1 / 67
本編 第一部
ep.1 序章
しおりを挟む
戦士達の亡骸が無数に転がる古城に、激しくぶつかり合う金属音が響き渡る。
そこはグレゴリウス皇帝の玉座の間。
帝国軍最強と謳われる近衛兵長シグムントと、革命軍の若き志士シグルズの、剣技の応酬。
互いに、自身の身長程もある大剣を両手で振るい、その長大さから想像される重量にそぐわぬ、無数の剣閃が描かれる。
だが、それらがぶつかり合う衝撃音は、紛れも無く重量級武器特有の響きだ。
やがて、同時に剣舞を止めた両者。
共に肩でする息は荒い。
「見事だ…我が息子よ…」
それは、シグムントの生涯最期の言葉となった。
近衛兵長が力尽きた今、皇帝を守る者は誰も居ない。
「チェックメイトですな、皇帝陛下。」
革命軍のリーダー・オーディンが、そう言って不敵な笑みを浮かべた。
「愚かなり逆賊供よ。
グレゴリウス王家のみが神より授かりし力… 『魔法』による裁きを受け、滅び去るがよい。」
皇帝の召喚魔法によって現れた聖獣ピュラリスが炎の息吹を放つ。だが、その前に立ち塞がった革命軍のアリハマ博士が手をかざすと、光の壁が炎を遮った。
皇帝「⁉︎
バカな…その力はまるで魔法…
なぜ王族でもない者がその力を…?」
オーディン「陛下、ご覚悟を…」
それから16年後、舞台は同じくグレゴリウス城…
課外授業の史跡見学に訪れていたアカデミーの学生達を相手に、教師が講釈を述べる。
「かくして革命戦争は終結し、グレゴリウス帝国の統一支配から世界は解放されたのである。
さて、ではその結果、世界はどうなったか、説明できる者はいるかな?」
「はい。」
女生徒が挙手する。
教師「ではミシェル君。」
「はい。
世界各地に独立国が誕生しました。
そして、それまで帝国が独占していた魔法の力の恩恵を、多くの人々が受けられるようになり、その生活は便利で快適なものになりました。
それから…」
言いかけたミシェルの表情がやや曇る。
教師「他にまだ何かあったかね?」
ミシェル「…人が異形化、凶暴化する奇病 『メタモルフ』が流行しました。」
教師「ふむ、その通り。
まぁ、メタモルフの流行と革命戦争の因果関係は無いと思うがね。
(生徒を見渡し)
さて諸君。
これより、ここ 旧グレゴリウス城跡にて、自主見学をしてもらう。
アースガルド騎士団の方々が警備にいらしているが、外には異形化奇病も出没するので、決して出ないように。
では解散。」
そのアカデミーは、戦後、独立したアースガルド国の議長となったオーディンが設立した、貴族から孤児まで身分に関わりなく教育を受けられる学校である。
何やらソワソワしている男子生徒が、意を決して、しかし緊張しながら口を開く。
「…あっ、あのっ、ミシェルさん!」
ミシェル「あら、ラグナ君?」
ラグナ「あのっ、い…一緒に見学しませんか?」
「そうね、そうしましょう。」
ミシェルはあっさり承諾したが、残念ながら、どうやらラグナの真意には気付いてない様だ。
「いいねぇ、青春だねぇ…
…つーか、なんでこの俺様が、ガキんちょ供の史跡見学の護衛なんざ…」
警備に参加していたシグルズが、遠くで眺めながらぼやいた。
革命軍の若き志士も、あれから16年…
今や 『革命戦の英雄』と呼ばれるに相応しい風格を携えている。
一方その頃、怪しい女生徒が2人…
「潜入成功っと♪
さ、行くよリン!」
リン「でもランちゃん。
こんだけ居る中から、どやって探すの?」
ラン「そうさねぇ…
異形化奇病でも乱入すれば、ご主人様のピンチに駆けつけるんじゃない?」
リン「な~るほど、異形化奇病…ね♪」
2人は学生になりすまして潜入し、何やら探しているようだ。
城内を探索し、城門付近に差し掛かる。
ラン「シッ!隠れな!」
城門に衛兵が2人。
「おい。」
「なんだ?」
「二階級特進おめでとう。」
「?
何の話だ?…ぐわっ‼︎」
「君は異形化奇病の襲撃で殉職した。」
兵士は同僚を槍で突き殺し、城門を開けた。
血の匂いに誘われ、外を徘徊する異形化奇病が続々と侵入する。
ラン「どうやらウチらと同じ事考えてる奴が居るみたいね。
しかも本物の異形化奇病使って…
死人までだすとは、ヤリ方がスマートじゃないね。」
リン「どうする?」
ラン「先越される訳いかないからね。
この騒ぎに乗じるよ!」
突然の異形化奇病の襲撃に、シグルズをはじめとする騎士団が応戦する傍ら、騎士を目指すラグナも、史跡内に展示されていた槍を手に取り奮戦する。
また、ミシェルにも剣の心得がある様だ。シグルズ「嬢ちゃん、剣はどこで習った?」
ミシェル「わかりません…
物心ついた頃からお稽古が習慣だったんです。」
シグルズ(どっかの戦没貴族の出身か?)
