どうせ処理なんだから思い切って愛せば良い

七瀬京

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(啓司が、見てる……)

 その事に、喜びを見いだしそうになる。

 蓮は顔を枕に埋める。くぐもった喘ぎ声が、部屋を響かせる。雨だれのような、美しいピアノの音と、生々しい喘ぎ声の、ミスマッチさが酷かった。

「それ……」

 おずおずと、啓司が口を開く。

「んっ……なに?」

「……俺が、見たいって言ったから……、してくれてる……んだよね……」

 啓司の顔を見やると、顔は赤かった。少し、前屈みになっている。蓮の痴態を見て、反応してしまったらしい。

「……鍵、閉めてきて」

 蓮が指示すると、啓司はおとなしくそれに従う。少し、可愛いかった。

「啓司も……すれば? ……口で、手伝ってあげる」

 自分で後ろを弄りながら、口は啓司のモノをくわえる……と思ったら、途端に興奮した。大胆な発言だとは思ったが、止められない。もっと、知らない快楽を味わいたい。

 啓司は、少し躊躇ったようだが、ベッドに上がった。

 二人分の体重に、スプリングが悲鳴を上げる。

 一度、奥を弄るのを止めて、啓司を横たわらせて、股間に顔を埋める。そこは、もう、十分興奮していた。

 下着とズボンを引きずり下ろして、啓司の剛直をさらけ出す。

「……興奮、してる」

 舌先を伸ばして、つん、突くと啓司の体がびくっと震えた。

「そ、りゃ……さっきの、蓮が……その、いやらしすぎて……」

「ふうん? ……僕をみて、興奮したんだ……。僕はアナニーしてるヘンタイだけど……それを見て興奮してる啓司も、相当ヘンタイだよ」

 蓮は、ふふっと笑う。啓司の顔が、いっそう赤くなった。

 啓司の性器を口の奥まで飲み込む。熱くて、質量のある器官で口いっぱいが満たされる。臀部を突き出して、また、後ろに指を入れ始める。口と、奥と、同時に刺激され、あっという間に達しそうになる。

「っ、……っんっんっ……っ」

 喉の奥の方まで、顔を動かして出しいれをするたび、口を無理矢理犯されているような、背徳感がある。

「っ、……っっぁっっ、あっ……ちょっ、れ……っん……っ」

「っん……おっき……。啓司の、すごい、おっき……。あ、口、すご……っ」

「……蓮が、してるのが、見えない……」

 啓司が、意外な苦情を口に出す。

「えっ……っ?」

「今日は、蓮が……してるの……見たかったのに……お尻……こっちに向けてよ」

 それは、恥ずかしすぎる。体が、かーっと、燃えるように熱くなった。

「は、ずかしい……」

 至近距離で見られるのは、さすがに恥ずかしい。

「俺だって……、それ、恥ずかしいけど……?」

 口でされるのが、恥ずかしい、ということなのだろう。

 仕方がなく、啓司の体をまたぐような格好で、尻を、啓司の目の前に突き出す。

「こ、これで良い?」

 恥ずかしすぎて、気が遠くなりそうだったが、「うん」と満足げな啓司の声が聞こえたので、よりいっそう熱く脈打つ、啓司の性器の根元から、先端まで、ゆっくりと舐め上げる。

