妖怪アイドル

たぬ

文字の大きさ
上 下
14 / 16

万年夜森

しおりを挟む
「こっちこっち!」

熊鬼の家と桜の家から真逆の方向に向かうと、深い森の入り口があった。
桜は当然、熊鬼と家の間の行き来以外での外出は両親とだったため、この時点ですでに不安感が押し寄せた。

森に意気揚々と入っていくほのかだが、桜は足がすくむ。

「ほのかちゃ…そっち、いったことないよ…なんだかこわいよ…」

「狩りで何度も来たことあるから大丈夫だよ!」

そう言われるが、怖い。

しかし、ズンズンと森の奥へ足を運ぶほのかになぜか対抗意識と、少し心配な気持ちを感じて追いかけてしまった。



「ほ…ほのかちゃん…ほんとにこっちなの?」

「うん! こっちだよ!」

足取り軽く奥へ進んでいく。
しばらく歩くと、ほのかの様子が変わった。

「…ほのかちゃん?」

目の前には分岐点があった。

「どっち…?」

「こっ…こっち!こっち!」

そう言うと、右に向かって行った。
奥に行くと道がどんどん狭くなり、ほのかの様子が一気に変わった。

「…こっちじゃ…なかった…も、もどろ!」

そう言われて戻ると、見たことのない分岐点が出て来た。

「ど…どっち…?」

ほのかの顔を除くと、目に涙を溜めて顔を真っ青にしている。

「………………わっ…わかんない…」

「えっ…?」

「桜ちゃんごめん! 迷子になっちゃった…」

さっきよりも顔が青くなり、桜の不安が一気に押し寄せた。

「そんな……」

2人とも気持ちが真っ暗になると、木々のざわめきや鳥の鳴き声がとても不気味でますます恐怖心を煽った。

「どっ、どうしよ…」

ほのかは恐怖で震え始めた。

「ほ、ほのかちゃん…」

「うわぁぁぁぁん! ごめんね、ごめん…! 行けると思ったのぉぉ!」

大泣きしてしまい、森にほのかの鳴き声が響いた。

「うわぁぁぁん! ぱぱぁぁぁぁ! ままぁぁぁぁ!」

つられて桜も泣き出した。
すると、奥から提灯がゆっくりと近づいて来た。

「ひっ?!」

ほのかは恐怖でもう声が出ず、ガタガタと体を震わせた。
ほのかの様子を見て、桜も奥を見る。

「…だれだぁ」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

提灯の真逆に逃げるように走った。
とにかく走っていると、灯りがあった。

「灯りだ! だれかー! たすけてー!」

ほのかの叫びに灯りが振り向くと、さっきの提灯だった。

「んん? さっきの子狐と子狸か」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」」

「うるさっ! 落ち着け、落ち着け」

提灯はほのかよりも大きく、目も口もある提灯の妖怪だった。

「お前らはなんでこんなところにいるんだ?」

「ぎゃぁぁぁ!!」

ほのかは1番怖がって泣き叫び、硬直してしまった。
桜はほのかを縦にして、恐る恐る提灯に話しかけた。

「ち…ちょーちんさん、ここはどこですか…」

「あ? ここは万年夜森だ、お前達、知らないってことは…」

「ま、まよっちゃったの…」

「迷った? 捨てられたんじゃないのか?」

「す…捨てられてない! ほのかが花畑行こうって言ったんだ…」

「そうかい? ていうか、花畑なんか万年夜森にはないぞ? 違うところだったんじゃねえのか?」

「…ど…どうしよ…」

「が……がえりだいよぉぉぉぉぉ!!!」

桜は大泣きし始めた。
提灯の捨てられた発言もあり、恐怖に追い打ちをかけてしまった。

「ばばぁぁぁぁ、ま゛ま゛ぁぁぁぁ!!!」

「わかった!わかった!悪かったよ!泣くな煩い」

すごく迷惑そうな顔をして、めんどくさそうになだめた。

「ほれ、ついて来い」

「どっ、どこに連れてくんだ!」

「お前らの足でここまでくるって言うなら、1番近くの村の門だと思ってるんだよ! さっさとついて来いクソガキ!」

提灯の苛立ちを感じ、怖いけど黙らなければならないと口をギュッと瞑った。
提灯はどんどん先に進み、見失わないように、そして、絶対に離れないように抱きつきながらついて行った。

無言のまま歩いていくと、遠くから叫び声が聞こえた。

「桜ー!」

「ほのかー!」


「おい!ここにガキが2匹いるぞ!早く来い!」

提灯が叫ぶと、ゾロゾロと人が集まって来た。

「桜!」

「ほのか!」

「うぁぁぁぁぁん!!ばばぁぁぁぁ!」

「とーちゃんんんん!!!」

「チッ…捨てたんじゃねぇのか…もう2度と来んなよ!」

提灯は言い捨てるとすぐに消えてしまった。


「あれは……万年夜森の番人提灯か…?なんであの森に入ったんだ!!」

松が鬼の形相で桜の方を掴み怒鳴ってしまった。

「うっうぇぇぇぇぇ!!」

「松、気持ちはわかるわ、わかるけど落ち着いて」

牡丹も聞きつけ出て来たのだ。

「ほのか! おめぇ、ぜってぇ入るなって何べんも言ったじゃろ!」

「おめがさくらちゃんばそそのかしたんだべ!」

「ゔぇぇぇぇぇ!!」

ほのかも責められて大泣きしてしまう。

「稲荷さん、オアゲさん、落ち着いてください、気持ちはわかりますから! おあげさん、ほのかちゃん抱きしめてあげてください!」

オアゲはハッとして、ほのかを抱きしめた。

「ほのか、怒鳴ってごめんね…」

「桜、びっくりしたね、でもいなくなってママもパパもびっくりしたんだよ」

抱きしめるとそう囁いた。

「「ごべんなざいいいいい!!!」」

母親にしがみつき、泣き喚いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...