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恋、と自覚してからは早かった。
そもそも、自分が恋愛対象外だろうという仮定から始まったので、ストレートに告白することにしたのだった。直接言うと振られたときのダメージがしんどいとは思ったが、メッセージでやりとりをしていると冗談だと勘違いされるかも知れない。
そのことを考えたら、直接呼び出して告白するのが一番だった。
そして、告白は、多分、大樹が『訳もわかっていないまま』成立して、ほぼ押しかけ恋人のような形になっている。
(することはしてるくせに)
少しだけ不満だが、大樹のほうから誘うこともない。彼方が迫らなければ、何ヶ月も放置されるだろう。そもそも、それほど、性的な欲求があるタイプにも見えなかった。
少し求めなければ、向こうから求めてくるのではないだろうか。そう考えた末に、一週間、なにもしないで、いたが、大樹は逆に快適そうだった。それが悔しくて、知り合いから、媚薬を譲って貰った。
向こうから誘われることはなかったが、その代わり、朝まで解放されずに抱かれっぱなしだったのは、躰はしんどいが満足感が高かった。
とりあえず、東久世に言われた手前、大樹のところへ行かなければならないだろう。スケジュールを確認する。しばらく、商談は入っていないようだった。会議室の予約を済ましてから、席を立つ。
「黒田」
後ろから声を掛けると、「うえっ!?」とひっくり返りそうなほど驚いて、大樹がふり返る。
「どうしたの?」
「あ、いや、その、凄い、びっくりして……」
大樹が小さく答える。
「めちゃくちゃ挙動不審だって。悩み事でもあれば、話を聞くけど? 会議室、予約したから」
大樹の顔が、傍目にわかるほど、ぽっと赤くなった。
「うん……」
語尾を濁しつつ、大樹が立ち上がる。頭一つ分高い。隣にいるのが当たり前になった、なれた、存在感だった。
「なんかさ、机に突っ伏したり、起きたりしてたみたいだけど、大丈夫?」
「あ、うん……」
ズレたメガネを指で直しながら、大樹は生返事をする。隣にいると、見上げても表情までは分からないのが、少し悔しく思いながら、会議室へ誘う。
社内にはいくつか会議室があるが、その中でも執務室から一番遠い、書庫近くの小さな会議室だ。不埒な気持ちはなかったが人目に触れないほうが良いだろうと思ったのだった。
あまり使われない会議室なので、開けた瞬間、黴の臭いがした。古臭い蛍光灯も、埃を被っているのか、妙に薄暗い。
「なんか、換気したくなるな」
窓を開けようとしたところを、大樹の手が腰に触れてきたので、つい、動きが止まった。
「大樹?」
「昨日、無茶させてごめん。今日も、仕事あるのに……」
心底申し訳なさそうに、大樹はいう。犬ならば、しゅん、と耳が折れているような落胆ぶりだ。
「ほんとうに、そんなことで怒ってると思ってたの?」
「えっ?」
不安げに、大樹の眼差しが揺れている。
「……昨日は……はじめてじゃない? 大樹のほうから、いろいろしてくれたの」
「えっ……っ、とアレは、その……」
「……昨日の夜も話したけど、あれ、薬のせいだから。ちょっと、卑怯だとは思ったんだけど……」
「薬……って、そんなの、どこで手に入れてきたの?」
「えっ? 気にするところ、そこ?」
「うん。危ない薬を飲んで、彼方に何かあったら、そっちの方が嫌だ」
マジメな顔をして、大樹は言う。真剣な眼差しは、心から心配してくれるものだから、それだけで胸が熱くなった。
「嬉しい」
「えっ? そうじゃなくて、出所……」
「ああ、出所は、うちの会社の製品開発研究所の山階さん。社内で有名なマッドサイエンティスト」
「えっ? あの、山階さん? なんで?」
大樹が不思議がるのも仕方のないことだろう。山階研究員は、様々な発明品や、開発品を手がける優秀な人物なのだが……いかんせん、この人と会話になる人が少ない。ところが、なぜか、彼方は山階と会話が出来るということが判明して、たまに、通訳として呼ばれている。
「あー、俺、山階さんの社内通訳たまになるから、そのお礼? メールの作成代行とか」
「……知らなかったんだけど?」
「一応、部署外秘だからさ」
「機密事項?」
「そうなの、我が社の天才だからさ……それで、いろいろ作って貰ったところだよ。昨日のは……甘いシロップタイプの呑むヤツ。あと、錠剤と、別な形状を考えてるっていうけど?」
「別な形状ってなんだよ」
「わからない。でも……また、貰ってくるつもり」
「貰ってきて……、どうするの?」
「どうして欲しい?」
彼方が笑うと、大樹が少し後ずさる。顔が、赤かった。
「……それはっ……」
「また……、今日、大樹の家に行くね?」
「う、うん……」
「じゃあ、俺、山階さんのところに行ってくる。昨日の、使用レポート、言ってこないとならないんだ」
「えっ? ちょっと、レポートって!!!」
「大丈夫~。山階さん俺には全く興味ないから」
「そういう、問題じゃないんだよ……」
背中に、大樹の声を聞きながら、彼方は山階のいるラボへと向かった。
