8 / 9
第一章 夫婦の縁
8.お多津の策
しおりを挟む店の前を掃除しながら、お瑠璃は、先日のお多津のことを思い出していた。
(物慣れない様子だったけれど、大丈夫だったかしら……)
張型は、あまり大きくないものを選んだつもりではいたが、何より、怖さもあるだろうし、もしかしたら、上手くいかなかったかも知れない。
(ああいう時、どうすれば良いかしら)
殿心が付くような、艶書を薦めるのも良いかもしれない。少なくとも、そういう気分になれば、少しは、受け入れやすくなるだろう。
「新吉さんは随喜だなんて言っていたけれど……」
随喜は、効果が強いと聞いている。それこそ、物慣れないお多津には、刺激が強いだろうと思う。だが、快に対して、気後れしているのかも知れないと思えば、一度、強い快を味わってみるのも良いかも知れないとも思う。
「……まあ、またいらっしゃるか、解らないわね……」
首尾良く行けば、張型で慣れ、いずれは、夫君と閨ごとを行うのに支障がなくなるだろう。そうすれば、八つ目屋に用事はない。そして、もし、張型を上手く使うことが出来なかったとしたら、八つ目屋の道具に不満があったと、二度と近付かない気もする。
「あーあ……、うまく行かなかったかしら……」
道具を気に入って、常連になってくれる客もいる。だが、殆どの客は、一見だ。人目を忍ぶようにやってきて、そして、そそくさと品物を購入して、そして帰って行く。何度も来てくれる客のほうが、珍しいのだ。
お多津は特に物慣れない様子だったし、武家の奥方という方の使いだったというので、余計に心配になった。
けれど、お瑠璃には、首尾を確かめることは難しい。彼女は『お多津』と名乗ったが、それも本当の名前であるか解らないからだった。
「考えても仕方がないかしらね」
溜息を吐きつつ、そのまま掃除を終えて中へ入ろうとしたとき、「お瑠璃様」と声がした。慌ててあたりを見回すと、ほど近くに、お多津の姿があった。
「まあ、お多津様……、気になっておりましたのよ。どうぞ、中へお入り下さいまし」
あたりに誰も居ないことを確認しつつ、お多津を店の中へと誘う。
お多津の様子を窺うと、どうも、泣きはらしたような顔をしているので、うまく行かなかったのだろう。
(お可哀想に……)
閨ごとの悩みは、あけすけに人に相談できるものでもない。お多津主従は、多いに悩んだ末に八つ目屋を訪ねたのだろうから、それを思うと、胸を締め付けられる。
「……まずは、お話しを伺いますわ」
「ありがとう……」
蚊の鳴くような、ほそぼそとした声を出しつつ、お多津は「本当に、ありがとう」ともう一度、今度はしっかりとした声で言った。
暖簾を外し、奥の部屋へ案内する。
お多津は俯いて、どうにも思い切ったような顔をしているのが気になったが、お瑠璃は努めて明るく振る舞った。
「お多津様、どうぞ、白湯を召し上がって下さいまし……」
「ありがとうございます……」
白湯を出す、お多津はそれを一口二口含んで、ほう、と吐息した。
「先日のお品ものは……満足頂けなかったようでございますね……」
ぽつり、とお瑠璃が呟くと、ハッとしたようにお多津が顔を上げた。
「違います……品物は、とても、良いものでした……」
「けれど、主は、痛がって……」
そのまま、顔を手で覆ってお多津は泣き出してしまう。お多津にとっても、主の一大事である。覚悟を持って八つ目屋の道具を進めたのだろから、責任を感じて泣いてしまうのも致し方のないことである。
「痛がっておられたのですね……それであれば、私が、ご一緒に、他の品をお勧めしなかったのが悪うございます。申し訳ございません」
お瑠璃は唇を噛む。
もし、お多津の主が、痛がって、閨ごとのすべてを嫌うようになったら、大変なことだ。そうなれば、一緒に、潤滑にする為の道具などを進めなかったのは悔やまれる。
「あの、お多津様……、主さまは、閨ごとを怖がっておいでですか?」
「えっ?」
お多津は、びっくりした顔を上げる。鳩のように丸い目を、ぱちくりと瞬かせていた。
「……もし、まだ、閨ごとを怖く思っておられないようでしたら、私めに、今一度、機会をお与えくださいまし」
「そ、それは、勿論です……わたくし、お瑠璃様に、相談に参りましたの……」
「ありがとうございます……それであれば、様々な品物を託しますわ。……まずは、殿心が付くように、艶書を。それに、潤いに満ちるような薬もございます。こちらは、水に溶いてつかうのです。糊のようなものですわ。これがあれば、張型もすんなりと入るようになるかも知れません。それに、殿御と交わる折にも、先に、奥の方へ仕込んでおけば、ぬるりと入るようになるかと……」
「ま、まあ……お瑠璃様、お待ちくださいませ。わたくし……、そんなに、覚えきれませんわ。それに、今回、思いましたの。……私の伝え方が悪くて、主が快をえることが出来なかったのではないかと……それであれば、お瑠璃様に、直接、教えて頂ければと……」
お多津からの思わぬ申し込みに、「わ、私が?」とお瑠璃は驚いた。
「だって、私は、お多津様の主さまの……お邸に近付く事も出来ませぬ……」
「お瑠璃様を芝居にお誘い致しますわ。一緒に芝居を見物してから、料理屋で、夕餉を頂きましょう。……そのおり、部屋を用意しますから、そこで、お教えくださいまし」
思わぬ申し出ではあったが、お多津の眼差しは真剣だった。拒むことなど、出来そうもなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
俺の彼女とセックスしたがる友達に一度だけゴムありならと許可したら、彼女はマンコから精液垂らして帰ってきた。
えんとも
恋愛
彼女とセックスしたがる友達に、最初はフェラから始まり、寝取られ癖が開花した彼氏が、ゴムありでのセックスを許可すると、彼女は中出しされて帰ってきた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる