風の鎮護歌

ななえ

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オリビエとハスラム 5

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 数年後。

「暑い!」

 砂漠では、日差しが強い日中は日陰に避難して涼しくなるのをおとなしく待ち、体力を温存しなくてはならない。

「うるさいの。余計に暑くなる」

 ハスラムの口調は、暑さからイライラしていてきつい。

「分かっているよ」

 プイッと顔を横に向けた。

「さっきもいっただろう、口に出すと余計に強く感じるって」

 また口うるさい奴と嫌われる原因を作ってしまったと思うが、ハスラムとしては注意をせずにはいられなかった。
 今のは些細なことだが。
    
    再会してからオリビエの仕草など驚くことばかりだった。
 あのおとなしくかわいいオリビエはどこにいった? だった。その上、好奇心からの暴走も子供の頃を遥かに凌駕し、危なっかしく放っておけなかった。
 なのでつい口うるさく注意をしてしまい、前以上に苦手意識を持たれてしまっていた。

「村に着いたら、甘いもの買ってやるから」

 下手に出ている自分にため息が出る。

「うわ! ありがとう」

 素直に喜ぶオリビエにまたため息が出る。
 オレこの笑顔に弱いと。
 頭を抱え、避難している大岩の陰から太陽の光がさんさんと注がれている砂地を見た。
 岩の影の具合からもう少しで出発できそうだと判断した。

「そろそろ用意しろ」

 太陽が完全に沈み、極寒の気温になるまでに砂漠を抜けておきたい。

「あ、髪くくるんだ」

 まだ続く暑さを考えハスラムは長い黄金の髪を手で束ねていた。

「オレにさせて」

 オリビエはハスラムの髪が好きだった。さらさらの触り心地や見た目のきれいな髪が。

「ダメだ。オマエにやらせると変に歪む」

 紐をひったくろうとする手をはたく。

「けち」

 不機嫌になると出る癖、両頬が膨らませる、大きな切れ長の濃紺の瞳をしたきれいな顔立ちの一見少年、実は美少女、オリビエに笑いが出る。

「何がおかしいんだ! ハスラム! つつくな」

 傾国の美女ばりの顔で笑いながら頬を指でつつかれる。

「治らないんだ、それ」

 各々の事情で離ればなれになりつい最近、十年ぶりにやっと再会できた。

「オマエもな」

 意地悪なところといいたいが、一ついえば倍返しされる。
 勝てない相手と黙る。
 しつこくつついてくる手をはたき、そっぽを向いた。

「変な顔するオマエが悪い」

 また拗ねるオリビエを横目に荷物を担ぎ歩き出す。

「待って」

 慌てて追いかけるオリビエだった。


「やっぱり暑い」

 出る言葉は変わらない。

「このルートを選んだのはオマエだろう」

 続くぶつぶつにハスラムはうんざりとなってくる。

「だって、一番近いから」

 砂漠を突っ切る過酷ルートを選んだのは、この気味の悪い現象の原因を早く知りたかったからだ。
 正規のルートで行けば、ここの三倍の日数がかかる。
 昼の暑さや夜の極寒を耐えてでも進みたかった。
 それだけオリビエには余裕がなかった。

 突然だった。

「どうして急に短剣が出たり消えたりするんだ?」

 ハスラムと再会してすぐにこの現象が現れた。
 右手首に不意に出てくる。
 消えろと思えば消えるのだが。そこに自分以外は、触れられないとくる。
 気味が悪く、泣きたい気分だった。

 再会した時にこの大陸一番の魔法使いになっていたハスラムに相談に行った。

 その時に子供の頃の出来事を聞いた。
 オリビエは全く覚えてなかった。

 二人で相談し、原因究明にハスラムの魔術の師匠であるケビンの元へ向かうことになった。
 ケビンは、魔法使いの最高峰の賢者で、魔術や古代の歴史など知識はかなりのものがあった。

 住んでいる場所は、この大陸の力ある魔法使いが集うセルン王国の魔導協会があるヤードの街から古代帝国跡側にある砂漠地帯入口の村に住んでいた。
 ハスラムの家からでは、砂漠を突っ切り向かうのが三分の一の距離ですむからだ。

「ついでに魔術の修行もするか?」

 もう一つの重要懸案をハスラムは口にする。
 魔力はすごいが、使い方や制御方法を知らないので暴走をよくさせていた。

「使う気ないから、いらない!」

 オリビエは、はっきりきっぱりと断る。
 興味はなくはないが、何度使ってもロクな結果になってなかった。
 とどめが、ハスラムの真似をして呪文を唱えたら、山が一つ焦げたことだった。

 小規模だったので被害はそうなかったが、賠償金はきつかった。
 一傭兵として生きている自分には払えない額で、その時一緒にいたハスラムに立て替えてもらった。
この時オリビエは、貴族の家に養子にいってくれてありがとうと心の中でハスラムに感謝した。

「これ以上借金は増したくない」

 この窮地に陥る前も簡単で威力の低いものを何度か使って失敗をして、逃げていた。
 成功はたまという成績だった。

「だがな、呪文を頭に浮かべるだけで、恐ろしい威力で発動できる特技があるんだ。前も炎と思うだけで、攻撃対象を丸焼けにしただろう」

 炎でも業火という規模だった。
 その時はうまく逃げることができたが。

「ちゃんと力を制御できないと、オマエの横で呪文を唱えられない」

 まだオリビエにそんな特技があることを知らなかった時だった。
    威力の大きなものを使わなくてはならない事態になり、使えば、ほぼ同時に横で自分の使った術がその数倍の威力で放たれていた。
 目が点になるとはこのことかと、オリビエと破壊された跡を見ていたのを思い出す。

「もう賠償金を立て替えてやらないからな」

「分かっているって」

 オリビエも反省はしていた。
    賠償額を払えないことや自分の魔法の威力に驚き、あれ以来使ってないようだった。

「あ! マズいことになってるよ」

 聞きたくないとさっさと先を歩いていたオリビエが、止まり手招きをする。

「ケンカかなぁ」

 離れた場所で一人の旅人が十人以上の団体に囲まれていた。

「襲われているんだろう」

 砂のみの風景が、草や灌木が少しずつ生えているものに変わってすぐの所だった。

「助ける?」

 見ている間も旅人に男たちが剣を向け威嚇していた。いつ剣戟が聞こえてきてもおかしくない状態になっていた。

「無視できないんだろう」

 ため息付きで応えられる。
 ハスラムは、助けるというよりは自分の憂さ晴らしをしたいようなオリビエに苦言をつける。

「ほどほどにしておけよ。でないと村に着けなくて野宿になるぞ」

「はーい」

 珍しく素直に答え、気付かれないように動いた。
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