風の鎮護歌

ななえ

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第二部 好奇心はやっかい事を招く 3

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「あいつに渡ったぞ!」

 黒ずくめの一人が叫ぶや一団は、二手に分かれる。
 一方はそのまま青年を追い、もう一方は麻袋を持ちきょとんとしているオリビエの元へと。

「ひー! なんなんだよ?」

 これまた条件反射で後生大事に麻袋を握りしめて逃げ出した。

「待て! やつらの狙いはその麻袋だ、どこかへ放り投げろ!」

 その後を追うフェリオは叫ぶ。

「そうか! ああっ!」

 焦り、街中を考えなしに走ったのがマズかった。二人は袋小路に入り込んでいた。
 出口は黒ずくめたちが塞いでいる。

「いいか、オレたちはただの通りすがりなんだ。オマエたちが欲しがっている物を素直に渡したら、オレたちに何もせずに引くか?」

 渡せと一人の黒ずくめが近付いて来ている。剣を持たない手を突き出して。
フェリオは愚問と知りつつも口にした。
 こういった者たちの感覚は、関わった者全てが関係者。殺るか殺られるかなのだ。
 フェリオの問いに黒ずくめたちの間に流れていた空気が変わった。

 明らかに否と嘲笑っている。

 この二人も傭兵、雰囲気を読むことはできる。こういった命のかかったやり取りならばなおのこと敏感になる。
 しばらく双方睨み合いが続いていたが、野次馬が集まってきていた。
 マズい展開だ。大暴れをすると周りに被害が出る。

「もう一度いうけど、オレたちは本当に無関係なんだ!」

 不意打ちを狙い側面に回り込んで麻袋を奪おうとしていた黒ずくめをオリビエは躱す。
 これを期に黒ずくめたちは二人に襲ってきた。

「無関係な相手に無駄な体力を使うのは止めた方がいいぞ」

 フェリオは、一振りで複数の黒ずくめを倒していた。

「どうであれ、オマエたちはその麻袋を我々に渡すよりもトザレに渡すことを選択するだろう」

「はぁ、分かっているんだ。だってあんたら、見た目怪しすぎるよ」

 交えていた剣を引き際に後ろに飛び退くオリビエは唸る。

「あのね。こんなこというオレの方が悪役みたいだけど。こんな稼業をしていたら、自分の身の安全が一番になるの。まあ、どっちにしてもあんたたちはオレたちのいい分も聞かないで暴力で全てを解決しようとしたのが気に入らないから、あげないけどね」

 呑気に話しているようだが、こんな間にも黒ずくめは上段に構えた剣を振り下ろしてくる。それを素早く斜めに避け、オリビエは自分の剣で相手の脇腹を切りつけた。
 手応えはあった。が、当の黒ずくめを見れば、ダメージを受けた気配が全くない。

「あいにくだな」

 不敵に笑われる。

 どうしてなんだ? と、オリビエは切りつけた辺りを見れば、敗れた黒い布の下に金属の光が見えていた。

「ほら、どうした?」

 この一瞬の隙に黒ずくめの剣がオリビエの頬をかする。

「いてー!」

 即座に反撃に出たが、態勢はオリビエにとって不利なものになっていた。

「うーっ! うっとうしい!」

 負けず嫌いのオリビエが大声を出した。
 できれば穏便に済ませたかった。だが、黒ずくめは強すぎる。
 剣を鞘に納め、片手を目の前の黒ずくめに突き出す。

「降参か?」

 オリビエのおかしな行動の真意を測れない黒ずくめは一歩引く。

「バーカ! オレは嫌いな奴には降参しないの」

 言うや手を上空へ動かす。

「う!」

 閃光が辺りを支配した。
 目の前の黒ずくめは剣を落とし地面へ倒れ込む。

「ビリビリ攻撃だ!」

 冗談のようにいい、成功! と左手で握りこぶしをつくり喜んでいた。
 オリビエは、威力は抜群だが制御力は皆無という魔法を使ったのだった。

「けど、眩しかったな。ハスラムが使っていた時はここまでじゃあなかったけど」

 魔法をきっちりと習ったことはなく、ほとんど誰かが唱える呪文のまねをして使っていた。これはオリビエのはた迷惑な得意技だった。

「まあいいか、壁は無事だし」

 周りの被害の確認をした。壁際に積まれていた木箱が何個か壊れているだけだった。

「あ!」

 木箱が音をたてて動いた。黒ずくめかと構えれば、相棒だった。
 辛うじて剣を杖代わりにして立っている。

「フ、フェリオ! 逃げるぞ!」

 怒られる! オリビエは焦った。

「バカ野郎! いつもいっているだろう。味方にまで被害を出すようなものを使うなって!」

 フェリオはオリビエの怒声を聞き、切れた! と咄嗟に近くにあった木箱の裏へ隠れた。次の瞬間、大きな雷が辺りを襲う。
 かなりの威力だったので完全には避けることができなかった。

「いやーっ、さすがフェリオ。その辺りに転がっているやつらとは違う。立っていられるんだから」

 余計に怒りをかうようなことが口から出てしまう。

「いつものことで、慣れさせてもらっているからな」

 小言をいいたいが、今はそんなヒマはない。だが、せめて嫌味ぐらいは返したい。

「さっ、さあ。早く逃げようよ。あいつらが転がっているうちに」

 剣を鞘に戻しているフェリオに、痺れはマシになったと判断してオリビエは出口へと駆け出した。
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