上 下
4 / 9
第一章 夫婦の縁

04.張型指南 ★

しおりを挟む


 お多津は、やや、固い、思い切ったような表情かおで、床に転がった張型を手に取った。暖かいだけでなく、つい今しがたまで、お瑠璃の内部にいたそれは、彼女の、淫液で濡れ輝いていた。

「お多津さま……」

 促すように、お瑠璃が声を掛ける。お多津は、はっとしたように、我に返って、「では、こちらを使わせて頂きますけれど……」と興味津々というていで、晒されているお瑠璃の陰部に釘付けになっていた。

「そんなに、ご覧にならないで下さいまし……」

「いえ、とても、美しいと思って……この、核も」

 とお多津の指がお瑠璃の陰核を摘まんだ。

「んっ……っあっ……」

 お瑠璃の身体が、魚河岸に上げられた魚のように跳ねる。

「すごく、美しいんです。……珊瑚の色みたい……」

 うっとりと呟きながら、お多津はそこを刺激している。

「あっ、あっ……っ、お、多津様……っ」

「凄いです、こんな風に乱れるのですね……。主は、こういうことは殆どありませんでしたので……、お女陰ぼぼも、うねっておいでで……。淫水をしたたらせて……」

「あ、あ……っそんな、仰らないで下さいませ……それより、張型の、指南を……」

 お瑠璃に促されて、お多津は、そっとお瑠璃の入り口に、張り型の先端をあてがう。ゆっくりと、中へ侵入させると、お瑠璃が、細くて高い喘ぎを漏らした。

「あー……っ」

 お多津が、あまりにもゆっくりと張型を侵入させるものだから、物足りない心地になって、お瑠璃の腰が自然に、快を求めて動く。

「あっ、あ……っんん……っあっ」

「まあ、……こんな風に、自分で腰を動かしてもよろしいのですね……」

「ええ、ええ……。もう、もっと、欲しいと、思うときは、勝手に、動いてしまうもの、ですわ……。ですから……、あ、もっと……」

 無我夢中で、お瑠璃は腰を動かしている。喘ぎがひっきりなしに漏れる口からは、飲み干せなかった唾液がしたたり落ちて、床に溜まりを作っている。

「………お多津様……」

「はい、何でしょう……」

「……張型を、出し入れ、して下さいまし……」

「わ。解りました」

 言われたとおりに、張型の出し入れを繰り返す。内部が、擦り上げられて、気持ちが良くてお瑠璃の目の前が、白く明滅している。

「あっ、あ……、そ、そうです……そんな風に……、こうして、出し入れされますと、あ、殿御が、動くような格好になりますから……、内部が……内部が、擦れて、気が、おかしくなりそう……」

 必死に説明するお瑠璃の言葉を聞いたお多津が「こうですわね……、出し入れをすると、悦いのですね……お瑠璃様の、ここ……すごい、淫液で……」

 お瑠璃からほとばしる淫液は、お多津の手を汚し、着物を濡らし、床に溜まりを作る。

「あ、あ……、そんな、仰らないで……」

「だって、本当に、凄いのですもの……。でも、本当に、お瑠璃様、気持ちよさそう」

 お多津は、ホッと、安堵の表情を浮かべている。

 交わり自体に、抵抗感があったのだろう。そして、おそらく、最初の時、お多津の主は、酷く痛がったり、怖かったりしたのだろう。

「ええ、快は、どなたでも……得られますわ……ああ……っ」

 気持ちが良くて、お瑠璃は、自ら腰を動かして快を求めながら、それでも、世の中で喧伝されている絶頂を迎えるまででないことには、少し、落胆していた。





 お多津が、張型を嬉々として扱い、ついには、「わたくしも自分で使ってみようかしら」と言い出すまでになったころには、お瑠璃は、へとへとになっていた。

 身支度を調えて、新しい張型を用意する。

 お多津の主には、小ぶりな鼈甲の張型。

 そして、お多津には、鼈甲よりは安価な、水牛の角で作られた張型の、やはり小さいなりのものを用意した。

「お瑠璃様を見ていたら、私も、なんだか、その、身体が火照ってしまって……早速、こちらの品を使ってみようと思います」

「はい、なにか、またお困りごとでもあれば、どうぞおいで下さいまし」

「ええ、その折りには、ぜひにも……」

 お多津は、風呂敷包みに張型を詰めて、後生大事に抱えて足早に去って行く。

 お多津とその主が、上手くいくといいが……と思いつつ、店の奥へ引っ込もうとしたとき、

「おい、お瑠璃」

 とぞんざいに、お瑠璃を呼ぶ声があった。

「この声……あら、新吉さん?」

 お瑠璃が呼びかけると、年若い職人風の格好をした男が、ひょっこりと「八つ目屋」の暖簾から顔を出している。

「今日も、あきないは上手くいったみたいだな……とはいえ、声は、外まで漏れていたけど」

 はは、と新吉は笑いながらいう。新吉は、近くの長屋に住まう、青年で、お多津とは同い年。幼なじみと言って良い関係だった。

「う、うるさいわね……、商品を、お客様に説明して、納得して頂けなければ、お求め頂くのは難しいでしょう?」

「まあ、それはそうなんだが……お前の声が、あちこちに響いていて、覗き見をしようという不届き者がそこらにいたぞ。少し気を付けた方が良いだろう」

 商売の為には仕方がないが、他の男に覗き見をされるのは、何か違う気がする。

「ありがとう。新吉さん……声は、注意するわ」

「そんなことを言っても、無理だろ。……で、どうなんだ、最近は。ちゃんと、達することは出来るようになったのかい?」

 唐突に聞かれた言葉に、お瑠璃は、ドキリ、とした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

忠義の方法

春想亭 桜木春緒
歴史・時代
冬木丈次郎は二十歳。うらなりと評判の頼りないひよっこ与力。ある日、旗本の屋敷で娘が死んだが、屋敷のほうで理由も言わないから調べてくれという訴えがあった。短編。完結済。

強いられる賭け~脇坂安治軍記~

恩地玖
歴史・時代
浅井家の配下である脇坂家は、永禄11年に勃発した観音寺合戦に、織田・浅井連合軍の一隊として参戦する。この戦を何とか生き延びた安治は、浅井家を見限り、織田方につくことを決めた。そんな折、羽柴秀吉が人を集めているという話を聞きつけ、早速、秀吉の元に向かい、秀吉から温かく迎えられる。 こうして、秀吉の家臣となった安治は、幾多の困難を乗り越えて、ついには淡路三万石の大名にまで出世する。 しかし、秀吉亡き後、石田三成と徳川家康の対立が決定的となった。秀吉からの恩に報い、石田方につくか、秀吉子飼いの武将が従った徳川方につくか、安治は決断を迫られることになる。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

処理中です...