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「それ……って……」

「ずっと前の事だけど……鷲尾くんが、僕の噂を『下らない』って言ってくれたの、聞いてたんだ」

 蓮の噂。成績優秀で、先生から一目を置かれ、大学部への推薦も確定しているという蓮の、噂話。

「だ……って、なんか、そんなことって、なかなかないだろ? その……」

「色仕掛?」

「そ、そうだけど……」

 蓮には噂が付き纏う。

 成績優秀なのは、先生に性的なご奉仕をしているからだ、と。主要な先生方の『公衆便所』という呼ばれ方をしているのを、蓮は知っている。

「噂の出処は知ってる。あと、事実じゃないのも」

 噂は、同じ学校に、通う蓮の従兄弟。

 そもそもうちの鳩ヶ谷家は、蓮の兄が継ぐはずだったが、ちょっと微妙な展開を見せ始め、跡取り争いという前時代的なイベントが、勃発しつつある。

 そこでライバルになるのが、蓮と従兄弟。本来ならば、本家の息子である蓮が有利だが、従兄弟は噂を流した。

『妾の子は性質も母親に似ていて、身体で以下略』

 社交的で友好的な彼は。あくまでも『素行の悪い従兄弟の蓮を心配する風情』で噂を流しまくっているらしい。

 跡取りには興味がない蓮には、どうでもいいことだ。

「なんで、否定しない?」

「噂の否定は面倒だから。それと、たまに、鷲尾くんみたいな人もいるし。まあまあ悪くないかな」

「お前、結構、良い性格してるんだな」

 啓司が苦笑する。蓮は「まあねー」とだけ答えて、啓司に向き合った。

「だから、どうせ処理ってするんでしょ? なら、手伝わせてよ」

「その、『だから』がわからないよ」

 啓司が困ったような顔をするが、完全に、拒否でないことは、蓮も薄々悟っている。

「理由……って、必要?」

 蓮は頭一つ低いところから、啓司を見上げる。啓司が、一瞬、たじろいだのが解った。

「シェヘラザード姫の心境なんだけど」



『明日の夜はもっと楽しい話です』



「っ……!」

 蓮は一歩啓司に近づいた。後ずさろうとして失敗したらしい。蓮は啓司の胸に手を当てた。シャツ越しの胸は、見かけより、ずっと筋肉がついている。しっかりした感触だった。鼓動は早くて、そして体は、熱い。啓司は、運動が得意だったはずだ。部活動をしているかまでは知らなかったが、引き締まった身体つきをしているのは、まちがいないようだった。

「心臓。すごく早いね」

「お。お前が、急に……」

 口ごもりながら反論しようとしたのが、止まった。蓮が、そのまま手を、下の方へ移動させたからだった。胸から、腰をすぎ、そして、中心へ……。

 啓司が息を呑んだ。喉が動くのがわかった。優しく撫でるだけ。そっと、柔らかな触れ方で。

「って……」

「ここも……少し反応してる」

 手に伝わる感触は、確かなものになっていた。熱くて、張り詰めていく。

「僕的には……鷲尾くんが、気に入ってくれたなら嬉しいんだけど」

「気に入る?」

 声の端が、少し掠れて震えていた。欲情の響きがあるように思えて、蓮の腰も甘く震える。

「僕のことじゃなくて……こういうことを」

「っ……その……」

「目でも瞑っててくれたら、誰にされてても一緒でしょ? それに、僕は……鷲尾くんを抱いてみたいとは思わないわけだし」

「そ、そう、なの?」

「うん。抱きたいとは思わないよ。だから、鷲尾くんは抜くだけ。なら、誰だって良いでしょ?」

「ま、まあ? そういうことなら?」

 なるほど、と蓮は納得した。こういうシチュエーションならば、啓司のほうが、『される』側になりそうなものだ。だが、本当に、蓮にはそのつもりはない。

(どちらかといったら、抱かれてみたいけど……)

 啓司には、そういうつもりはなさそうだ。だから、これ以上はない。それでも、いまは良かった。この先、もしかしたら触れて欲しくて苦しむのかもしれないけど。でも、きっと、恋人とかセフレのような関係にはなりたくない。

「じゃあ、今日は立ったままでするね?」
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