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19.薄汚れた恋情
しおりを挟むルシェールの口内を犯した感触を、まだ、忘れられない。
アルトゥールは、まだ熱を持て余して、自らを慰めていた。今は、手で弄ぶ性器が、つい先ほどまで、ルシェールの……あの、美しい口を犯していたのだ。そう、思った瞬間に、腰が重く震える。
(……今まで見た、どんな姿より、淫らだったな……)
ルシェール自身も、自分のかわいがっていた少年達に『指南』する一環で、口淫をしたことはあるだろう。だが、おそらく、先ほどのように、ルシェールの口を犯したものは居ないだろう。
(ルシェールは……、昂ってくれただろうか……)
アルトゥールのほうは、今までにない、性的な昂ぶりを覚えた。
美しい人を、穢すという薄暗い願望を、思いのままに行ったのだ。張り詰めた欲望は、すぐに、彼の人の口内で爆ぜた。同じような昂ぶりを、ルシェールは感じていただろうか。
無反応だとしたら、すこし、悔しい。
(あの人は、反応しないかもしれないな)
そう思ったら、急に気持ちがしおれていった。
ほどほどのところで、自慰を止め、身を清めてから、寝台に寝転がる。
そもそも、ああいうことをするつもりがあって、ルシェールの寝所へ忍び混んだわけではなかった。ただ、婚約者であるセトレクト侯爵令嬢・マルレーネが訪ねてきて、ナディイラ子爵フィリアリスと、ルシェールの『情事』というものを見てしまったことを、恥ずかしそうに話したのがきっかけだった。
ナディイラ子爵フィリアリスに、かつて『指導』して居たことはしっていたが、それでも、なぜ、彼が訪ねてくるのか、そして、彼に奉仕させたのか。考えれば考えるほど混乱して、問いただしたくてたまらなくなった。
(そもそも、私には、ルシェールを問いただす権利など、あったのだろうか……)
今、冷静になると、そう思う。
ルシェールが、例えば、『指導』の枠組みを離れて、ナディイラ子爵フィリアリスと関係を持ったとしても―――それは、アルトゥールには関係のないことだ。
(私に……、家紋の織りこまれた衣装を送ってきたくせに)
あれが意味するものは隷従だ。アルトゥールを隷従させるということは、その隷従の支配者として、アルトゥールと繋がっていなければならない。
言うなれば、天秤の、両皿のようなものだ。
ルシェールが、アルトゥールに隷従するよう求めるのであれば、彼は、アルトゥールを支配しなければならない。
はあ、と大きくため息を吐いたアルトゥールは、ルシェールの美しい貌を思い出す。
彼の人の口を犯したとき、これ以上はないというほど、興奮した。
(あの人は、受け入れる側としては、無垢だろうな)
そう思ったら、全身の血液が沸騰しそうなほど、得体の知れない興奮を覚えた。
あの美しい人、誰も受け入れたことのない、まったく無垢な身体を、暴いてみたい。
それは処女雪を土足で踏みにじるような行為だ。そこに、どういう、感情が乗っているのかも、よく解らない。
味方として引き入れたい―――というのが、最初の接触理由だったはずだ。
確かに、あの、類い稀な美しさには惹かれたし、出来ることならば、側に置きたいとも思った。二人きりで逢ったとき、彼からは、何故か良い匂いがするような錯覚があって、それに酩酊していたようにも思える。
出来ることならば、真心で結ばれ、友誼なり、もっと別の感情なりを結ぶ相手にしたかったのは確かだろう。だが、それは潰えた。アルトゥールが潰してしまった。
命じて、奉仕をさせたのだ。
ルシェールが次にアルトゥールを見る際に浮かべるのは、やんわりとした微笑などではなく、侮蔑の表情であることは、容易に察する事が出来た。
「……侮蔑か」
あの眼差しに蔑まれる―――というのを想像して、アルトゥールは、何故かそれを、悪くない、と思ってしまった。
侮蔑し、蔑んだ相手に、奉仕を強要され、身を暴かれ穢されるのだ……。
その、歪んだ妄想をしてしまったとき、アルトゥールは、自身の抱く感情に、名前を付けることが出来た。
これは、恋情だ。だが、酷く歪んだ形の、薄汚れた恋情だ。
慈しみ、共に思いを育んでいくという形のものとは正反対のものだった。
けれど、アルトゥールは、この感情を、好ましく思ってしまった。
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