風の鎮護歌

ななえ

文字の大きさ
上 下
23 / 34

第二部 好奇心はやっかい事を招く 4

しおりを挟む
「やってしまったなぁ」

 背後を走るフェリオを見、周りを見た。
 野次馬が何人か転がっていた。
 オリビエにしてみれば、ちょっとビリビリさせてやろうぐらいのものだったが、いつものごとくの結果に苦笑しか出ない。

 路地を戻るにつれ、新たなる野次馬たちが口々に「さっきの物凄い光は何だ!」と、集まってきていた。
 たまに現場方向から来ているというだけで捕まり、「何があったんだ?」と訊かれる始末だ。

 街中にやっと入るとまた別の野次馬の人垣があった。
 その隙間からこのゴタゴタの大元、オリビエに麻袋を投げつけた青年、トザレが黒ずくめたちと剣を交えていた。

「あー、ずるい! こっちの方が人数少ない」

 場違いな苦情がオリビエの口から出る。

「でも、あのお兄さん、トザレだっけ、かなりマズいね」

 関係者となってもオリビエの感覚は野次馬だった。

「オマエなぁ。呑気に見ている場合か? さっさとあの男にその厄介物を返せ。でないとこれからずっと黒ずくめたちに追いかけられるぞ」

 返したところで放免となるかは不安だったが。

「だね。けどさ、ちゃんと返せるかなぁ」

 奪い取られる可能性もある。

「オマエのことだから、黒ずくめの手に渡るのが嫌なんだろう。だったらさっさと助けるぞ」

 なかなか動こうとしない。オリビエの性格からすれば、こうだろうと指摘する。
 受取人、トザレに渡す前にもしやの事態になったら、奪い取ろうとする黒ずくめたちよりもトザレが持って行こうとしていた所に届けたいといい出すはず。
 全く関係がないが、渡したくなければこうなる。

 これが二人のいつものパターンだった。お人好しコンビと皆から兪やされる。

「そうなるか……って、待って!」

 剣の柄に手をかけているフェリオの腕を掴む。

「面倒なの来たよ」

 自警団がこっちに向かっているのが見えた。

「うわぁ!」

 視線を戻せば、当のトザレが二人の元へ駆けて来ていた。

「街外れのラグニー森にある木こり小屋にいる」

 オリビエとすれ違いざまに告げた。

「え! 待て! うぐっ!」

「黙るんだ」

 振り返り、文句をいい出しそうなオリビエの口を背後からフェリオが塞ぎ、野次馬の中へ紛れ込む。
 トザレの後を追う黒ずくめとそれを追う自警団の目を欺くために。厄介な事になったとしみじみ思いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷
ファンタジー
 セレスタ・ラウは帝国魔術学院で魔術を学び、優秀な成績で卒業した。帝国魔術師団への入団も間違いなしと言われていたが、帝国から遠く離れた村の教会に配属を希望する。  ある夜、リュシールという女吸血鬼と出会う。彼女はセレスタを気に入ったと告げ、とある計画への協力を求める。  "光"の魔術師と"闇の住人"である吸血鬼、二人の冒険と戦いと日常を書いたファンタジー。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...