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本編 第一部
ep.5 始動
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帝国の姫を名乗る者からの声明を受けて、アースガルド官邸にて執り行われた、各国議長の会合の様子である。
「失態ですなぁ、オーディン侯。
ご自分のお膝元に置きながら、みすみすテロリストに帝国の姫君を奪われてしまうとは…!」
1人の貴族がニヤケた顔で言った。
ヨトゥンヘイム議長・ソールがオーディンを擁護する。
「聞いた話だけでは、拐われた娘が帝国の姫だったとは決め付けられんではないか。」
オーディン「失態は認めよう。
だが、それを嘆いたところで時間の無駄だ。」
貴族達
「開き直りおって…」
「とは言え、策を講じませんとな。」
「そもそも彼奴らは何処におるのだ?」
オーディン「それについては目星が付いている。
恐らくヒノモト国だろう。」
貴族達
「確かに、メタモルフに滅ぼされた彼の地ならば…」
「死人は領有権を主張しませんからな。」
「では早速、連合軍を編成して差し向けましょう。」
ソール「まだ何もしとらん相手に、先に仕掛ける訳にはいかんだろう!」
オーディン「そうだ、大義名分の無い軍事行動は、民意を損ねる恐れがある。」
貴族達
「何を悠長な…!」
「民意などに気を使う必要は無い!」
ソール「それではかつての帝国と変わらんではないか!」
オーディン「我々は、民衆を味方に付けて革命を成したのだ。
侮ってはならん。」
貴族達
「では、このまま黙って見ていると?」
「彼奴らが行動を起こしてからでは遅いのではないか?」
オーディンは、不敵な笑みを浮かべて言った。
「恐れる事は無い。
もはや魔法の力は、王家だけのものではないのだ。」
ラグナ達が、ヒノモト国からエーギルの舟屋に戻ると、シャールヴィが待っていた。
「ラグナ兄ちゃん!
よかった~戻って来て…
どうだった?」
ラグナは、ヒノモトで会ったのがミシェルにそっくりな帝国の姫だった事を、言うべきか躊躇し、沈黙した。
シャールヴィには何があったか知る由も無かったが、思わしい結果では無かったと察して言った。
「そっか…
とにかく帰ろう。
そろそろ爺ちゃんも戻るから、オイラが送るよ。」
アースガルド国・ヴァルホル邸…
オーディン「ラグナ!
アカデミーにも行かず、どこで何をしていた⁉︎」
ラグナ「すみません…」
オーディン「……
まぁ、無事帰ったなら良い。
…して、例の娘には会えたか?」
ラグナ「…いえ…」
それは、もしかしたら嘘になるかも知れないが、咄嗟にそう答えた。
オーディン「まぁ、そうであろうな。
シグルズの事ならば聞いたが、あ奴なら心配いるまい。
今日はもう休みなさい。
(シャールヴィを見て)
シャールヴィ君、もう夜も遅い。
ソール侯には話してあるから、泊まって行くといい。」
その夜、事実上グレゴリウス領となっていたヒノモトから、鳥の様な翼の生えた獣に乗って飛び立つ複数の人影があった。
その様子は、偵察兵から伝話鳥を通じてオーディンに知らされる。
「私だ。
…動き出したか。
こちらも兵を派遣する。」
寝付けないでいたラグナは、オーディンの部屋の前で偶然それを立ち聞きし、もしやと思った。
(官邸で待ち伏せれば、兵士を尾行して行けるかも知れない。)
ラグナはヴァルホル邸を出ようとする。
「こら、ラグナ!」
心臓が止まるほど驚き、振り返ると居たのはシャールヴィだった。
「へへっ、ラグナ兄ちゃんも悪い子だな。
オイラも付き合うよ。」
ラグナ「ダメだ!君は大人しく…」
シャールヴィ「騒ぐとラグナの父ちゃんにバレちゃうよ?」
ラグナ「!ッ…」
渋々シャールヴィの同行を許し、官邸に向かった。
門前で隠れて待ち、程なく出立した兵士達の後を尾ける。
