風の鎮護歌

ななえ

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謎の石 1

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 横になってから真面目に考えた。
 今日の昼間は何も拾っていないし、こんなにきれいなに石を手に入れたら忘れたりはしない。
 ちゃんといわなければと結論が出た頃には眠ってしまっていた。


「どう考えてもこれは夢の中で貰った物なんだ!」

 目が覚めるなり飛び起きて叫んでいた。

「まだ言うか?」

 先に起きて出発の準備をしていたハスラムは、適当に流した。

「早く準備しろ。カーリーと途中まで一緒に行きたいんだろう」

 のんびりしていたら置いて行かれる。

「でもね。でもね、そうなんだよ。絶対に」

 それでもオリビエは食らいつく。
 いつもなら適当にあしらうと拗ねてしまい黙り込むのだが、今は、らしからぬ行動だった。

「分かった。どんな夢だったんだ」

 よほどのことなのか? ハスラムは心配になりベッドに座った。
 それに嬉しそうに隣に座りオリビエは話し始めた。やっと信じてもらえたと。


「その男が願いを叶えてくれと言ってこれを渡されってことか。綺麗な石だけど、これが願いに関わっているのか謝礼のどっちになるのか?」

 ハスラムはじっとオリビエの手の平にある石を見る。

「あれ?」

 何かが見えた。

「この石、精霊が宿っている。珍しというか貴重なものだぞ」

 ハスラムは、手に取って凝視した。

「精霊? どれ?」

 二人共精霊を見る力がある。

「ほら」

 興味津々の瞳を向けてくるオリビエの目の前に石を持っていき、これだと指で示す。

「あ、点々が動いてる」

「どうしてこんな貴重な物を……」

 言葉が続かない。

 精霊が宿る石は、精霊が自ら住み着いているか魔術で封じられているかのどちらかで、今では手に入れることが皆無に近いものだった。

 それを預けた、それも夢の中で。
 信じられない。こうとしかハスラムは考え付かない。

「知っているよな、この石は中にいる精霊の種類の術を呪文がなくても使えるって物で、他の石と組み合わせれば、護符になる。それも強烈な力を持つ」

 色んな考えがハスラムの頭の中を駆け巡る。

「そうだ」

 あることに辿り着く。

「あの短剣を出せるか?」

 できればそうでないようにという思いがあるが、試してみたかった。

「あれね」

 出した瞬間、二人は目を疑った。

「え!」

 オリビエは、半泣きになってしまう。

「おいおい!」

 思考が止まるハスラムだった。

 現れたとたんに石が短剣に飛んでいった。
 何個かある柄のくりぬかれた穴に音もなくはまった。
 二人は無言で顔を見合わせる。

「どうしよう?」

「オレが訊きたい」

 しばらく二人は短剣を凝視していた。

「これオーリーが拾った時、父さんが石が何個か足らないとかいってたよな」

 これにオリビエは無言で頷く。
 一つ集めたということになる。

「よかったな」

 はっきりいって事態はややこしくなっただけ。
 ハスラムからは、なげやりな言葉しか出ない。

「そ、そんなー! おじさんは、二人でどうにかしなさいっていってた」

 見捨てられる。
 逃がしてはなるかと隣に座るハスラムの腕にしがみついた。

「分かっているから」

 安心しろと身体を離し、短剣を見る。

「だけど、これどうなるんだ?」

 短剣に石が一つ入った。
 状態が変化したことになる。もしかすれば触れるのではとハスラムは手を出すが、指が短剣を通り抜けオリビエの手首に当たるだけだった。

 そんな時、扉を叩く音がして開いた。

「あらら、取り込み中? ごめんなさい」

 カーリーだった。
 扉を急いで閉めようとするのをオリビエが止めた。

「違うんだ!」

 扉まで走って行き、入ってと腕を掴み部屋へ入れた。
 あの体勢、抱き合っていると思われたのでその誤解を解きたいという思いからの短慮に後悔する。
 この短剣のことは極秘なのだ。

「あー、ええっと!」

「うん、おもしろい物持ってるね」

 短剣を目にしたカーリーは驚いていた。

「見せてね」

 ひょいと指で摘まみ、複雑な表情で見ていた。

「持てるんだ」

 ハスラムは目を見開く。
 自分がどんなにがんばっても触ることができなかった。魔力では絶対に勝てない父でさえも。

「これって何なの?」

 持てることも不思議だが、何だ? ということが子供の頃からの疑問だったのでオリビエが先に訊いた。

「小型の短剣でしょう」

 そのままの返事だった。

「どうして触れるんだ?」

 ハスラムは違う方向で訊く。

「どうしてって、触れたから」

 答えながらオリビエに返す。

「オレ、触る事さえもできないんだ」

 ハスラムは、詰問するような口調になっていた。

「精霊石が入っているからじゃあない。精霊石って、気に入ったものにしか触らせないでしょう」

 魔法の常識だった。

「その青い石は掴めたんだが……」

「うーん、他の石に気に入られなかったんじゃあないの」

「え、他の石? オレにはその石しか見えない」

 他のといわれ、ハスラムはまじまじと短剣を見つめた。

 オリビエも不思議となる。

「うん。石が付いていた場所みたいなのは分かるけど」

 窪んでいる箇所を何個かなぞりながらハスラムを見て、二人して頷いた。
 自分たちは正しいと。
 手に入れてからどうするか相談をするたび飽きるほど見ていた。

「ハスラムほどの力があっても分からないんだ。相当気難しい精霊たちね」

「どこに他に石があるの?」

 信じられないとオリビエはまた短剣を指でなぞり出す。
 だが、指にはそれらしき物は当たらない。

「持ち主がまだ大切にする気がないからよ。まず友達になる気でオリビエは付き合いなさい」

 「嫌だ」と唸るオリビエの様子に笑いながら扉の前へ動く。

「そろそろ出ないとね」

「待ってくれ、カーリーはこれが何か知っているんだろう」

 うやむやにされそうだったのでハスラムは思い切って訊いた。

「確信でないから、今は分からない」

「何それ? かもしれないでもいいからおしえて!」

 当てはあるがそうだといい切れないからだろう。間違っていてもいい、知りたい。

「ハスラムだって思い当たることがあるけど、確信に辿り着いてないのでしょう。だから私も分からない」

 強引な結論で終わらせ、外へと出て行った。
 「下で待っているから」こういい残し。

「あれ絶対に知っているな」

 どう考えてもそうなる。

「けど、ハスラムも何となく分かっているのか?」

 あの会話の流れではそうなる。

「いや、オレはまだ調べている途中だから。二、三そうかもと思う物があるんだけど、どれもややこしいから確信できるまではなんとも」

 こちらも誤魔化しに入っていた。

「呪い付きの何かとか?」

 自分を気づかってなら、あまりいい物ではないはず。一番嫌な正解をオリビエは想像した。

「魔法のかかった短剣。今はそれでいいだろう」

 はっきりとすれば、おしえてやるという態度だった。
 こうなるとしつこくすると反対に怒られる。

「うん」

 頷きはしたものの不満一杯だった。
 可能性があるだけでもいいからおしえて欲しい。
 だがハスラムは絶対に嘘はつかない。どんなに不利な時でも。
 ただ信じて待つしかないのだろうと諦めた。

「でもさ、オレこいつと友達になれっていわれても得体が分からない過ぎて無理だ」

 オリビエは、短剣の一部になった石をじっと見る。

「友達になりたかったら、少しはオマエのことおしえてよ。そっちはオレたちのことよく知ってるだろう」

 オリビエは、人にお願いをするように頼んだ。
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