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02 鳥居の内

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 鳥居の中には小さな社があった。

 何を祀っているのかは、書いていなかった。由緒書のようなものはなかった。とりあえず、萌樹は、一度手を合わせる。何の変哲もない、田舎の神社。という印章だったが、辺り一面が、芳しい香りに満ちている。

 萌樹はその香に誘われるように、神社の裏手へ向かう。

 大抵の神社は、境内に、小さな社があったりする。そういう所があるのだろうか、と思いながら、萌樹は進む。不思議と、怖くはなかった。

 香は、次第に濃厚になっていく。そして、不意に、目の前が明るくなった。

 柔らかな光の繭……というのが、最初の印象だ。そこの中は、スノードームのように、繽紛と花が舞っている。桜や、藤や色とりどりの花々が、咲き乱れ、また、宙を舞っている。

(これが……、境目ってやつなのか……)

 萌樹はためらいながら、そこへ足を踏み入れる。

 咎められるかと思ったが、特に、何も起きなかった。

(こんな所に、鬼なんか、住んでるのかね)

 仮に、鬼が住んでいるとしたら、それは、童話で見た、お菓子の家を持つ魔女のようなものではないのか。こういう、美しい、極楽のような場所に誘いこんで―――人間を喰らうという。

 とりあえず、警戒するに越したことはない。萌樹は気を引き締めながら、そこをいく。

 足下は、はなびらが雪のように降り積もっていた。花は、腐っては居ない。大抵、桜の花びらが地面やアスファルトに落ちれば、茶色くなって、やがて透明になって、同化していくのだが、ここの花びらたちは、舞台に降り積もる神夫文のように、その場に留まっている。

「……なんか、妙なところだな」

 思わず声を上げて終ったが、誰も、聞くものはいない。

 しばらく歩いたとき、どうにも、レトロな雰囲気の建物があった。白塗りの蔵を改造したようで、入り口の所に看板が掛けられている。



『落英雑貨店』



 と書かれていた。

 どうにも、この空間には、不似合いな、昭和感のある建物だ、というのが萌樹の印象だ。田舎のおばあちゃんが、経営していそうな雰囲気だ。

 その上、『雑貨店』である。

「とりあえず、もしかしたら、鬼がいるかも知れないしな……」

 確か、蒼は、『古本屋を営んでいる鬼』と言っていた。ならば、ここにも、鬼が居るかも知れない。

 ゆっくり近付く。入り口には大きな水甕が、五個ほど置かれている。中をのぞき込んでみると、そのうち、三個の水甕には、虹色に輝く小魚が気持ちよさそうに泳いでいる。売り物ではないのかも知れない。

 中へ入ると、線香のような、煙たい香りが漂っていて、鼻を押さえた。

「おや、この香りは嫌いかい?」

 くすくす、と笑いながら、声が掛けられる。上から―――のような気がしたが、前からのような気もする。

「だ、れか居るのか?」

「居るよ」

 ふふ、と柔らかい吐息が、耳朶に触れた。

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