魔導姫戦記

森乃守人

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本編 第二部

ep.26 騎士道

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アースガルド国・ヴァルホル邸…

家庭教師「かくして、圧政によって民を苦しめたグレゴリウス帝国は倒され、自由で平等な社会が…
ラグナ「嘘です。
貴族達が魔法の恩恵を自由に受けられるようになった裏で、戦災孤児や貧しい人々は魔導師にされ、異形化奇病メタモルフを発症しています。」
家庭教師「いや…そのような噂はありますが、根拠が…」
ラグナ「僕はこの目で見たんです!
魔導師が異形化奇病メタモルフになる瞬間を…何度も…!」

その時、ドアをノックする音がした。

使用人「ラグナ様、お食事の用意が出来ました。」
家庭教師「……
では、今日の授業はこれまでとします。」



長いテーブルの上座に父・オーディンが座る食卓。
豪勢な料理が並ぶが、まるで食べる気がしない。
ラグナの母・フリッグが言う。
「一緒に助けられた子って、戦災孤児なんですって?
どうしてそんな子とラグナちゃんが…?」

ミシェルを蔑視する様な言い草に、ラグナは怒りに任せて食卓の上の料理を食器ごと払い落とした。
だが次の瞬間、ハッとする。
旅先で見た人々は皆、日々の糧を得るため必死に働き、懸命に生きていた…それを思い、床に落ちた料理を必死で食べる。

フリッグ「まぁ、何てお行儀の悪い!」
オーディン「……
ラグナ、庭園に来なさい。
自分の槍を持ってな。」
ラグナ「⁉︎」



ヴァルホル邸・庭園…

オーディン「構えなさい。
私に勝つ事が出来たなら、あの娘と何処へなりと行くがいい。」
ラグナ「⁉︎」
フリッグ「貴方…何を⁉︎」
オーディン「だが、負けたらあの娘は諦め、アカデミーに戻る事を約束すると、お前の騎士道に誓え。
いいな?」
ラグナ「……
本当に、勝ったらミシェルさんを解放してくれるんですね…?」
オーディン「…私の騎士道に誓おう。」
ラグナ「……
わかりました…やります…!」

かくして、ラグナとオーディンの一騎討ちが始まった。

ラグナ(革命戦争でシグルズさんが自分の父親を倒した時、シグルズさんは今の僕くらいの歳だった…
僕だって色々経験を積んで来たんだ…今なら!)
オーディン「…テロリストのもとで、多少は研鑽を積んだようだな。」

その打ち合いは、はた目には互角に見えたが、ラグナには父が本気でない事がはっきりとわかった。
 
ラグナ(帝国1000年の栄華に終止符を打った革命戦争の首謀者…
実力差はあって当然…それでも!ミシェルさんを救う為に、実力以上の力を出すんだ!)
「…そろそろ少し本気を出すぞ。」
そう言うと、オーディンの槍の石突による打ち込みだけが、一方的にラグナを捉え始める。

オーディン「私が穂先を向けていれば、お前は今日何度死んだかわからんぞ。」
(くそッ、手加減されてても圧倒的だ!
でも、ここで勝たないとミシェルさんは…)
ラグナの脳裏を、パズズの言葉がよぎる。



『アリハマ博士の実験動物モルモット



「絶対…負ける訳にはいかない‼︎」
ラグナの渾身の一撃‼︎



だが、オーディンはいとも容易く捌き、返す刃をラグナの首筋で寸止めして言った。
「…気合いや精神論などで積み上げたものが覆る程、現実は甘くない。」

ラグナは茫然として、芝生の上に自分の槍を落とす。

オーディン「…案ずるな。
彼女の持つ力は希少だ。危害を加えたりはしない。」
フリッグ「…ラグナちゃん…
貴方にはもっと相応しい人を、パパとママが選んであげますから…」
ラグナ「……」










翌日、アカデミーにて…

女生徒「ラグナ君⁉︎
すっごい久しぶりだね~!
テロリストに拉致されてたんだって⁉︎
心配してたんだよ~。
大丈夫だった?」
ラグナ「…うん…」
女生徒「授業もだいぶ遅れたでしょ?
わからない所、教えてあげるからさ~。
一緒に教室行こ?」



