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17.『閨の奉仕』

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『……ロイストゥヒ大公・ルシェール。あなたに、閨の奉仕を申しつける。……先日、ナディイラ子爵にさせたように、私に、仕えてみなさい』



 その言葉を聞いたとき、ルシェールはまさか自分が奉仕する方に回るとは思っておらず、混乱した。一瞬、何を言われているのか解らず思考が飛んだが、執事が銀盆を落とした音で、我に返る。

「だ、旦那様……っ!」

 執事が狼狽えるのも無理はなかった。

 しかし、先ほど、ルシェールが説明したとおりだ。

 この国で伝統的に行われている、閨ごとの指南というのは、皇族に奉仕するためのものである。であれば、その求めに応じるのは、臣として当然のことであった。

 ルシェールは、膝を折って恭しく一礼した。

「かしこまりました」

 執事がオロオロとしているのをちらりと視線を遣って、「お前は下がるように」とだけ命じて、退室させる。

「……先日、ナディイラ子爵は、口淫で奉仕しましたので、私もそのように」

 淡々と、告げてアルトゥールの前に拝跪する。

 前をくつろげて、下着から性器を引きずり出して、手で包み込んだ。

「……口淫か」

「はい。昨日はそれだけを」

 唐突に部屋に闖入して、性的な奉仕を要求してきたアルトゥールの気持ちは解らない。

 だが、別に理由も知りたくはなかった。

「では、してみなさい」

 命じられるままに、そっと、アルトゥールの性器に口づけする。性器の先端。温かくて、若々しい性器だった。それほど、経験はなさそうだな、と思わず値踏みしてしまった。

 フィリアリスや、少年達には奉仕をさせていたが、性交の課程で、少年達に口淫をしたことがない訳ではない。特に、こういうことをするのも抵抗はなかった。

 もし、ルシェールが狼狽える様子を見たかったのならば、拍子抜けしたかも知れない。

 何度か口づけていると、少しずつ、性器に熱が集まってくるのが解る。

 根本から、先端まで、舌全体を使って、ねっとりと嬲る。

「っ……っ」

 小さく、アルトゥールが呻いた。

 何度も何度も、根本から、先端までゆっくりと舐めていると、性器が硬度を伴うようになってた。頼りなげに震えて、張り詰めていく性器が、おかしくて、ルシェールは思わず笑いそうになりながら、アルトゥールの性器を口に含んだ。

「っ!」

 アルトゥールの内腿が震えた。

 立っている状態で奉仕しているので、立てなくなると困るな、などと思うくらいにルシェールはまだ余裕だった。

 口に含んでから、唇と口内、舌を使って、出し入れをしながら、刺激をしてやる。

「っ……っルシェール……っ」

 小さく、アルトゥールが名前を呼ぶ。それに、返事をしてやることはなく、ルシェールは、口淫を続ける。ルシェールの口内で、アルトゥールの性器は熱く脈打ち、容積を増している。

 アルトゥールがルシェールのあたまの後ろに手をやった。そこで固定しつつ、無理矢理に近い形で、腰を動かす。

「ん……っんん……っんん」

 喉の奥まで、欲望のままに腰を動かしてくるアルトゥールの動きについていくことが出来ず、ルシェールの口から、くぐもった苦悶の声が漏れる。

(……あ……犯されている、みたいだな)

 うまく息が出来なくて、ぼんやりする思考の中で、ルシェールは思う。今まで、口淫をしてきたが、こんなふうにされたことはなかった。

 無理矢理喉の奥まで性器を送り込まれるような、酷いやり方だ。

「出すぞ」

 荒い息を吐きながら、切羽詰まった声で、アルトゥールは告げる。

 口内に、射精するということだろう。それも、今まで、ルシェールは経験がない。心の準備もそこそこに、程なく、口内に濃厚な精が放たれたのが解った。

「ぅっ……っ」

 アルトゥールは、乱れた息を整えてから「まあ、悪くはなかったな」とだけ告げて、ルシェールから離れた。

 唐突に放されて、平衡を欠いた身体が、床に転がる。

「……っ」

「まあ、悪くない趣向だな。……ロイストゥヒ大公、今後は、こういう奉仕をするように」

 アルトゥールは、自身の身支度を調えてから、床に転がるルシェールを見下すように言う。

「ご命令とあれば」

 淡々と告げるルシェールに腹が立ったのか、アルトゥールはルシェールの髪を掴んで顔を自分の方に向かせた。

「……んっっ……っ」

「平然となさっているものですね。随分と」

 ルシェールから、アルトゥールの表情は、解らなかった。

「……臣とは、そう言うものでしょう? 殿下と私の間には、主と従しかないのです。そして、私には、ご命令に背く術がありません。私が―――殿下と皇位継承権を掛けて、争いでもしない限り」

 アルトゥールが、息を飲んだ。

「ルシェール……」

「本日の奉仕が満足されたのでしたら、お引き取りを。お帰りは、あちらです。馬車が必要であれば執事に申しつけ下さい」

 ルシェールの言葉は、やはり、淡々としていた。

 アルトゥールが、何か言いたげに、口許が、もごもごと動いたが、やがてルシェールを解放した。

 そのまま、扉へ向かう。退室の間際、振り返りもせずに、アルトゥールは口を開いた。

「手荒なことをした」

「構いません」

 拒絶のような冷ややかなルシェールの言葉に、アルトゥールは何も言わず、退室していった。

 
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