魔導姫戦記

森乃守人

文字の大きさ
上 下
41 / 67
本編 第二部

ep.32 天翔ける船

しおりを挟む
1人連行され、ヴィマーナ船内の一室に入れられたラグナ。

「…鍵はかかってない…出られそうだぞ…!」
ラグナが扉を開けると、室外では下級兵が見張りをしていた。
「部屋にお戻り下さい、ラグナ様!」

だが、これまでの冒険で経験を積んだラグナにとって、雑兵を気絶させる事などさほど難しくはなかった。
船内を探索して程なく、兵士に守られた別の部屋を発見する。

ラグナ(そんなすぐにミシェルさんが見つかるなんて出来過ぎてるけど…でも、可能性はある。)

再び兵士を気絶させて部屋に入る。

ミシェル「ラグナ君⁉︎」
ラグナ「ミシェルさん!
何もされてませんか⁉︎」
ミシェル「私は大丈夫…!」
ラグナ「よかった…!
ランさんや、帝国の人達も来てます…!
行きましょう…!」
ミシェル「えぇ…!」



脱出経路を探索中、長い廊下の様なフロアに、獣面の巨鳥の石像が祀られた祭壇を発見した。

ラグナ「これは…聖獣…?」
「だとすれば…
(石像に向かって)
お願い、私達に力を貸して…?」
ミシェルがそう言って剣をかざすと、石像に亀裂が走り、そこから光が漏れ出した。
やがて像は砕け散って光の粒子となり、獣面の巨鳥の姿を形作る。
「我が名はシームルグ…
封印されし4枚の翼は、あと一翼の解放をもって、船を天へと導かん…」

ラグナ「…?
いつもみたいにカーバンクルに吸収されないんですね…」
ミシェル「……
シームルグ、一緒に来ては貰えないの?」
シームルグ「…我ら4柱、創造主との盟約に従いて、船の翼たるべくこれに留まるものなり…」

その時、衛兵の声が聞こえてきた。
「見つけたか⁉︎」
「いや…声が聞こえた気がしたんだが…
それにしても、何故こんな所にあんな娘を…?」
「さぁな、貴族達のお考えはわからんが、我々は言われた事をやるしかない。」

(何も知らされてないのは下級兵だからか…?
そう言えば、船内では1人も騎士団に遭ってないな…
…とにかく、いつまでもここに居て捕まる訳にはいかない…!)
ラグナ達はやむなく、聖獣を残してその場を離れた。










一方ルーシェ達も、再び長い廊下の様なフロアに、尾羽の長い鳥の石像が祀られた祭壇を発見する。

「…グレゴリウス皇女・ルーシェの名において命ず…
聖獣よ、天翔ける船の翼たるべく、その戒めを解き放たん…!」
ルーシェが石像に向かって剣をかざすと、像に亀裂が走り、そこから光が漏れ出した。
やがて像は砕け散って光の粒子となり、極彩色の鳥の姿を形作る。
それと同時に、艦内は明るく照らされ、微細な振動と共に、機械カラクリの作動音が響き渡った。

「我が名はフェニックス…
全ての翼は解き放たれた…
我ら4柱、船を天へと導かん…」

ルーシェ「…全て…解き放たれた…⁉︎」
イリア「アレ?
あともう1体いるんじゃ…?」
ザハーク「ミシェル殿によって解放された、と見るべきでしょう。
…となれば、次なる急務はこの船の制御…」
ゼル「しかしその前に姫様、少しでも休まれた方が…」
ルーシェ「…いいえ…船の封印は解かれたのです…
先を急がねばなりません…!」



やがてルーシェ達が辿り着いたフロア…

周囲の壁にはガラスの板が張り巡らされているが、窓とは違う…
外の景色など映しておらず真っ暗だが、これを覗き込むのにおあつらえ向きの椅子が、それぞれに設置してあった。

フロアの中央には祭壇がある。

ザハーク「殿下の持つ聖剣エクスカリバーが、かつて祀ってあった祭壇によく似ていますな。
もしやそれを突き立てれば…」
「…やってみましょう…」
ルーシェが祭壇に剣を突き立てると、真っ暗だった周囲のガラス板は、とつぜん窓の様に外の景色を映しだし、微細だった振動と作動音が強さ・高さを増すと同時に、フロア内に声が響く。

