風の鎮護歌

ななえ

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オリビエとハスラム 2

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それは、あのとんでもない拾い物をする数カ月前のことだった。
 住んでいる村の近くの森に父親の使いで薬草を採りに二人で行った時だった。
 
 いつからか何かがずっと後を付けてきている気配がしていた。
 友人かと思い振り向けば、誰もいない。
 木々が見えるだけ。

「変だな」

 こんなことを何度かしていると、つないでいた手をオリビエが離して勝手なことを始めていた。

「待て!」
 
 油断していた。

「ハスラム、凄いのあるよ!」

 好奇心しかない幼なじみは、歩いていた獣道から逸れて森の奥へと走って行き、何かを見つけたようだった。

「こら! 迷子になるぞ」

 大慌てで後を追うと、そこには稀少な薬草があった。
 赤い綺麗な花を咲かせる、根に毒がある物が。

「触るな」

 摘もうと出している手をはたく。

「いいか、森で見つけた物を安易に触ってはいけないって、父さんから言われているだろう」

 これにオリビエはビクっとする。

 ハスラムの父親は、この大陸でも一番の魔力を持つ魔法使いだったが、何が原因か謎のままその力を封じられ、薬草師として生活していた。
 魔術の腕に匹敵するぐらい薬草の知識があり、新しい薬草の発見や配合をして新種を作っていた。
 そんなクロードに薬草関連で厳しく注意されていることにオリビエは、ほぼ逆らうことはなかった。

 実践でえらい目というものに何度か遭っているからだ。
 皮膚がかぶれぐらいはいい方で、甘い匂いがすると舐めて全身が痺れたり、軽い気持ちでポンと触るだけでほとんど見えない小さなとげが刺さり毒に侵されたりと。

「それにオレから離れるな! これは絶対だぞ! オマエを探すのに時間がかかって父さんの用事をすますことができなくなるからな」

 だから連れてきたくなかったんだ。
 これはいえないが。

「ごめんなさい」

 やってはいけないを続けざまにやってしまった。
 オリビエは素直に謝り、お願いをする。

「今度もその次も連れてきてね。オーリーちゃんと約束守るから」

 どこかひきつっているが、かわいい笑顔で見つめられた。
 これに弱いハスラムはため息をつく。

「分かっているんならいいけど。って、それに触るな」

 ハスラムが怒ってないと分かるや興味が花へ戻り、手が怪しい動きをしている。

「毒は根っこだけだけど、茎や葉も何か危ないことに使えるって父さんがいってたから」

 やっかいな花だった。

「オレじゃあ手に負えないから後で父さんに来てもらう」

 オリビエもいる、危ない事をする気はない。場所を後で報告すればいい。

「ほら、行くぞ」

 まだ花をじっと見ているオリビエの手を取り元いた道に戻る。

「ねえ、お花さんが何かいいたそう」
「はぁ? オマエねぇ」

 花が喋るはずがないだろう。といいたいが、それに近い現象をオリビエは察することができる。

 オリビエは精霊をはっきりと見ることができて、声が聞ける。
そして好かれている。
 好かれてないハスラムは、魔力が高いので何となく見えるぐらいしかできない。

 今も花の近くにいる精霊に話しかけられているのかもしれない。

 精霊を見ることができ、話ができる。いずれ修行をすれば、精霊魔法を使うことができるということ。

 この世界では、魔法、魔術、精霊魔法の三大魔法の他に、魔族との契約で得た魔術や他種族との混血により独自に編み出した魔法と色々な種類の魔法があり、それらを一括りに魔法と呼んでいる。

 魔法は、自らの魔力で頭に描いた不可思議な現象を具現できるもの。
 魔術は、少しでも魔力があれば、先人によって考え出された呪文や魔法陣などを使い、足らない魔力を補って魔法を使えるようにしたもの。
 だが、精霊魔法は精霊に好かれてなければ、どんなに魔力があっても努力をしても使えないものだった。

 精霊に好かれるということは、珍しい。
 魔族などとは違い、契約や代償を要求しない純粋な好意からのもので、一度好かれるとその力を好きな人間が望めば存分に貸してくれる。
 ものすごい力を。
 魔法を使いたいと修行する者にとって、憧れのものだ。

「精霊でもいるのか?」

 道に戻っても辺りをキョロキョロと見ているオリビエに聞く。
 神経を自分に向けておかなければ、またどこへ飛び出して行くかハスラムは不安だった。

「誰か来ているって精霊さんが」
「え!」

 やはりあの気配は! と。
いまだに続く後を付けられている、いやどこかから見られているものがそうなんだと確信した。

「悪い奴っていってた?」

「うぅん、友達だって」

「友達? 精霊の」

「知らない。ただ!」

 オリビエの言葉が止まる。
 二人の目の前に潜れる大きさの黒い穴がぽっかりと開いていた。

「オーリー!」

 一歩前で止まり、大きく息を吐き、ハスラムは力任せにオリビエの腕を掴み逃げる。

「へへ、やっと会えたんだ。逃げるなよ」

 穴の奥から男の子の声が聞こえた。
 それと同時に風が強く吹いてきた。
 身体に当たる風の全てに手でもあるかのように全身を掴んでくる。

「うわ! 引きずり込まれる」

 風に捕まれ二人は、穴の中へ連れ込まれた。
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