風の鎮護歌

ななえ

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オリビエのささやかな悩み

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 宿まで襲撃はなく無事に着いた。
 夕食を済ませるとカーリーはすぐに用があると出て行き、オリビエとハスラムは部屋に戻った。

「謎だけだけど、かっこいいね」

「そうか?」

「ハスラムの実力も魔法使ってないのに分かったり、それに剣も使えそうだよな」

 二度遭遇した襲撃では、剣を抜くことなく終わらせていたが、囲まれていた時の身体の動きなど使い手のものだった。

「オマエもしっかりと修行しろよ」

「分かっているよ。傭兵、剣で生きるって決めたんだから、がんばる。それにギルドの名誉もあるからな」

 励ましてくれているのは分かるが、どうしても素直になれないオリビエだった。 
 幼い頃の心の傷がそうさせていた。
 自分は何も悪いことをしていないのに、傍に行くだけでいじめられていたという。
 本人からも周りからも。

「ギルドか。オーリーの引き取られた先は、この大陸でも一番のところだからな」

 超一流。
 腕に信用もだが、何よりもボスでオリビエの養父のナナエ・ハーロイド・ヘルダーは伝承歌になる活躍をした英雄だった。
 こういいながら、二人が離ればなれになった時のことを考える。

 自分は、雪崩で両親を失い、母親の遠縁の叔父の前バルレリス侯爵家に引き取られた。
 この家は、代々セルン王国の宮廷魔術師長を務めていて、ハスラムのずば抜けた魔力を見込まれてだった。
 能力のみが跡を継ぐ基準のバルレリス家。前当主の子供たちにはその力が足らず、ハスラムに辿り着いたのだった。

 オリビエもハスラムが養子にいってしばらくして村に流行り病が襲い、両親を失った。
 その時、両親の昔の旅の仲間だったヘルダーが引き取ってくれたのだった。

「でさ、ちょっとなんてーか変なこというけど、気にしないで聞いてくれよな」

 養い親のことが話題になりつい出てしまう。

「オレ、悩んでいるんだ。ボスのことどう皆に紹介していいものか」

 ナナエギルドに加入しているというだけで、周りは羨望の眼差しとなりボス、ヘルダーのことを訊いてくる。
 剣を持つ者の憧れの存在だった。

「いやさ、他人の趣味にケチつける気はないけど。説明しにくい」

 さっきまでの反抗的な態度が一変し、真剣な顔を向けてくる。

「まあな……、」

 ハスラムも即答できない。

「あの日常とかさ」

 養父ヘルダーは、奇行としかいえない日々を送っていた。
 筋肉隆々のどういじっても男にしか見えない大男が、ド派手なドレスまがいの衣装、ケバイ化粧に七色に染めた大鳥の扇子を片手にお姉言葉を使っている。
 ことあるごとに「おーっ、ほっほっほーっ!」と大声をあげ笑うのだ。

「あの趣味は、確かに説明しにくいな」

「だろう。それにこの頃、変な物集めたり、自分の世話をする者だって、綺麗な男ばっかり集めているんだぞ」

 いけない世界に入っているのではと心配になってくる。

「ハスラムも誘われたんじゃあないか? 親衛隊に。もろボスの好みだから」

 養父ヘルダーの親衛隊メンバーは、容姿、頭脳に戦闘能力のどれをとっても超が付く一流の者ばかりで構成されていた。
 こういい、ハスラムの顔を見る。
 黄金の髪に緑の瞳、顔は女だったら傾国の美女と呼ばれる容姿だ。

「それはない! 誘われてもないから」

 ビシっといい切り、続ける。

「あれほどの人なんだ、何か考えがあってやってるんだろう」

 現役時代を考えると現場を離れたとはいえ、まだまだ剣の腕は凄い。
 それに名声もある。
 人柄で多くの戦士たちがヘルダーを慕い集まっている。
 各国からも仕官にと誘いがきているはずだ。

 作ったギルドの脅威も相当で一国の軍よりも破壊力がある。
 あの行いは、一民間人として権力に興味がないと示すためにやっているのではとハスラムは考えていた。
 そう、「私に関わらないで」と権力側に見せつけているのではないか。

「いんや、あれは自分の趣味のみを優先させているとしか思えない」

 だが、オリビエの意見は違っていた。養女としてなまじ近くで見ているからだった。

「気になるのなら一度面と向かって訊いてみれば」

「あの趣味のことをか?」

 理解不能なだけにどう訊いていいかさえも分からない。

「それよりも今夜は静かに寝させてくれよ」

 腕を組み、頭を抱え考えている様子に笑いが出る。

「そんな恐ろしいこと直に聞けるかよ、どうしたらいい?」

 大きな話題転換に慌てる。

「なあ!」

 逃がすかと食らいつくが、ベッドに潜り込まれてしまった。

「けち!」

 両頬を膨らませて、オリビエはベッドの端に座り込み向けられたハスラムの背中を叩いたが、無視された。
 しばらくおとなしくして話の続きをしてほしいと待ったが、無視されたままだった。

「オレ真面目に悩んでいるんだぞ」

 こんな捨て台詞を残し、諦めて自分もベッドに潜り込んだ。
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