襲い来る異形化奇病を退けながら、森を抜け、山を越え、辿り着いたのは、アカデミーの史跡見学で訪れ、ミシェルと離別した、旧グレゴリウス城跡だった。
続く…
「失態ですなぁ、オーディン侯。
ご自分のお膝元に置きながら、みすみすテロリストに帝国の姫君を奪われてしまうとは…!」
1人の貴族がニヤケた顔で言った。
ヨトゥンヘイム議長・ソールがオーディンを擁護する。
「聞いた話だけでは、拐われた娘が帝国の姫だったとは決め付けられんではないか。」
オーディン「失態は認めよう。
だが、それを嘆いたところで時間の無駄だ。」
貴族達
「開き直りおって…」
「とは言え、策を講じませんとな。」
「そもそも彼奴らは何処におるのだ?」
オーディン「それについては目星が付いている。
恐らくヒノモト国だろう。」
貴族達
「確かに、メタモルフに滅ぼされた彼の地ならば…」
「死人は領有権を主張しませんからな。」
「では早速、連合軍を編成して差し向けましょう。」
ソール「まだ何もしとらん相手に、先に仕掛ける訳にはいかんだろう!」
オーディン「そうだ、大義名分の無い軍事行動は、民意を損ねる恐れがある。」
貴族達
「何を悠長な…!」
「民意などに気を使う必要は無い!」
ソール「それではかつての帝国と変わらんではないか!」
オーディン「我々は、民衆を味方に付けて革命を成したのだ。
侮ってはならん。」
貴族達
「では、このまま黙って見ていると?」
「彼奴らが行動を起こしてからでは遅いのではないか?」
オーディンは、不敵な笑みを浮かべて言った。
「恐れる事は無い。
もはや魔法の力は、王家だけのものではないのだ。」
ラグナ達が、ヒノモト国からエーギルの舟屋に戻ると、シャールヴィが待っていた。
「ラグナ兄ちゃん!
よかった~戻って来て…
どうだった?」
ラグナは、ヒノモトで会ったのがミシェルにそっくりな帝国の姫だった事を、言うべきか躊躇し、沈黙した。
シャールヴィには何があったか知る由も無かったが、思わしい結果では無かったと察して言った。
「そっか…
とにかく帰ろう。
そろそろ爺ちゃんも戻るから、オイラが送るよ。」
アースガルド国・ヴァルホル邸…
オーディン「ラグナ!
アカデミーにも行かず、どこで何をしていた⁉︎」
ラグナ「すみません…」
オーディン「……
まぁ、無事帰ったなら良い。
…して、例の娘には会えたか?」
ラグナ「…いえ…」
それは、もしかしたら嘘になるかも知れないが、咄嗟にそう答えた。
オーディン「まぁ、そうであろうな。
シグルズの事ならば聞いたが、あ奴なら心配いるまい。
今日はもう休みなさい。
(シャールヴィを見て)
シャールヴィ君、もう夜も遅い。
ソール侯には話してあるから、泊まって行くといい。」
その夜、事実上グレゴリウス領となっていたヒノモトから、鳥の様な翼の生えた獣に乗って飛び立つ複数の人影があった。
その様子は、偵察兵から伝話鳥を通じてオーディンに知らされる。
「私だ。
…動き出したか。
こちらも兵を派遣する。」
寝付けないでいたラグナは、オーディンの部屋の前で偶然それを立ち聞きし、もしやと思った。
(官邸で待ち伏せれば、兵士を尾行して行けるかも知れない。)
ラグナはヴァルホル邸を出ようとする。
「こら、ラグナ!」
心臓が止まるほど驚き、振り返ると居たのはシャールヴィだった。
「へへっ、ラグナ兄ちゃんも悪い子だな。
オイラも付き合うよ。」
ラグナ「ダメだ!君は大人しく…」
シャールヴィ「騒ぐとラグナの父ちゃんにバレちゃうよ?」
ラグナ「!ッ…」
渋々シャールヴィの同行を許し、官邸に向かった。
門前で隠れて待ち、程なく出立した兵士達の後を尾ける。
襲い来る異形化奇病を退けながら、森を抜け、山を越え、辿り着いたのは、アカデミーの史跡見学で訪れ、ミシェルと離別した、旧グレゴリウス城跡だった。
続く…
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