57 / 61
57
しおりを挟むレリュが戻ってきたのは、夜更けだった。テシィラ国の国王とは直接やりとり出来たと言うことで、レリュは笑いながら戻ってきた。レリュの帰還を、会議室で待っていた私達は、彼の無事な姿に心から安堵した。
「面白かったねぇ。大神官様が『護符』をお持ちだと告げたら、顔を真っ赤にして怒りだしてねー。いやいや、面白かった」
「お渡しした品々の説明は?」
「特にしなかったけど、見れば解るでしょ? とりあえず、『内々に』こちらへ来てくれると言うことになったよ」
「それは、大変お手数をおかけ致しました。感謝します」
レリュは笑いながら、私に国王からの書簡を見せた。内々に、とはあるが場所は神殿になっている。一緒に軍勢も引きつれてくるのは、予想が出来た。
「それで、大神官様は、どう、交渉するつもりですか?」
スティラが私に問う。
「特別な交渉はありませんよ。多少の材料があるとしたら……この、護符くらいなものです」
「それで、あの国王と会談しようというのが無謀なのです……」
「何事も、やってみなければ解らないと思います」
あの国王にとって―――ラーメルという神官が、自ら命を捧げたというのは、全く救いにならないことだろう。こちらの偽装を疑うかも知れない。私は、ラドゥルガのことを公表しようと思っていた。スティラには内密に、準備を始めている。
かつて、私達が、『聖遺物』を使い、その為に一つの村が消えた。このため、我々は、『聖遺物』を二度と使ってはならないと――そう公表する予定がある。その為には、『聖遺物』を完全に無効化する必要がある。
それが―――テシィラ国の国王の為に、そして大神官として出来る精一杯のことだ。方法が、悪意をまき散らす『神』に交渉することしかないというのが、この無謀な計画が成功するかどうかを分けているだろうか。
「また、あんた、無謀なことを考えてるだろ」
シンが私の顔をのぞき込んで、言う。
「別に……たいしたことは考えていませんよ。全魔力を掛けて、『神』に交渉するだけです。あとは、テシィラ国の国王には、心からの謝罪を考えています」
「敵陣中心に呼びつけておいて、心からの謝罪もないだろうよ……あんた、今度はあの男と差し違えるとか、そういうことは考えていないだろうな」
シンが疑わしそうな顔をして私に問い詰める。そんなつもりは毛頭無いのだが……とスティラに助けを求めようとしたが、スティラも私をじっと睨み付けている。ここに私の味方はいないらしい。
「そんな、私は信用がないでしょうか……?」
「大神官様。あの男に平気で色仕掛けをしようとした過去をお忘れなく」
「この間は、呼び出されて、誰にも秘密で勝手に密会に行ったし。……浮気じゃないか。完全に」
「あの時は、あなたが、酷いことを言ったからですよ」
それにあの時の私は、シンから拒否されたと思っていたので、あの時点で、私は失恋をしたと思っていた。それならば、あれは浮気だったのだろうか。結果としては、テシィラ国の国王は、私を通して、私ではない誰かを見ていたのが解ったので、それも微妙な話だ。
ラーメル。という神官に、勿論、私は面識はない。けれど、ラーメルという人は、どれほど、私に似ていたのだろうか。もしも―――私が、ラーメルという神官に似ていなければ、もう少し、あの男の神殿に対する『復讐』は簡単に終わったのかも知れない。
「何を考えている? ルセルジュ」
シンが、人前で私の名前を呼ぶのは珍しい。スティラも、おどろいている。
「特に、たいしたことは考えていませんよ。ラーメルという人は、どれほど私に似ていたのかとか、そういうことは気になりました」
「写真があったら、良かったのにな」
スマホ、で見ることができる異世界の光景を想い出した。そして、ユリと一緒に幸せそうに笑う、シンの姿も。
「そうですね」
「けれど、どれほど、その神官に、大神官様が似ておいでだろうと、関係ありません。大神官様は、そのものではないのですから」
スティラは、そう言うが、あの男は、私の姿形に引っかかっている。おそらく、本来の計画通りには進んでいないのだ。だから、私は、あの男の中に残った、恋心に賭けるしかない。まだ、あの男が神を信じていた頃。ラドゥルガで、幸せに暮らしていた頃のこと。その頃の暖かい恋心だけに。
会談は、深夜、ということで指定されている。例によって、また『二人きり』ということだ。私は、あの国王から、どうにも信頼されていないと言うことだけは理解したが、それはお互い様なので、別に構わない。
会談の交渉の間に、神殿領は、テシィラ国の軍勢に完全に囲まれていた。このあたりのことをとやかく言うつもりはなかったが、今回の素早い動きには、関心する。国王に何かあれば、すぐに火矢が射られる手はずになっているのだろう。神殿領が包囲される過程で、サジャル国が派遣している軍勢は、テシィラ国の軍勢によって、神殿領から殆ど退去させられたという。それは、門番のレダルが私に伝えてくれた。レダルは、サジャル国から来た兵だ。テシィラ国の軍勢に蹴散らされるところを、自分の信頼出来る人たちを連れて、神殿の最奥であるここまで駆けつけてくれたとのことだった。
テシィラ国の国王は、今回こそ、神殿への『復讐』を遂げるつもりだろう。で、あれば、人の命を吸って、その分威力を増すという『聖遺物』の発動の為に、自軍の兵の命すら使うつもりなのかも知れない。
だが、それは、私が、させない。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話
匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。
目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。
獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。
年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。
親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!?
言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。
入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。
胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。
本編、完結しました!!
小話番外編を投稿しました!
SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─
槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。
第11回BL小説大賞51位を頂きました!!
お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです)
上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。
魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。
異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。
7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…?
美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。)
【キャラ設定】
●シンジ 165/56/32
人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。
●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度
淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
裏の権力者達は表の権力者達の性奴隷にされ調教されてます
匿名希望ショタ
BL
ある日裏世界の主要人物が集まる会議をしていた時、王宮の衛兵が入ってきて捕らえられた。話を聞くと国王がうちの者に一目惚れしたからだった。そこで全員が表世界の主要人物に各々気に入られ脅されて無理矢理、性奴隷の契約をすることになる。
他の作品と並行してやるため文字数少なめ&投稿頻度不定期です。あらすじ書くの苦手です
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる