魔導姫戦記

森乃守人

文字の大きさ
上 下
28 / 67
外典 ドラゴンハンター

ep.7 疑

しおりを挟む
ヴァナヘイム首都…

パーシアス「お疲れ、エルキュール。」
エルキュール「おぅ、兄上。
俺達が揃って首都の警備とは…議会の連中、採掘場を奪還する気は無いのか?
まぁ、魔法石フォシルの秘密を知った俺達としては願ったりだがな。」
パーシアス「あぁ…でも、そう楽観ばかりも出来ないよ。
おかしいと思わないか?
魔法石フォシルが失われた今、魔導師は言わば消耗品…なのに未だに魔法は供給され続けている。」
エルキュール「そう言えば確かに…」
パーシアス「…ちょっと塔の様子を見てみようか?」



2人はヘスペリデスの塔に訪れた。

パーシアス「ご苦労さん、ちょっと中に入れてくれるかな?」
衛兵「申し訳ありません。
何人も通してはならぬと仰せつかっておりますので…」
エルキュール「何?
俺は元々ここの警備主任だぞ!」

その時、上官らしき騎士が現れた。
「おやおや?
これはこれはお揃いでオルファス卿。
半分貴族は2人で1人前という事ですかな?」
エルキュール「何だと?」
パーシアス「よせ、エルキュール。

…貴方がここの、今の警備主任ですか?」
騎士「いかにも。
まんまと賊に魔法石フォシルを奪われた、何処かの間抜けな半分貴族に代わってね。」
エルキュール「ちっ…」
パーシアス「…おっしゃる通り、魔法石フォシルは失われた筈ですが、新たに別な魔法石フォシルがあるのでしょうか?
だとしたら何処から…?」
騎士「…そんな事は君達には関係ない話だ。」
パーシアス「…確かに、その通りですね。
では、失礼します。」

2人はその場を立ち去った。

エルキュール「いやにあっさり引き下がったな、兄上。
レルネーにも行ってみるか?」
パーシアス「いや、たぶん同じ事だろう。
それより、もう一つ確かめたい事がある。」

パーシアスはそう言うと、連れていた伝話鳥アルキュオネに話しかける。
「もしもし、メロディアナ?
……
……
……
やっぱりそうか…
私もそれを聞きたかったんだ、ありがとう。」
エルキュール「兄上…もしや、ムスペルヘイムも?」
パーシアス「ああ、思った通りだ。
…ここはまた、彼らの出番かな?」










その頃、ヴァナヘイム・ムスペルヘイム国境…

帝国軍に占拠された魔法石フォシル採掘場の上空を、翼竜の姿となったメリュジーヌの背に乗って飛ぶシグルズ・シェイミー。

メリュジーヌ「…?
ここは魔法石フォシルの採掘場ではないのか?
気配がせぬが…」
シグルズ「…そいつぁ妙だな。
あいつら自身は魔法石フォシルに用は無いはず…
魔導師になるって事がどういう事か、身をもって1番よくわかってる連中だからな。」
「……
いずれにせよ、魔法石フォシルが無いなら、ここに潜入する必要は無いわね。」
シェイミーはほっとした様子で言った。
その時、伝話鳥アルキュオネが鳴き出す。

シグルズ「ん?パーシアスか、どうした?
……
……
……
わかった、確かめてみる。」
シェイミー「…どうしたの?」
シグルズ「魔法石フォシルを失ったはずのヴァナヘイムとムスペルヘイムで、まだ塔が稼動してるんだと。」
メリュジーヌ「それで、再び魔法石フォシルの気配がせぬか確かめよ…という訳か。」
シェイミー「ここからだと、タルタロスが近いわね…」
シグルズ「よっしゃ、行くぜ!」

一行は、ムスペルヘイム国の魔法供給施設・タルタロスに向かう。



メリュジーヌ「間違いない、魔法石フォシルの気配じゃ。」
シグルズ「どこから持って来たか知らねぇが、魔法石フォシルがある以上、頂くっきゃねぇだろ。」
シェイミー「…それにしても…また正面突破なの?」
シグルズ「幸いと言っちゃ悪ぃが、前回の異形化奇病メタモルフ騒ぎで、俺らの存在はうやむやになったみてーだからな。」



そんな彼らの様子を遥か上空から窺う、翼ある狼マルコシアスに跨った者の姿があった。
「…おいおい、正面きって剣を抜くなんて、どこの馬鹿野郎だ?
しかも女の子2人も連れて…しょーがねーなぁ…」



衛兵「何者だ⁉︎」
シグルズ「魔法石フォシルをもらいに来た。」
衛兵「馬鹿め。
お前を殺して、そっちの2人は魔導師にしてや…

言いかけた兵士は次の瞬間、雷撃に撃たれ瞬時に炭と化す。

「おいおい、せめて最後まで喋らせてやれよ。」
シグルズは呆れた様子でメリュジーヌに言った。
「我とてそこまで無慈悲ではないぞ。
別の何者かが…」
「‼︎ ……」
上空の気配に気付いたシェイミーは、その姿を見ると言葉を失う。