そもそも、自分が恋愛対象外だろうという仮定から始まったので、ストレートに告白することにしたのだった。直接言うと振られたときのダメージがしんどいとは思ったが、メッセージでやりとりをしていると冗談だと勘違いされるかも知れない。
そのことを考えたら、直接呼び出して告白するのが一番だった。
そして、告白は、多分、大樹が『訳もわかっていないまま』成立して、ほぼ押しかけ恋人のような形になっている。
(することはしてるくせに)
少しだけ不満だが、大樹のほうから誘うこともない。彼方が迫らなければ、何ヶ月も放置されるだろう。そもそも、それほど、性的な欲求があるタイプにも見えなかった。
少し求めなければ、向こうから求めてくるのではないだろうか。そう考えた末に、一週間、なにもしないで、いたが、大樹は逆に快適そうだった。それが悔しくて、知り合いから、媚薬を譲って貰った。
向こうから誘われることはなかったが、その代わり、朝まで解放されずに抱かれっぱなしだったのは、躰はしんどいが満足感が高かった。
とりあえず、東久世に言われた手前、大樹のところへ行かなければならないだろう。スケジュールを確認する。しばらく、商談は入っていないようだった。会議室の予約を済ましてから、席を立つ。
「黒田」
後ろから声を掛けると、「うえっ!?」とひっくり返りそうなほど驚いて、大樹がふり返る。
「どうしたの?」
「あ、いや、その、凄い、びっくりして……」
大樹が小さく答える。
「めちゃくちゃ挙動不審だって。悩み事でもあれば、話を聞くけど? 会議室、予約したから」
大樹の顔が、傍目にわかるほど、ぽっと赤くなった。
「うん……」
語尾を濁しつつ、大樹が立ち上がる。頭一つ分高い。隣にいるのが当たり前になった、なれた、存在感だった。
「なんかさ、机に突っ伏したり、起きたりしてたみたいだけど、大丈夫?」
「あ、うん……」
ズレたメガネを指で直しながら、大樹は生返事をする。隣にいると、見上げても表情までは分からないのが、少し悔しく思いながら、会議室へ誘う。
社内にはいくつか会議室があるが、その中でも執務室から一番遠い、書庫近くの小さな会議室だ。不埒な気持ちはなかったが人目に触れないほうが良いだろうと思ったのだった。
あまり使われない会議室なので、開けた瞬間、黴の臭いがした。古臭い蛍光灯も、埃を被っているのか、妙に薄暗い。
「なんか、換気したくなるな」
窓を開けようとしたところを、大樹の手が腰に触れてきたので、つい、動きが止まった。
「大樹?」
「昨日、無茶させてごめん。今日も、仕事あるのに……」
心底申し訳なさそうに、大樹はいう。犬ならば、しゅん、と耳が折れているような落胆ぶりだ。
「ほんとうに、そんなことで怒ってると思ってたの?」
「えっ?」
不安げに、大樹の眼差しが揺れている。
「……昨日は……はじめてじゃない? 大樹のほうから、いろいろしてくれたの」
「えっ……っ、とアレは、その……」
「……昨日の夜も話したけど、あれ、薬のせいだから。ちょっと、卑怯だとは思ったんだけど……」
「薬……って、そんなの、どこで手に入れてきたの?」
「えっ? 気にするところ、そこ?」
「うん。危ない薬を飲んで、彼方に何かあったら、そっちの方が嫌だ」
マジメな顔をして、大樹は言う。真剣な眼差しは、心から心配してくれるものだから、それだけで胸が熱くなった。
「嬉しい」
「えっ? そうじゃなくて、出所……」
「ああ、出所は、うちの会社の製品開発研究所の山階さん。社内で有名なマッドサイエンティスト」
「えっ? あの、山階さん? なんで?」
大樹が不思議がるのも仕方のないことだろう。山階研究員は、様々な発明品や、開発品を手がける優秀な人物なのだが……いかんせん、この人と会話になる人が少ない。ところが、なぜか、彼方は山階と会話が出来るということが判明して、たまに、通訳として呼ばれている。
「あー、俺、山階さんの社内通訳たまになるから、そのお礼? メールの作成代行とか」
「……知らなかったんだけど?」
「一応、部署外秘だからさ」
「機密事項?」
「そうなの、我が社の天才だからさ……それで、いろいろ作って貰ったところだよ。昨日のは……甘いシロップタイプの呑むヤツ。あと、錠剤と、別な形状を考えてるっていうけど?」
「別な形状ってなんだよ」
「わからない。でも……また、貰ってくるつもり」
「貰ってきて……、どうするの?」
「どうして欲しい?」
彼方が笑うと、大樹が少し後ずさる。顔が、赤かった。
「……それはっ……」
「また……、今日、大樹の家に行くね?」
「う、うん……」
「じゃあ、俺、山階さんのところに行ってくる。昨日の、使用レポート、言ってこないとならないんだ」
「えっ? ちょっと、レポートって!!!」
「大丈夫~。山階さん俺には全く興味ないから」
「そういう、問題じゃないんだよ……」
背中に、大樹の声を聞きながら、彼方は山階のいるラボへと向かった。
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