放課後…

「ラグナっち!
この浮気者~…ミシェルちゃんに言いつけちゃうんだから~!」
聞き覚えのある声に振り返り、目を丸くするラグナ。
「リン?ランさん?」
ラン「アンタも中々隅に置けないじゃない。」
ラグナ「…どうやってここに…?」
リン「へへ~♪似合うでしょ?
前の史跡見学に潜入した時に着た制服♪」
ラン「トレジャーハンターだからね、どこにだって忍び込むさ。」
リン「さ、ミシェルちゃんを助けに行こ?」
ラグナ「…でも、父さんとの約束で…
…ミシェルさんにも危害は加えないって…」
リン「はぁ⁉︎
なに言ってんの⁉︎」
ラン「……
…まぁ、実はあんたン家、ずっと覗いてて一部始終見てたんだけどさ…
じゃあナニかい?
勝手に勝負にミシェルを賭けて、負けたから諦めるってワケ?」
ラグナ「…お互いの騎士道に誓った約束なので…」
リン「騎士道⁉︎ナニソレ⁉︎」
ラン「くだらないね!
アンタそんなモンの為にミシェルを…」

その時である。

「こっちです!」
女生徒に呼ばれ、衛兵が駆けつけた。
「何だ君達は、本当にここの生徒か⁉︎」
ラン「チッ…行くよ、リン!」
リン「でも、ラグナっちは…⁉︎」
ラン「そいつはもうラグナじゃない。
成り行きで名ばかりの騎士になるだけの、ただのボンクラ貴族さ…!」
「待ちなさい、君達!」
立ち去る2人と、それを追う衛兵。

女生徒「大丈夫だった?
見た事ない子達に絡まれてたからさ…
…一緒に帰ろ?」
ラグナ「…いや…
迎えが来てるから…」
女生徒「そ、そっか…
じゃ、また明日ね。」










ヴァルホル邸・オーディンの書斎…

白衣の美女「ミシェルさんの護送は無事完了しています。
健康状態にも問題ありません。」
オーディン「日程は?」
白衣の美女「アリハマ博士が戻り次第、としか…」
オーディン「わかり次第連絡をくれ。」
白衣の美女「承知しました。
では、失礼いたします。」



護衛に送られ帰宅したラグナと出くわした白衣の美女。
「こんにちは、貴方がラグナ君?
…聞いてたのと、ちょっと雰囲気違うかしら…」
ラグナ「こっ…こんにちは。
…あの…あなたは…?」
白衣の美女「あっ、ごめんなさいね。
私はシェイミー=ハサウェイ。
アリハマ博士の助手よ。」
ラグナ「アリハマ博士の…⁉︎
…あのっ!
…ミシェルさんは…無事なんですよね⁉︎」

ラグナの問い掛けに、シェイミーは悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「…どうかしら?
博士にとって、この世にある全ての物事は、研究と実験の対象でしかないわ。
そして私は、博士に命じられれば、あの子の身体にもメスを入れざるを得ない…」

その言葉にラグナは、血の気が引く様な…目の前の景色が、その場に居ながら遠ざかる様な感覚に襲われた。
だが次の瞬間、ある決意をする。

ラグナはシェイミーを羽交い締めにし、彼女が携えていた弓矢のやじりを首筋に突き付け、言った。
「ぼっ…僕を、ミシェルさんの所まで…あ、案内して下さい…!」

シェイミーは、うろたえもせず答えた。
「あら、見込み違いかと思ったけど、そうでもなさそうね。」
ラグナ「…?」
シェイミー「そのまま私を人質にして、外へ出なさい。」

言われた通り外へ出て、衛兵が守るヴァルホル邸門前に差し掛かると、シェイミーは大袈裟な程に叫ぶ。
「助けて‼︎
言う通りにするから、殺さないで‼︎」
衛兵「⁉︎
ラグナ様、一体何を⁉︎」

その騒ぎに、往来を行く人々は野次馬となって集まり、望遠鏡でヴァルホル邸を監視していたラン・リン、邸内のオーディンも駆け付けた。
リン「ラグナっち⁉︎」
ラン「ちょっと、面白い事してるじゃない。」
オーディン「一体何の騒ぎだ⁉︎」

シェイミーは、その態度の豹変ぶりに驚くラグナに小声で言う。
「(さぁ、貴方があの後どうするつもりだったのか、見せてごらんなさい!)」

ラグナはハッとし、毅然とした態度を取り繕って叫んだ。
「武器を捨てて道を…あ、開けろ‼︎
さもないと…こ、この人の命は無いぞ‼︎」
オーディン「ラグナ…お前…!
騎士道に賭けて誓った約束を違えるつもりか⁉︎」
ラグナ「女の子を見殺しにして…そんな騎士道…く、クソ喰らえだ‼︎
どんな手段を使ってでも…例え卑怯と言われてでもミシェルさんを守る、それが僕の騎士道だ‼︎」
リン「ラグナっち、カッコイイ!」
ラン「よく言ったよ…ラグナ…!」

野次馬の集まる中で人質を見殺しにする訳にもいかず、オーディンは成す術なくラグナを見送るしかなかった。





続く…
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