「誰かと思ったら…アンタかい、シグルズさん…と、そっちは…
…⁉︎」
現れたのは、帝国魔導師ウィザードのアッシュだった。
彼はシェイミーに目をやると言葉を止め、シェイミーもまたバツが悪そうに目を逸らす。

シグルズ「…お前ら、知り合いか?」
シェイミー「……」
アッシュ「……
いや…他人の空似だったわ。
ンな事よりアンタ、何してんの?
家族旅行にしちゃ物騒だな。」
シグルズ「誰が家族だ。
…ちょっと魔法石フォシルを頂きにな。」
アッシュ「ンなの、子供連れてやる事か?」
シグルズ「その、子供に見える奴の用件でな。」
アッシュ「?……どゆ事?」
メリュジーヌ「…フォシルとは本来、アグエル文明によって封印されし我が眷属…竜の魂が宿りし骸。
我はその魂を解き放ち、力を受け継ぐべく旅をしておる。」
アッシュ「…眷属が竜って…
おとぎ話はもう卒業しなよ、お嬢ちゃん。」
メリュジーヌ「共に来ればわかるぞ、小僧。」
アッシュ「こ、小僧って…」
シグルズ「ククク…言われてんな。
そう言うお前こそこんな所で何してんだ?」
アッシュ「……
…言える訳ないでしょ?察してよ。
でも、ついてっていいってんなら、見届けたいな。」
シグルズ「ずいぶん都合の良い話だが…シェイミー、構わねぇか?」
シェイミー「え?…えぇ…」

かくして、アッシュを加えた一行は、再びタルタロスの塔に潜入。
衛兵との戦闘においてメリュジーヌの能力を目の当たりにしたアッシュは、大いに驚く。

アッシュ「嬢ちゃん、ホントにドラゴンなのか⁉︎」
メリュジーヌ「そう言うたであろう、小僧。」



やがて4人は、魔法石フォシルの祀られた祭壇に辿り着き、メリュジーヌがその前に立つ。

シグルズ「黙って見てていいのか?」
アッシュ「…あぁ、ゼルでも勝てなかったアンタに俺が勝てる訳ないしな。
それに、さっきの話がホントなら、これはアンタ達に預けた方がいい気がする。」
「…では始めるぞ。

…忌まわしきアグエル文明により封印されし我が眷族よ…
その戒めを今、解き放たん。」
メリュジーヌが唱えると魔法石フォシルは砕け散って光の粒子となり、巨大な海亀の姿を象った。
「我はアスピドケロン…
我が戒めを解き放てし眷族よ…
汝が力を我に示せば、盟約に従い我が力を授けん。」

アッシュ「ほ…本当にこれが…魔法石フォシルの…魔法の力の正体…⁉︎」
シグルズ「油断すんなよ。
そこらの異形化奇病メタモルフとは訳が違うぜ。」

アスピドケロンの強固な甲羅には、シグルズの大剣も効果が薄い。

アッシュ「マジかよ…しゃあねーな…!」
「‼︎
よしなさい、魔法は!」
シェイミーの制止も虚しく、アッシュの冷気魔法が炸裂する。

メリュジーヌ「…確かに…我ら竜には無く、そして最も有効な攻撃手段ではあるな。」

4人は共闘の末、アスピドケロンを打ち破る。

「見事なり…盟約に従い我が力を汝に授けん。」
アスピドケロンはそう言うと、砕け散って無数の光の粒子となり、メリュジーヌに吸収された。
かくしてメリュジーヌは防壁魔法の力を得て、一行は塔を脱出する。

シグルズ「さて、次はヴァナヘイムだな。
お前はどうする?」
アッシュ「う~ん…どうすっかなぁ…
ちょっと考えてみる。
縁があったらまた会うかもな。」
メリュジーヌ「息災でいるが良い、小僧。」
「小僧は勘弁してよ。」
アッシュはそう言うと、翼ある狼マルコシアスを召喚し、その場を飛び去った。

メリュジーヌ「我らも行こう。」










翼竜に姿を変えたメリュジーヌの背に乗り、ヴァナヘイムへ向けて移動中…

シェイミー「…何も…訊こうとしないのね。」
シグルズ「は?
…何だ、いきなり。」
シェイミー「私が何者なのか…
何故魔法石フォシルを持っていたのか…」
シグルズ「内緒なんだろ?
それとも、訊いて欲しいか?」
シェイミ「…いいえ…」
シグルズ「喋りたくなったら喋れ。
…ま、誰にでも事情はあるもんだろ?」
シェイミー「…じゃあ…
革命戦時、貴方が実のお父さんの敵に回ったのも…?」
シグルズ「…へッ…
そいつぁ、ごくくだらねぇ理由さ…」










一方その頃、1人ヴァナヘイムに向かうアッシュ。
「もしもし、こちらアッシュ。
……





続く…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魔法少女のなんでも屋

モブ乙
ファンタジー
魔法が使えるJC の不思議な部活のお話です

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...