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 生まれて初めて、他人に、中心を触れられて、一瞬、息を飲む。

 直に、シンの手が、私の中心を優しく包み込む。

「……ふ……」

 呼気が、尖った。

「大丈夫? ……気持ち悪くない?」

 そう問いながら、シンはゆっくりと手を動かしている。私の手より、すこし、大きくて骨張った手だった。それが、ゆっくりと上下に動いている。

 全身の意識と血液が、そこに集中して、どくどくと脈打つ。

「あ……、っ……だ、大丈夫……、です」

 欲望というのは、人より希薄だという自覚はあったが自分の手で、埒を明けたことがないわけではない。だから、この行為で得られる快楽は知っているつもりだった。けれど、シンの手が、私に与える感覚は、その、想像を遙かに超えていた。

「……シ……」

 名前を呼んで、縋り付く。あっという間に、呼気が荒くなって、勝手に、快楽を求めて腰が動いてしまう。

 どんなに、浅ましい姿だろうか……。

 シンが、それを、失望しないか。それだけが、私は気になった。

 私の、不安を見透かしたように、シンが、微笑む。瞼に、そっと口づけを落としてから「反応してくれて嬉しい」と耳元に囁かれた。熱に浮かされたような、少し掠れた声に、私は、腰が、ずん、と重く震えるのを感じた。

 もどかしくて、シンの身体から、服を剥ぎ取る。彼の、素肌を感じたかった。

「……ルセルジュ」

 少し、窘めるような声音だった。

 早く、もっと早く、もっと全身で、シンを感じたい。無我夢中で、彼に縋り付いて唇を奪う。

「……んっ……、最初だからさ……」

 シンが、困ったような声をして言う。

「えっ?」

「……少し、手加減しなきゃとか、慣らさないと、辛いんだとか……いろいろ合ったのに、全部吹っ飛ぶだろ」

「あなたになら」

 私は、思わず口走っていた。「……どう、されてもいいです」

 シンが顔を手で覆って、天井を仰いだ。

「……ちょっとまって」

「えっ?」

 急に、シンは離れた。一人、寝台に取り残されて、私は、所在なくて不安になる。シンは、急に、どうしたのだろう。私が、嫌になった……とか、私を抱くのは嫌になった、とか、後ろ向きな事ばかり考えてしまったが、シンは、やがて戻ってきた。

「……ごめん……、これ、あった方がラクだから。隣の浴室に用意されている香油」

 香油、と聞いて顔が、熱くなる。火が出そうなほど、という言葉が、これほどふさわしいことはないだろう。

 交わるための、潤滑油として使う――という、通り一遍の、知識は私にもある。

「できるだけ……、手加減はしたいんだけど……」

 シンが、困ったように言う。

「……ゴメン」

 シンが、私に覆い被さってきた。先ほどよりももっと深く――呼気を奪うようなやり方で口づけられて、苦しくなる。くらくらした。断続的に、絶え間ない目眩に襲われる。長い長い口づけを交わしながら、シンは、私の身体から着衣を奪い、身体中を撫でていく。胸の尖りに触れられたとき、びくんっと身体が跳ねて、喉がのけぞった。

「っ……っ!」

「……こんなところが、感じるなんて……って顔してる」

 シンが笑う。

「……だって……、それは……」

「男だって、ここは気持ちが良いよ。……きっと、口でしたほうが、気に入ると思うけど?」

 気に入る、と言われて、恥ずかしくて返事も出来なかった。シンは、指の腹で、胸の突起を押しつぶしたり、つねったりしている。それに翻弄されて、私の口からはあられもない甘い喘ぎ声が漏れ続ける。

「……あっ……ぁっ、あっ………っ、あっ……っ」

 誰かに聞かれたら、と急に不安になって、口許を手で覆おうとしたら、その手を捕らえられて、シンに口づけられた。

「……っん」

「声、聞かせてよ」

「……でも、その……」

「大丈夫……みんな、気を利かせて、離れてるよ」

 言葉の意味に気がついたとき、私は、卒倒しそうになった。それは、私と、シンが、こうしてむつみ合っているのが、周知の事実と言うことではないか。

「……っ!!!」

「……あんたは、感じててよ……俺以外のことは考えないで。今は……」

 甘い囁きが、私の思考を毒していく。

 俺以外のことは考えないで、というシンの言葉が嬉しくて、たまらない。

 そのうちにシンの唇が、首筋をたどり、鎖骨に一つ、口づけを残してから、胸へ降りてきた。柔らかな唇で甘く食まれ、歯を立てられ、ぬめりを帯びた熱い舌で、ねっとりと嬲られて、一瞬、意識が飛んだ。

「っ――――っ!」

「ほら………これ、すきでしょ」

 いつの間にか、シンの手が、私の中心を好きに嬲っている。上下に熱かったり、入り口を刺激したり、あっと言うままに追い詰められて、呼吸が追いつかない。全身が熱くてたまらなくて、口からは、自分のものとは思えないほど甘い喘ぎ声が漏れる。

