八つ目屋お瑠璃、繁盛記〜淫具でお悩み解決します!〜

七瀬京

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第一章 夫婦の縁

02.あるじの悩み

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 八つ目屋の小上がりから部屋の中へはいると、お多津はあたりをきょろきょろとみまわしていた。部屋には長びつ。それに、炉がきってあって、そこに、炭と鉄瓶が掛けられていた。暖かな湯を、常に用意しているのは、客へ白湯をだすのと、いくつかの意味がある。

「おどろおどろしいものでも置いてあるとお思いになりまして?」

 お瑠璃が問うとお多津は真っ赤な顔をして、うつむいてしまった。どうやら図星だったようだ。

「そ、そんなことは……」

「よろしいのですよ。みなさん、そんな風に仰います。それで、あなたさまは、どのようなお悩みがおありでしょう。よろしければ、私が承ります」

 お瑠璃がはきはきと言うのにも、お多津は面食らっているのかも知れなかった。少し、言いづらそうにあちこちへ視線をやっていたが、やがて、観念したのか、口を開いた。

「どなたにも、言いふらしたりなさいませんか?」

「ええ、勿論です。私どものあきないは、信用第一。でなければ、安心して、お求めいただくことも出来ませんでしょう?」

「ええ、それは……」

「ですから、どなたがおいでになりましても、素性は、探りませんの。その代わりに、掛け売りは致しません。そして、私がお伺いするのは、どのようなお悩みがあるかどうかと言う、その一点だけですわ」

「悩み……」

 お多津は、小さく呟いた。

「なぜ、悩みをきいておられますの……?」

「勿論、お悩みによって、一番最適な品をご提案できると思っているからですわ」

「それは、どういうことなんでしょう?」

 お多津が首を捻るので、「そうですわね」とお瑠璃は思案した。赤い唇を、少しすぼめるのが、考え事をするときのお瑠璃の癖だ。

「たとえば、殿御と過ごすことが少なくなったものの、寂しさを紛らわせたいという方にならば、それなりの張型をお勧めいたします。そうではなく、最近、元気がなくなってしまった殿御にでしたら、鎧型よろいがたや、イモリの黒焼きなどをお勧めいたします。他にも、沢山の品物をご用意いたしております」

 鎧型というのは、殿御の陽のものに嵌めて使う、補強道具だ。その分、女子は、陽のものだけで得られるものとは違った快を得ることが出来る。

「鎧型……というのが、どのようなものか、存じませんけれど……、よく解りましたわ。では、相談に乗っていただければとおもいますが……、悩みを抱えているのは、私の主なのです」

 お多津は、一度言を切った。

「お伺いいたしましょう」

「はい。私の主は、御年、十六歳の、それは美しい方でございますが……事情があって、とある家の後家に入ったのです。それで、新床にいどこは、なんとかすごしましたけれど……、旦那様は、一番下のお子様が、主よりも年嵩。すでに、お子様は、十五人もいるというような方ですので、私の主には、荷が重く……」

「まあ、それは、精力に満ちた方でいらっしゃいますのね」

「ええ、それが、まだ衰えないのですが……、私の主は、こういうことになれておりませんので、なんとか、旦那様の求めに応えられるように、少しでも、慣れたいと仰せになりまして……」

 お多津の目が、潤んでいる。お多津と主の関係は、良好なようだった。そして、艶福家の夫を引きつけておくためには、夜の生活が大切だと、主従は考えて居るようであった。

「そうですわね……ならすのでしたら、やはり張型が、一番だとは思います。ちいさなものから試していただければ、よろしかろうとおもいます」

「そう、ですか……」

 ごくり、とお多津が、喉を鳴らして唾を飲み込んだのを、お瑠璃は見た。

「お多津様のご主人さまは……、こういう道具の使い方は、ご存じでしょうか?」

「え……?」

「……お多津様も、どうやら、張型に慣れたご様子ではないようですし……、少し、使い方を、お教えいたしましょうか」

 お多津の目が輝く。

「是非とも、よろしくお願いします。……こちらで求めても、私と主の二人で、途方にくれるところでした」

「では……、まだ、殿御の陽のものになれていらっしゃらないと言うことでしたら、こちらの、鼈甲のものがよろしゅうございましょう。値は張りますが……」

 と言いつつ、お瑠璃は、長びつの中から鼈甲の張型を取りだした。

 見えるとこには置いていないが、ここでは、客に説明する為にも様々な品を置いてある。そして、ここにある品は、すべて、商品の説明の為に専用に置いているものだった。

 滑らかな、琥珀色をした鼈甲は、殿御の陽のものを模している。大きさはそれほどではないが、ちゃんとくびれもあるものだった。

「ま、まあ……」

「これは、小さなものですから、どなたでも、難なくお使いいただけると思いますよ」

「そ、そうなのですね」

 お多津は、恥ずかしいのか、目をそらした。

「こちらを温めて使います。……真綿を用意して、少し冷ましたお湯で浸してやったものを詰め込んでしばらくする、良い具合に、殿御の陽のものに似た感触になるのです」

 その通りのことを、お瑠璃は支度した。

 お湯を浸した真綿を、張型へと詰めていく。しばらくすると、硬度と、それなりの柔らかさを備えた、暖かな状態になる。

「こういう具合になさるとよろしゅうございましょう」

 お瑠璃は、お多津に、鼈甲の張型を持たせた。

 驚いて落としそうになったお多津だったが、慌ててしっかりと握りしめる。顔が、ぽっと真っ赤になった。

 



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