「っ……っちょっ……っあ……それっ……っ」

 啓司の内腿が、びくっと震えるが、蓮は、その根元をしっかり握っている。

「ダメ……、まだイかないでよ……」

 蓮は先端をチロチロと舐めながら、言う。充血した、先端は、張り詰めて、今にもはじけそうだった。

「ちょっと……、蓮っ……っ」

「顔と、口……、啓司、どっちが好き……?」

「っ……その……っ、見えないなら……顔は、意味……ないだろ」

「じゃ、一回、手の中にして」

 手で、啓司のそれを扱うと、程なく、蓮の手のひらの中に、どろりとした白濁が溢れた。

「あっ……っ……っ」

 蓮はそれを手に取って、自分の臀部を両手で広げ、奥まった入り口に塗り込めた。

「っ……っ」

 啓司が、息を飲むのが解った。

「凄い……嫌らしい……。入り口……ひくひくしてる」

 啓司が実況するのを聞きながら、蓮はゆっくりと指を二本、そこへ沈めていく。

「あー……っ……っ」

 見られているのも相まって、快感が強い。一度弄っているから、感度も上がっているし、啓司の精液を塗り込めているという状況もあって、蓮は顎を上げて大きくあえいだ。

「すごい……指の根元まで、すんなり入った……」

「……い、わない……で……」

 体が熱い。汗で濡れているのが解る。上半身の服が、肌に張り付いて気持ちが悪い。

「いや、だって……本当に、……いやらしくて……綺麗」

「えっ?」

 思い掛けない言葉を聞いて、蓮は狼狽える。いやらしい、は理解出来るが、綺麗というのは、違う気がした。

「だって……なんだろう、少し、中が見えるんだけど……凄く、綺麗な色……」

 うっとりと、啓司が呟く。

 じっと見られている。しかも、そこへ、指を出し入れしているのだ。どうしようもない。

「あっ……っも、見ない、で……っ」

 喘ぎながら、蓮は、そっと啓司の性器に頬刷りした。すでに硬度を取り戻して、雄々しく屹立している。

「……啓司」

「なに?」

「……啓司も、また、勃ってきた」

「言うなよ……蓮が、いやらしすぎるんだろ……」

「また、出して……」

 そう言って、蓮は、体を起こして、一度離れる。啓司のほうへ向けていた尻を、今度は、天を仰ぐ、啓司の器官の真上に向ける。

 先端を、入り口にあてがう。

「っ……っんんっん……っ」

 指とは違う。自分の体温とは違う、熱い器官の感触に、くらりとする。

「ちょっ……っ蓮っ……っ」

「口でするのと、大差ないよ……ちょっと、キツいかも知れないけど……」

 ゆっくりと、蓮は、啓司を体に沈めていく。上手く入るかどうか解らなかった。指とは、あからさまに容積が違う。ぬめりを帯びたそこは、つるりと滑る感じがする。両手で臀部をひらいて、そこへ、ゆっくりと、導く。狭い入り口を、めりめりと広げながら、入ってくる、のが解る。

「あっ、……っ、あっ……おっきい……っ」

「ちょっと……蓮、ムリは……っ」

「……ん? イヤ。欲しいの……これ……」

 思わず、素直に、欲しいと口走ってしまったことに、羞恥が募る。初めて受け入れるのに、自分で入れるのはムリかも知れないと思いつつ、張り出したカリの部分を抜けると、ぬるんっと一気に入った。

「っ――――っ!!!」

 一気に、ものすごい容積に貫かれて、声なき悲鳴のような喘ぎが漏れる。

「っ……すご……暖かいし……、キツ……、もうちょっと、締めないで……苦し……」

「あ、ど、どうして良いか、わからな……っ」

 体の奥に、熱い楔の感触がある。それは、どくどく、体の中で脈打っている。どうして良いか解らずに、一度少し抜こう、と腰を浮かせる。内壁が強く擦られて、膝が震えた。

「ひっ……っあっ、あっ……っんっ……っ」

 あまりにも感じてしまって、体から力が抜ける。こうして、出し入れをすれば、啓司も気持ちが良いはずだし、蓮も、気持ちが良い。

 それに気がついて、無我夢中で、蓮は動く。

 自分の指とは、全く異なった感触だった。

 熱くて、熱くて、固くて、強烈な感覚だった。体の奥、そこを、余すことなく満たされているという、精神的な充足感もある。

「あっ……っん、も、だめ……っ、きもち……い……」

「蓮、……俺も、ちょっと、も……。抜いて……」

「ん……良いから、奥にちょうだい……」

 奥に。そうすると、体に負担が掛かるというのは聞いた。けれど、今は、奥に啓司の精を受けてみたかった。

 そういえば、コンドームも付けていない。あとで、ちゃんと、ケアして貰わないと……などと、現実的な事を考える。快楽に呑まれるのと、裏腹に妙に現実的な意識と、バラバラに存在しているような、奇妙な感じだった。

「啓司……っ」

 より早く、無我夢中になって、蓮は、腰を動かす。

 啓司が、動こうとしたとき「ダメ」と蓮は制止した。

「なんで……俺も、動きたい……んだけど」

 何故。

 だって、コレは、セックスじゃないから。蓮は、ふふっと笑う。

「僕が……、啓司の……これを使って、アナニーしてるだけだから」

 啓司の顔が、歪む。変な事を言っているのだろう。だが、気持ちも通わないのに、『性行為』はしたくなかった。

「……口でしてるのと、一緒……っん……っ、啓司の、好きな方でするけど。手と、口と、後ろと……何が好み……?」

 愉快な気分だった。

 主導権を、ずっと握っているというのが、気分がいい。

 これは、命じられてされているわけではない、というのを絶対に貫きたい。

 少しの間、啓司は、黙っていた。けれど、顔は真っ赤で、時折、甘い声が漏れる。快楽に耐えるような姿を見下ろすのも、悪くない気分だった。

 そして、やがて、啓司は観念したように呟いた。



「……うしろ……」

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