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 啓司が一緒に居てくれるようになって、飛鳥井たちは遠巻きにしか見てこなくなった。

 手出し出来ないというのは、本当らしい。

 別の意味で嫌な目線で見られているような気がするが、それでも、直接近付いてこないだけ、かなり気分的にマシな気がする。

(日中は守って貰って、夜は、好きなようにさせて貰えてるって……なんか、凄く、申し訳ないような……)

 啓司の真意が、よく見えない。だから、どう反応して良いか解らない。

 だが、日中、啓司は普段と変わらない感じだった。

 そもそも、この学校に居る生徒たちには、腹の中に、何か別の心づもりがある。家のことだったり、その他のことだったり、いろいろあるだろうが、それぞれ、事情が違う。だから、何を考えて居るのか、解るはずもない。

 いつも通りに、授業を終え、予習や復習をして自由時間を過ごしてから、消灯時間を過ぎて、啓司の部屋を訪ねることにした。

 ノックをすると、「どうぞ」と中から声がする。

 部屋の中で啓司は、まだ、机に向かっていた。

「勉強熱心だね」

「お前こそ」

 啓司がたち上がって、振り返った。部屋着姿だった。

「僕は、勤勉じゃないよ」

「そうかな? ……こういうことも、しっかり勉強してきてる印象だけど」

 言い方に、含みはなかったが、蓮は「思春期らしいでしょ」とだけ素っ気なく返す。

「まあ、『思春期』なんだろうけどさ……ちょっと、会話したいんだけど」

 啓司は言いづらそうに言って、ベッドの端を指さした。当然、寮の部屋は手狭だ。来客を想定していない。余分な椅子などあるはずもない。

 啓司とならんでベッドの端に腰を下ろす。

「話って?」

 蓮は、いきなり本題に入る。啓司はそれに戸惑ったようだった。

「……いろいろ聞きたいこととか、あるけど……」

「明日もいつも通りの時間に起きなきゃならないんだし。……だから、話なら、早く済ませた方が良いと思うんだけど」

 それは、そうなんだけど、と啓司は小さく呟いてから、蓮をまっすぐ、見つめた。

「なんで、ここのところ……、俺の……をしてくれたのか、気になってた」

「……最初の日は、本当に、偶然だった。啓司がしてたから、手伝ってみたくなっただけ」

「次の日は?」

「いろいろ、試してみたくなった」

「いろいろって……っ」

 啓司の顔が、真っ赤になっている。蓮にされた感触を思い出しているのだろう。蓮は、薄く笑った。

「……どうせ、啓司は、『処理』がしたいんでしょ? だったら、僕がしたって、一緒でしょ。他人にして貰った方が、気持ち良いんじゃないかな」

「お、お前は……? 誰かに、して貰う、とか……」

 啓司は、連の顔色をうかがうような、表情をしていた。『誰か』の影を探しているのだろう。その方が、啓司には、都合が良いのだろう。

「誰か」

「そ、そうだよ……その……、元カレとか……?」

 だんだん、問いかけにも遠慮がなくなってきている。その事が、蓮は、少しだけ不思議な感覚だった。今まで、こうして、近付いてきた人は、居なかったからだ。飛鳥井のような、下心を持っているのではなく、蓮に興味があると言うこと、だろう。

「僕に、興味があるんだ。啓司は」

 啓司が「なっ」と小さく声を上げて、それから、俯いて「そりゃね興味はあるよ」と小さく、観念したように言う。

「なんで? 僕なんか、啓司の家には全く、関係ないような立場だし。面倒な親戚はいるし、マイナスでしかないと思うんだけど」

「それは、お前の……外側の話だろ。俺は、お前の、内側の話をしてるんだよ。……なんで、お前みたいなやつが、こういうことしてるんだよ」

「ヘタだった?」

「い、いや……その、気持ち良くなかったら、あんな反応しないだろっ!!」

 啓司が、ムキになって言うが、耳まで赤い。それを、可愛いと蓮は思う。胸が、引きつれるような、きゅんとするような痛みを感じる。それは、ひどく、甘くて、淫靡な痛みだった。

「よかった。気持ち良くて……じゃあ、もしかして。他にもこういうことをしてる相手が居るんじゃないかって……思った? 他の人にしてるの、イヤなんだ」

「そりゃ、イヤだよ……。なんか、解らないけど、モヤモヤする」

「モヤモヤって……」

 思わず、蓮は吹き出してしまった。あまりにも、可愛いことを、啓司が言うからだ。

「いろいろ妄想して貰って……残念だけど、僕は、他の人の、コレ……触ったこともないよ?」

「え、そうなんだ」

「僕のこと、どういう目で見てたんだよ……。啓司こそ、こういう経験はあるの? ……男でも、女の子でも……」

「リスクがあるだろ。まだ、高校生だから。万が一があったら……」

 啓司は、無意識に、女の子との性行為を思い浮かべたようだった。それに、なんとなく、蓮は微妙な気持ちになった。啓司の未来には、男性ではなく、女性と結ばれる未来しか存在していないのだろう。啓司が、今後、実家のあとを継ぐと言うことを考えても、とうぜんのことだ。そのことに、傷付きはしない。

(だって、別に、僕は、啓司と結ばれたいとは思わないし)

 それは、お互い様なのだ。

「……それで、僕は、啓司のグループ? に入ったと思うんだけど。具体的に、何をすればいいの? 啓司の、サポート? それには……、こういうのは、込みじゃないよね?」
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