「っ、あ、っ……っ……っ、あっ……っ」

 目の前が、明滅している。忙しなく、息をしながら、私は、必死にシンに縋り付く。

 シンが、耳元に「いって良いよ」と甘く囁いてから、私の耳朶をきつく、噛んだ。

「っ……っ!!!」

 無造作に、意識が分断される。ものすごい浮遊感にも似た感覚のあと、私は、達していたことをしって、恥ずかしくなった。急激に、意識が覚醒してくる。けれど、まだ、シンの中心は、雄渾なままだった。私は、それに手を伸ばそうとしたのを、シンにやんわりと制された。

「……少し、足、開ける?」

 丸裸で、足を開け、と言われるのが、酷く、恥ずかしかった。シンが、足を開かせれば良いのに、私の意思で、足を開かせると言うのに羞恥心が燃え上がりそうだった。

「少し、腰を浮かせられる?」

 ちょっと体制的に辛いんだけど、と言いながら、シンが枕に手を伸ばして、腰の下に忍ばせた。自分でも見たことのない、奥まった場所が、丸見えだと言うことに気がついて、恥ずかしくて、顔を手で覆ってしまった。

 シンは、香油の瓶を取りだして、蓋を開けた。そして、ゆっくりと、そこへ、香油を垂らしていく。

 香油の、ひんやりとした感触を感じて、そこが、収縮する。

「……っ」

「……ここ、使うから」

 シンの指が、ゆっくりと、入り口を撫でる。円を描くように、ゆっくりとゆっくりと、撫でられて、私は、また、自分の欲望が良くを、主張し始めたのを感じていた。

「あ……っ、シン……」

「焦らないで。……怪我をしないように、ゆっくり……慣らすから」

 ゆっくり慣らす、と言った通り、シンは、ゆっくり、そこを撫でている。時折、指先が、中に入って、押し広げるように、撫でていく。内部。粘膜を直接刺激されて、足が震えた。欲望を、手で触れられるのとは、全く違う性質の快感が、身体の内側から、じわじわと広がっていく。

「シン……っ……」

 シンは、辛抱強く、私に口づけたり、胸や欲望に触れながら、私の最奥を暴いていく。

「あ……シン……も……」

 指が、滑らかに出入りして居る感触がある。指は、二本に増えていた。奥の方を刺激されて、勝手に腰が動く。もっと、もっと、そこを満たして欲しいと、心から思った。

「……シン、……お願い……」

 哀願にも近い私の言葉を聞いたシンが、「まったく」と小さく文句を口にする。

「えっ?」

「……もう、俺も、限界……。ああ、本当に……」

 指を、そこから抜いて、シンの先端が、私の入り口に押し当てられた。指より、ずっと、確かな質量で、ずっと、熱かった。思わず、身を縮こめた私の手を、シンが取って、指を絡ませる。二度と、放さないと言ってくれたような仕草に、胸が熱くなった。

「……ああ、ほんとうに、……ちゃんと、手加減しようと思ったんだよ。こっちは、いろいろ、一応、経験者だし」

 手加減しなくても、構わないと。私は言おうとしたけれど、言葉は出なかった。

 シンが、私を見つめていた。

 今まで見たことのない、情欲を湛えた眼差しだった。少し、怖いと、思って退け腰になったのを、シンは見逃さなかった。ぐい、と腰を進める。

「っ…………っ!!!」

 入り口を、割って進むシンの欲望の感触が、強烈すぎて、息が出来ない。

 苦痛なはずなのに、それよりも、もっと隠微な快楽を感じていた。

「あ…………っ……っあっ……っあっ……っ」

 シンの手を、強く握る。シンも、握り返してくれた。そのまま、一気に、私の奥へ、シンの欲望がねじ込まれる。

「っ……あっ、」

「……あ、……ゴメン、ルセルジュ」

「えっ?」

 なぜ、シンが、謝るのか、私には解らなかったが、シンは、はっきりとした欲情の眼差しで、私を見た。私は、その、眼差しから逃れることは出来なかった。

「……酷くしないと思ったのに」

 一つ、シンが溜息を吐いて、私を見下ろす。

「……酷くしたい」

 どくん、と私の腰が震える。全身の血が、沸騰しそうだった。鼓動は、早くて、呼気もうまく出来なくて、私は、シンに付いていくのが精一杯だったのに、シンに、そうされたいと思った。シンの、心のままに、私のすべてを貪って欲しいと思った。

「……酷く、して」

 私の言葉は途中で途切れた。シンが口づけてきたからだった。シンは、我を忘れたように、私の腰を捕らえて、懸命に、腰を打ち付けてくる。

 内壁を擦られて、痛みだけではなく、強い快楽を得て、私の方も、何度も意識を飛ばした。

 シンの汗が、私の肌に落ちる。

 何度か、彼も、私の内部に精を放っているのが解った。

 シンが腰を打ち付けるのが、だんだん滑らかになっていくし、その方が、快楽を拾いやすかった。そして、そのせいで、聞くに堪えないような、ぐちゅぐちゅという音がこだまする。それは、肉を張る音と、私の、嬌声と、お互いの荒い呼気の音に混じり合って、酷い調和だった。

 なんど、達したか、解らない。

 初心者には、むちゃくちゃだった。それは、よく理解していた。

 ただ、私は、我を忘れるほど、シンが私を求めてくれたことが、嬉しくてたまらなかった。




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