魔導姫戦記

森乃守人

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本編 第三部

ep.36 片翼

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グレゴリウス領・旧ヒノモト国・バベル屋上…

アイシス「…貴女がわざわざ見張りなんてしなくても…シェイミー先生…」
シェイミー「そういう訳にもいかないでしょ?
居候なんだから、働かないと…」
アイシス「……
…まだ、結論は出ませんか…?」
「……」
沈黙するシェイミーの肩の上で伝話鳥アルキュオネが鳴いた。
「もしもし?
……
……
……
彼が生きてる?
……
……
……
わかった、私も行くわ…!」
アイシス「シェイミー先生、行くって…どこへ…⁉︎
待って!参謀なしで私達はどうすれば…?」
シェイミー「…アイシス、貴女はとても賢い子よ。
次の参謀は貴女がやるといいと思うわ。」
「…そんな…私なんかが…」
気遅れするアイシスを、後押しする声がした。
「アイシスが参謀か…アタシもアリだと思うな♪」
そう言って屋上に現れたのは、リリィだった。

アイシス「…リリィ…⁉︎
貴女まで何を言うの…⁉︎」
リリィ「行きなよ、シェミ先生。
アタシの翼ある豹シトリー、貸したげる。
ちゃんと返してね?」
「…ありがとう、リリィ…!
大丈夫よアイシス、貴女なら上手くやれるわ…!」
シェイミーはそう言うと翼ある豹シトリーの背に乗り、星空に消えた。

アイシス「…リリィ、何て事を…
先生を参謀にって、貴女が最初に提案したんでしょう…⁉︎」
「そうなんだけどさ…
アタシには止めらんないよ…
あんな…乙女みたいにキラキラした目をされちゃさ…」
リリィはそう言って、シェイミーの消えた星空を見上げた。










「…そう言えば、ヴィマーナの折れた翼には、それぞれ聖獣が居たはずだけど、あの子達はどうなったのかしら…?」
放浪先の宿で、ふとミシェルが口にする。
ラン「あの高さから落ちた訳だからね…
普通なら生きてられるとは思えないけど、人智を超えた生き物だし…確かめる価値はあるかも…
探してみるかい?」
ミシェル「はい…!」



かくしてミシェル・ラン・リンの3人は、ヴィマーナの翼の残骸を探すべく、再びニフルヘイムの雪原を目指す。

ミシェル「お願いペガサス、私達をニフルヘイムまで連れて行ってほしいの。」
ペガサス「3人か…
いかな主の命と言えど、3人を乗せて飛ぶのは、文字通り荷が重いな…」
リン「レディに向かって失礼ね!」
ラン「仕方ない…誰かを単独にするのも杞憂だし、山越えするしかないか。」



ミッドガルド山脈の山頂に差し掛かると、北側の斜面に、ヴィマーナの4枚の翼の内の一つと思われる残骸が見えた。

リン「あ!アレじゃない?」
ラン「恐らく間違いないね。」
ミシェル「行きましょう!」



やがて辿り着いた先には、長い廊下の様なフロアも、鳥の像が祀られていた祭壇も、跡形なく鉄屑と化した中で、唯一、獣面の巨鳥だけが以前見たままの姿を保っていた。

ミシェル「聖獣シームルグ…大丈夫?」
シームルグ「…残念だが…天翔ける船は失われた…」
ミシェル「あなたに怪我はないの?」
シームルグ「我は天翔ける船の翼として、この世に生を受けた…
船を差し置いて我が身を案ずるに及ばず…」
ラン「この様子なら大丈夫そうね…やっぱ人智を超えた生き物だわ。」
ミシェル「船なんて所詮モノよ。
だけど、あなたは生きてる…たった1つの命じゃない…!」
シームルグ「…だが、ヴィマーナ無き今、我は存在意義を失った…」
ミシェル「…それなら貴方の…創造主の末裔としてお願いします。
一緒に来て、私達に力を貸して?」
「…ヴィマーナが失われし今、盟約もまた反故か…
…よかろう、我が創造主の末裔よ。
新たな主として汝に従うを、我が新たな存在意義と見出ださん…」
シームルグはそう言うと光を放ち、やがてそれは粒子となってカーバンクルに吸収された。
かくしてミシェルは、シームルグの強大な治癒魔法の力を得る。










その頃、再びグレゴリウス領・旧ヒノモト国・バベル…

ルーシェ「…アイシスを参謀に…ですか…
なるほど、良いと思いますわ。」
アイシス「そんな…姫様まで…」
イリア「確かに…アイシスは頭キレるもんな…なぁ、兄貴?」
ゼル「あぁ、私も異存はない。」
リリィ「決まりだね♪」
ペコル「おめでとー、アイシスちゃん♪」

その時、ケットシーが北西の方角に向かって鳴きだした。

ルーシェ「どうしたのです?ケットシー。」
アイシス「…この方角は…もしかして…」
リリィ「なぁに?新参謀殿。」
アイシス「……
…ヴィマーナから分離した翼には、それぞれ聖獣が居たって聞いた…
…そして、ケットシーはこれまで何度もミシェルの聖獣・カーバンクルに連動する様な反応を見せてきた…」
イリア「…つまり?」
アイシス「…ウロボロス団が、ヴィマーナの聖獣を狙って動き出したのかもしれない…」
ルーシェ「なるほど…
あの者達と争うつもりはありませんが、今後を見据えた国力増強の為、遅れを取る訳には参りませんわね。」
アイシス「…はい…!」
ルーシェ「ゼル・リリィ・イリアはわたくしと共にニフルヘイムへ…!
アイシスは、またわたくし達が留守の間ここをお願いしますわ。
ペコルはアイシスを手伝っておあげなさい。」
ペコル「は~い♪」

かくして帝国軍も、ヴィマーナの翼たる聖獣の力を得るべく動き出した。



ケットシーの導きに従い、残骸の散らばるニフルヘイムの雪原に降り立つ。
長い廊下の様なフロアも、鳥の像が祀られていた祭壇も、跡形なく鉄屑と化した中で、唯一、半人の鳥だけが以前見たままの姿を保っていた。

ルーシェ「聖獣ガルーダよ。
ヴィマーナが沈んだ今、創造主とやらの盟約も、もはや反故のはず…
今こそ我が力となるべく、我と共に参れ!」
ガルーダ「…汝は…我が封印を解き放てし者…
だが…アグエルの末裔…なのか?」
ルーシェ「…何を言っているのです?
わたくしは、グレゴリウス皇女・ルーシェですわ。」
ガルーダ「…いや…だが確かに、紛れもなく聖剣を携え、我らが眷属を従えし者…
…よかろう…共に行きて、汝の器、見定めん…」
ルーシェ「…?…」

ガルーダは謎の言葉を残して光を放ち、やがて粒子となってケットシーに吸収された。





続く…
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