「天への道は開かれた…!」

ザハーク「おぉぉ…遂に…!
殿下、今こそ逆賊どもに裁きの鉄槌を…‼︎」










一方その頃…

ラグナ「…⁉︎
船が…動いてる?」
ミシェル「……
ラグナ君のお父様達は、私にこの船を起動させようとしてた…
他にそれが出来る人が居るとすれば…」
ラグナ「ルーシェ姫…!」
ミシェル「でも、そうだとしたら…
ルーシェ姫はこの船をどう使うのかしら…」
ラグナ「まさか新興国に『裁きの鉄槌』を⁉︎」

その時、2人の前にオーディンが立ち塞がった。
「そこまでだ、ラグナ…!」
ラグナ「と…父さん…!」
オーディン「彼女を渡せ。
そして一緒に来い、ラグナ。」
ラグナ「…僕達に構ってる場合ですか?父さん。
恐らくいま船を動かしてるのはルーシェ姫です。
帝国が船を手に入れたという事は、アースガルドにも『裁きの鉄槌』が下るかもしれないんですよ⁉︎」
オーディン「心配せずともそうはならん。」
ラグナ「…なぜ…そう言い切れるんです…?」
オーディン「お前がそれを知る必要はない。」
ラグナ「…またそうやって貴方は…‼︎」
「…知りたくば、力ずくで聞き出してみるがいい…!」
オーディンはそう言うと槍を構えた。

ラグナは槍の石突に近い所を握り、横薙ぎを繰り出すと、勢いそのまま回転して斬撃を連続する。

「確かに、そうやって遠心力を利用すれば、腕力で劣るお前でも膂力を得られる…が、動きが単調だな。」
オーディンは周期的なリズムで繰り出される斬撃の合間を縫い、刃圏の内側に飛び込んだ。
ラグナはすかさず槍を握る箇所を、石突から柄の中央寄りに持ち変え、穂先と石突による連撃に切り替える。

オーディン「…少しの間にまた研鑽を積んだ様だな…
だが、同じ武器を使う以上、腕力と熟練の差は一朝一夕では覆らんぞ。」
「(確かに、いまだ実力は父さんの方が遥かに上だ…だけど!)
…言ったはずですよ。
ミシェルさんを守る為には、どんな手も使うって…!」
ラグナがそう言って視線を送ると、ミシェルが頷く。
「…聖獣ムリアンよ、かの者に大地の防壁を!
…聖獣ユニコーンよ、かの者の刃に更なる鋭さを!」

魔法の加護を得て、ラグナに対する攻撃は威力が半減し、逆にラグナによる攻撃はその威力を増した。

ラグナ(よし、これなら何とか通用する!)
「フッ…どんな手も使う、か…
ならばこちらも忌憚は無用…!
スレイプニル、参れ!」
オーディンが合図をすると、8脚の馬が駆けつけた。

ラグナ「あれはまるで…聖獣…!
アリハマ博士が造ったのか…?」

オーディンはその馬・スレイプニルに跨り、槍を構えると、ラグナの視界から瞬時に消えた。

ラグナ「!⁉︎」

次の瞬間、背後から斬撃が襲う。
反射的に受け止め反撃を試みるも、残像を残して、再び背後から斬りかかる。
ひとしきりラグナを翻弄した後、オーディンは言う。
「もう諦めろ、ラグナ。」
「くっ…ま、まだです…!」
ラグナはそう答えると、再びミシェルに視線を送り、ミシェルもまた頷いた。
「…お願いペガサス、ラグナ君に力を貸して!」
ミシェルの言葉に呼応してカーバンクルから放たれた光は、やがて粒子となって集まり、天馬の姿を形作る。
「…盟約に従いて、主を守らんとする者に力を貸さん…」
ラグナ「よ…よし!」

ペガサスを駆る事で、スレイプニルの瞬間移動の様な動きにも対応できるようになり、加えてラグナの振るう槍は穂先から雷撃を放つ。
射程攻撃を得る事で、趨勢はラグナに傾いた。

その時、船内を照らしていた灯りが突然すべて消える。

ラグナ「な、なんだ⁉︎」

船内に声が響く。
「これより10を数えたのち、裁きの鉄槌が下される…
船内の者は衝撃に、艦橋の者は加えて閃光に備えよ…
10・9・8…」

ラグナ「裁きの鉄槌…!
う、撃つのか?ルーシェ姫…!
一体どこに…⁉︎」





続く…



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...