上 下
6 / 14

6

しおりを挟む


 山階のラボは、会社の片隅にある。彼専用の実験室ということで、膨大な本と、様々な機材で埋め尽くされている。薬剤なども沢山置いてあるのだが、よく解らない。ついでに、妖しげな、角の生えたウサギとか、水晶で出来た髑髏とかの置物がある。およそ、一般人が近寄りたい雰囲気ではない。

「おお、これは、清浦氏。先日渡した、かの妙薬は使われたので?」

 興味深げに、細い目が、さらに細くなって糸のようになる。白衣に長い髪を一本に束ねている姿で、酷い猫背だった。

「うん、使ってみたよ。……えーと、お酒の中に、混ぜてみた。それで、お互いに呑んでみた感じ」

「おや? 一人であの量を飲みきるように言ったはずでは」

「ああ、じゃあ、次の実験では、一人で飲むことにするよ」

「ヨロし。お願い致します。それで……首尾は? 楽しいひとときは過ごされましたか?」

 ふふっと笑いながら、山階の顔が近付いてくる。今日は、受け答えはまあまあ出来ているが、その分、どうも距離が近いようだ。

「山階さん、近い」

「おやおや。失礼。……実は、えもいわれぬ、匂いを感じるような……。フェロモンというのか、妙に引き寄せられる感がありますな。さぞや、盛り上がったのでは?」

「えーっと、うん。盛り上がりました」

「平素と比較した場合で、具体的に」

「いつもは……、一回したら、もう、それで十分なんだけど、昨日は、明け方までやってもやっても、止まらなくて……ずっと気持ちいいのが続いて、凄かったです」

 身体の奥が、あの熱の感触を思い出して、しまう。

「……持続性は十分。では、硬度は? いつもと比べて感触は如何でしたか?」

「えーと、結構、明け方まで固かったかも……。感触は……いつもより、感じやすかった気がするけど、めちゃくちゃ過敏になったって言うわけじゃないかんじ」

 あと、大樹が、言葉責めが増えたとか、いろいろ差はあったような気がする。

「ふむ……想定しているより、少し、効果が弱いような。やはり、一人分の分量を、お二人で呑んだのが原因かと」

「あ、あれより……凄いって事だよね……?」

 それは、単純に怖い。だが、その反面、もっともっと、強い快楽を感じてみたいと思う自分もいる。

「清浦氏。本来、その薬は、拷問の為にも使うようなものなのです。個人的には、安全に、楽しく快楽を楽しむ為だけの道具にしたいものですが、それでも、作用の上限は知っておきたいのですよ。とくに、清浦氏のように、性欲が強めの方のデータが一番欲しいのです」

「性欲が強めかなあ」

 好きな人と、触れたいと思うのは当たり前のことではないのだろうか。と首を捻っていると、山階が口を開く。

「様々なメディアでは、恋愛の成就の幸福な形の完成形のように、性行為が描かれますからね。特に、女性向けの作品などでは。そういう意味で、清浦氏は、大方、好きな人と触れあいたいという欲求は、そういう刷り込みによって生じたものであると考えられますが、実際の欲求ということに目を向けた場合、特に男である我々は、性行為と感情は、元来別個なものであるはずなのです」

「じゃあ、好きだからしたいっていうのは、幻覚ってこと?」

「文化的に共有された、認識であると言えるでしょう。大きな家を持ち。立派な車を持つのが、すなわちお金持ちで、立派な人間だというような刷り込みと一緒です」

 とはいえ、と山階は言を切った。

「……とはいえ、私は、個人的な興味で、私の実験に付き合ってくれるあなたの事を、ありがたく思っているのです。ですから、あなたの、セックスライフが、満ち足りたものであるための薬の開発については、協力を惜しみません。時に、清浦氏。あなたは、セックスの際に、ローションのような潤滑剤をお使いですか?」

 ものすごい勢いで巻きし立てられ、たじろぐ彼方だったが「うん、使うけど」と小さく呟く。

「なるほど。今回は用意出来ませんでしたが、次回は粘度の高い液体状のものをご用意しましょう」などと呟きつつ、メモを取っている。どうやら、アイデアが生まれたのだろう。ぞんざいに「これはお一人で一回に三錠呑んで下さい。アルコールでは呑まないように。呑んでから二十分程度で、効果が出始める予定です。効果が出始めた時間は控えて頂ければ幸いです」と言って、紙袋を渡すと、パソコンに向かってしまった。

「あ、ありがとうございます?」

 没頭すると、人のことなど気にならなくなるらしい。それが、天才と言われるゆえんだろう、と凡人の彼方はぼんやり思いながら、研究室をあとにした。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月
BL
闇のオークションの女神の話。 嶺塚《みねづか》雅成、21歳。 彼は闇のオークション『mysterious goddess 』(神秘の女神)での特殊な力を持った女神。 美貌や妖艶さだけでも人を虜にするのに、能力に関わった者は雅成の信者となり、最終的には僕《しもべ》となっていった。 その能力は雅成の蜜にある。 射精した時、真珠のように輝き、蜜は桜のはちみつでできたような濃厚な甘さと、嚥下した時、体の隅々まで力をみなぎらせる。  精というより、女神の蜜。 雅成の蜜に群がる男達の欲望と、雅成が一途に愛した男、拓海との純愛。 雅成が要求されるプレイとは? 二人は様々な試練を乗り越えられるのか? 拘束、複数攻め、尿道プラグ、媚薬……こんなにアブノーマルエロいのに、純愛です。 私の性癖、全てぶち込みました! よろしくお願いします

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

【R18】俺とましろの調教性活。

しゅ
BL
作者の趣味しか詰まってない。エロしかない。合法ショタっていいよね。 現実での合言葉は『YES!ショタ!ノータッチ!』 この話の舞台は日本に似てますが、日本じゃないです。異世界です。そうじゃなきゃ色々人権問題やらなにやらかにやら......。 ファンタジーって素晴らしいよね!! 作者と同じ性癖の方、是非お楽しみくださいませ。 それでは、どうぞよしなに。

ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話

こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。 家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?

週末とろとろ流されせっくす

辻河
BL
・社会人カップルが週末にかこつけて金曜夜からいちゃいちゃとろとろセックスする話 ・愛重めの後輩(廣瀬/ひろせ)×流されやすい先輩(出海/いずみ) ・♡喘ぎ、濁点喘ぎ、淫語、ローター責め、結腸責めの要素が含まれます。

【BL】婚約破棄されて酔った勢いで年上エッチな雌お兄さんのよしよしセックスで慰められた件

笹山もちもち
BL
身体の相性が理由で婚約破棄された俺は会社の真面目で優しい先輩と飲み明かすつもりが、いつの間にかホテルでアダルトな慰め方をされていてーーー

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

処理中です...