか喰ってやってくれないかな」

 獏に近づくと、香の薫りが漂ってきた。お寺で感じるような薫りだが、それより、数段高貴な薫りのように思えた。

 不思議なことに、怖くはなかった。それより、この獏が、美しかったからかもしれない。「たしかに悪夢を見ているようだが」と獏は呟き、「このものは、目覚めを拒んでいるのではないか?」とつづけた。

「えっ!?」

「現実より、幸せな悪夢の中にいたほうが、より良いこともあるだろう」

 幸せな、悪夢。

 そう聞いて、萌樹が思いつくのは、蒼から聞かされた『鬼』のことだ。

「鬼のせい……」

「このものが恋した鬼は、の知るものだ。そして、その鬼は、夢で精気を吸い取るような真似はしない」

「知り合い!? あんたも?」

 雑貨屋も、知り合いのような口ぶりだった。有名な鬼なのだろうし、顔も広いのだろう。

「まあ。時折、酒を飲む程度の付き合いだ。しかし、このものは、何に魅入られたのか」

 獏は、首を傾げながら、独り言のようにいう。その仕草が、妙に人間くさかった。

「鬼、だろ?」

 友人の身も心も、ぼろぼろにしたのは、間違いなく、鬼のはずだ。萌樹は、断言する。

「いいや、鬼ではない。少なくとも、あれとは違う。このものは、精気を吸い取られている。おそらく夢魔の類であろう。いま、目覚めさせねば、永遠に、このままだ」

 肌が粟立った。

「死ぬ……ってことか?」

「そう、申している。では、そろそろ、悪夢をくらうか」

 獏は、そっと手を伸ばした。長い爪を持つ、美しい手だった。

 

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