魔導姫戦記

森乃守人

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本編 第二部

ep.28 シェイミーの素性

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アースガルド兵「議長、いかがなさいますか?」
オーディン「…市井しせいの目があるうちは従う他あるまい。
隠密部隊に追跡させ、街の外に出た所で捕らえろ。
人質は見殺しにして構わん。」










アリハマ博士の助手・シェイミーを人質にとり、自宅での軟禁状態を脱したラグナ。
街を出て少しした所で、手を緩めて言う。
「…あ、あの…すみません…
ミシェルさんの居場所さえ教えてくれれば、危害は加えませんから…」
「貴方はそのつもりでも、あの人達はどうかしらね?」
そう言うシェイミーの視線の先を見ると、南方大陸でも遭遇した国籍不明兵アサシン達が、2人を取り囲んでいた。

ラグナ「あの人達は…!
やっぱり父さんの差し金だったのか…!
…よ、寄るな‼︎
アリハマ博士の助手がどうなってもいいのか⁉︎」
国籍不明兵アサシン「…構わん、捕らえろ。」
「…⁉︎」
意にも介さず近付いて来る兵に、ラグナは身構える。

「…やっぱりそう来るのね。
まぁ、お互い様だけど。」
シェイミーはそう言うと弓に矢を番え、放った。
それは1人の兵士の眉間を正確に射抜く。
シェイミー「まず1人…
そして…2人目ッ!」

続けて放たれた矢は、辛うじて身を逸らした兵の頬を掠めた。
「貴様…ただの学者ではないな?
だが、残念だったな。」
シェイミー「そう…残念ね。
長らく女1人で放浪してたから、護身術は二重三重に用意してるの。」
「何…?
貴様…一体なにを…⁉︎」
次の瞬間、兵士は脱力感に襲われ膝をつき、その機を逃さず再びシェイミーの矢が眉間を捉える。
 
「毒か?小賢しい…!」
残った兵達は四方から同時に飛び掛かって来た。
正確無比なシェイミーの矢とて、それら全てを同時に捉えきる事は出来ず、撃ち漏らした兵を、ラグナが槍で薙ぎ払うが…
「くっ…手数が足りない…!」
「もらった!」
間合いを詰め、右手の小太刀を振り上げた兵士は次の瞬間、首の無い自分の胴体が視界から遠ざかるのを見る。
そしてその傍らで、黒髪の女が日本刀を鞘に収める姿が、彼の瞳が映した最期の映像となった。

ラグナ「ランさん、リン!」
兵士「くっ…テロリスト共か…!」
リン「野盗を使って人攫いさせてるアンタ達なんかに、テロリスト呼ばわりされたくないよッ!」

駆けつけた仲間と共に、残った兵達を掃討する。



ラン「さて、と…
連れが迷惑かけたわね…と言いたいトコだけど、アンタ、どういうつもり?」
シェイミー「…何の事かしら?」
ラン「今の戦闘で、アンタが只の学者じゃないのはわかった。
でも、じゃあさ、なんでワザと人質になんかなってんの?」
ラグナ「⁉︎」
ラン「実はヴァルホル邸から、野次馬に紛れてずっと見てたんだけどさ、そん時から違和感あったのよね。」
シェイミー「……
流石、あの2人のお仲間ね。」
ラグナ「あの2人…?」
シェイミー「そう…私、少し前まで、貴方達のお仲間と一緒に魔法石フォシルを探す旅をしてたのよ。」
ラグナ「それってもしかして…シグルズさんと、メリュジーヌさん?」
シェイミー「えぇ、そしてそのとき知ったの。
帝国内に内通者が居る事…
そしてラグナ君…キミと、ミシェルさん?アグエルの力を持った子が、その帝国に行ったかもしれないってね。
それで、かつて師事したアリハマ博士の元に取り入った。」
リン「じゃあ、ワザとラグナっちに捕まったのって…」
ラグナ「こうなる事を見越して、僕をミシェルさんの所に導く為…?」
「……」
用心深いランは、怪訝けげんそうな表情を崩さない。

シェイミー「聞いただけじゃ信用できないか…
2人に会わせてくれれば、すぐわかるわ。
今どこに?」
ラン「それが…」

その時、伝話鳥アルキュオネが鳴き出す。

リン「あ、シャールヴィからだ♪」

伝話鳥アルキュオネは、シャールヴィの声を伝えた。
「大変だ!
ユグドラシルが…瓦礫の山になってる!」
リン「どゆこと⁉︎
賢者様たちは⁉︎」
シャールヴィ「どこにも見当たらない…
何があったか知んないけど、まさかこの下なんて事は…」
ラン「連絡つかないと思ったら…」
シェイミー「そんな⁉︎まさか…
(ラグナを見て)
お急ぎのところ悪いけど、ユグドラシルに寄らせてもらっても良いかしら?」
ラグナ「もちろんです!」
シャールヴィ「ん?誰の声?」
リン「いいからアンタはそこで待ってて。
すぐ行くから。」



かくして一行はユグドラシルへ向かう。
その道中…

ラン「…ところで、アンタさっき『かつてアリハマ博士に師事してた』って言ったわね?」
シェイミー「…そうよ。
戦後、私をはじめ数名の学者が彼の元で魔法の研究に携わり、魔導師を造り出した…」
ラン「アンタ達が魔導師を…⁉︎」
シェイミー「あの頃は誰も、魔法のリスクなんて知らなかったのよ。
だから…私達自身も被験者となった…」
ラグナ「‼︎
じゃあ、貴方も魔導師に…?」
シェイミー「えぇ…
…やがて、魔導師達の中から異形化奇病メタモルフを発症する者が現れ、私達はアリハマ博士に魔法の危険性を訴えた。
でも彼は、魔法の利権を欲する貴族達と癒着し、実験を止めようとはしなかった…
だから私達は彼の元から逃げだしたの。
…囚われていた、当時まだ幼かったルーシェ姫を連れ出してね。」
ラグナ「ルーシェ姫と一緒に…⁉︎
という事はもしかして…」
シェイミー「そう…その時の学者や被験者達が最初の帝国魔導師ウィザードとなった…」
ラン「じゃあ、アンタも初代帝国魔導師ウィザードってワケか…
それがなんで賢者様たちと…?」
シェイミー「…帝国魔導師ウィザードなら、少し前に辞めたわ。」
リン「どして?」
シェイミー「それすら、アリハマ博士の掌の上で踊らされてるに過ぎないって気付いたからよ。」
ラグナ「あの帝国がアリハマ博士に…⁉︎
どういう事です?」
シェイミー「軍備増強を名目に魔法の研究を続ける口実と、貴族との格差に対する民の不満を逸らせる矛先として、帝国は利用されたのよ。」
ラグナ「そんな…!」
ラン「…なるほどね。」



やがて一行は、シャールヴィの待つユグドラシルに辿り着く。
シャールヴィが言った通り、塔は崩れ去り、瓦礫の山と化していた。





続く…



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