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11.夜会のあと
しおりを挟む夜会はざわついたまま退出することになった。
アルトゥールは「それでは、また、伺います」とだけ告げて去って行く。それを礼をとって見送ってからは、酷く疲れて、城内に宿泊することにした。
「支度はしておりました」
執事は心得たもので、支度を調えていたようだった。
身支度を調えると、やっと一息吐くことが出来て、少し空腹を覚えた。やはり、そこは手慣れた執事なので、「少々つまめるものと、酒を用意致しましたが」と持ってくる。
「貰うとしよう」
用意されていたのは、ルシェールの少ない好物の一つだった。
極々薄く切ってカリカリに焼き上げたパンにゆで卵を崩した作ったサラダに、魚卵の塩漬けを乗せた手の込んだ軽食、チーズの盛り合わせと、フルーツ。辛口の白い葡萄酒。
少し、気分が良くなって、口許が緩んだ。
「……気疲れが酷かった」
「左様でございますか……明日の朝は、いかがいたしましょうか。朝食を取ってから、邸へ戻られますか?」
「ああ、そうだな……。どうせ、何もやることはないから……少し、ここに居ようか。朝食をゆっくり摂って……」
と言った時、扉が、二度鳴った。
執事が速やかに扉に向かう。
「……少々お待ちくださいませ」
来訪者と少々のやりとりをしてから、執事が、困り顔で現れた。
手には、手紙を持っている。
「皇太子殿下でございます」
「なんと?」
「まずは、口頭にて……明日、朝食をご一緒するようにと。ご同席は、皇太子殿下お一人でございます。場所は……、皇太子殿下の私室にてとのこと」
不愉快な気持ちになったルシェールの秀麗な眉が、歪んだ。
「なぜ」
「……そこまでは。ただ、こちらの書簡も受け取りましたので……」
ルシェールは乱暴に、手紙を奪い取って、中身を確認する。
『本日は夜会へご一緒出来たことを心より嬉しく思います。
どうぞ、明日は、朝食をご一緒出来れば嬉しく存じます。』
ただ、それだけが書かれていた。
真意は分からない。
今、城内に居るので、明日、召し出しがあれば、無視をすることは出来なかった。
「皇太子殿下は……、旦那様に興味がおありのようですね」
「ん?」
執事は、通常、こういう世間話をしないものだ。それがわざわざ話をしているのだから、何かがあるのだろう。ルシェールは、無言で続きを促した。
「……皇太子殿下が、旦那様にご執心、というのが、最近、流れている噂でございます」
「それで?」
「噂に乗ろうとなさっているのかと」
一人でも多くの味方を必要としている皇太子であれば、そういうことをするだろう。
特別に親密―――肉体的な関係をも、結んでいるという噂の類いであろうことは、容易に想像が付いた。
「朝餉に向かえば、その噂がさらに広まることになるだろうな」
どうにも、皇太子に振り回されているような気がするのが、ルシェールには気に入らない。
ナディイラ子爵フィリアリスに、見せつけるために、耳にキスをしてきたのも、ルシェールは気に入らない。
今すぐ、邸へ帰っても良いような気がしたが、すでに、就寝の支度を追えている。
「……面倒な事だな……。だが、致し方ない。殿下には、承った旨、お返事を。……手紙には、返信はしない」
「畏まりました」
「……煩わしいな」
軽食を口に運んで、白い葡萄酒で流し込む。
いつもならば。これで機嫌は直るが、苛立ちが収まらなかった。
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