そう、ミシェルは戦災孤児なのだ。
シグルズをはじめとする騎士団の活躍により、一時は騒然となったものの大事には至っていない。
ラン「革命戦の英雄シグルズか…
流石に厄介だね。
やっぱウチらの『メタモルフ役』も出番かね。
(肩の上の小鳥に話しかける)
…もしもし?」
その鳥はアルキュオネという、元々は帝国に使役されていた聖獣である。
テレパシー能力で、遠くの者と会話が出来る。
アリハマ博士が模倣して造り出す事に成功し、今や富裕層を中心に多くの人々に普及していた。
その伝話鳥で、どこかに連絡を取っている様だ。
異形化奇病の駆除は着実に進み、騒動は沈静化しつつあるかに見えた。
そんな矢先、城内に轟音が響き、1人の兵士が走って来る。
「シグルズ卿、応援頼む!
今までの異形化奇病とはまるで違う奴が現れた!
我々では全く歯が立たん。」
「ほほぅ、そいつぁ面白ぇ…
(ラグナを見て)
坊ちゃん、騎士を目指すってんなら、嬢ちゃんを体張って守ってやんな。」
そう言い残してシグルズはその場を去る。
その直後、異形化奇病の生き残りが再び襲い掛かって来た。
ラグナはミシェルを庇って傷を負う。
ミシェル「ラグナ君!」
すると、どこからか不思議な小動物が現れ、光り輝く息吹をラグナの傷に吹きかけた。
光を浴びた傷は見る見る塞がり、活力を取り戻したラグナは辛うじて異形化奇病を退ける。
小動物はミシェルに懐いている様だ。
ミシェル「ありがとう、ラグナ君。
それと…小さな騎士様♪
でも、見た事ない子だね…」
リン「ターゲットは~っけ~ん♪」
ミシェル「きゃあっ!」
ラン「坊や、あんたの彼女、ちょっと借りるわね。」
突如現れた2人組に、ミシェルは捕らわれる。
小動物にも、この事態を打開出来る様な能動的な力は無いらしい。
なす術なくミシェルの傍らで威嚇するだけだ。
ラグナ「かっ…彼女って…
ってか、ミシェルさんを放せ!」
リン「照れてる?
かわい~坊や。」
ラグナ「君の方が子供だろっ⁉︎」
リン「あーっ、子供ってゆったなー⁉︎」
ラン「ふざけてないで行くよっ!」
逃走するランとリン。
再び伝話鳥でどこかに連絡する。
「待てッ!」
ラグナも後を追う。
一方その頃…
シグルズと対峙するのは、長い尾と大きな翼を持ち、全身鎧の様な鱗で覆われた、異形化奇病にしては醜悪と言うより精悍な姿の生き物だった。シグルズ「…コイツぁ確かに普通の異形化奇病じゃねぇな…
これだけ圧倒的な力を持っていながら、誰も殺さねぇで、あしらってるだけ…
まるで時間稼ぎだ。
…時間稼ぎ⁉︎」
その生き物は、何かに気付いたかの様に戦いを止めると、突如飛び去った。
シグルズ「待ちやがれ!
お楽しみはこれからだろ⁉︎」
城の外に逃走するも、崖っぷちに追い詰められたかに見えたランとリン。
そこへ、先程までシグルズと戦っていた生き物が飛来する。
ランが放り投げたロープを掴むと、3人と1匹を連れて空へ舞い上がった。
「待てッ!」
ラグナも必死にロープにしがみつく。
リン「ちょっとッ、エッチ!」
ラグナ「あっ、ゴ…ゴメンッ…」
リン「しつこい男はモテないよ!」
ラン「アタシはその情熱、嫌いじゃないけどな~。」
リン「ええぇぇぇ~、ランちゃん⁉︎」
そこへ、別の追跡者が辿り着く。
ラン「あッ、アイツ!
仲間を殺して城門あけた奴!」
ラグナ「えっ⁉︎」
「逃がさん。」
兵士は渾身の力を込めて槍を放り投げた。
それはロープを切断し、4人(と1匹)は崖下の森へと落下する。
ラグナ「ミシェルさん!大丈夫ですか⁉︎」
ミシェル「…私は大丈夫。
あの方達が庇ってくれたから…」
ラグナ「えっ?」
ラン「ウチらは平気さ。
慣れてるからね。」
リン「落ちたのが森で良かったよね~♪」
ラグナ「…あの…さっきの話…」
「…‼︎
後でね、坊や。」
何かに気付いたランは一歩前に進み、剣の収まった鞘を腰に、低く身構える。
ミシェル「…人?」
ラグナ「武器も持たずにこんな所に居たら危な…
リン「近づいちゃダメ!」
茂みの奥から現れたのは一見すると人間だったが、その眼は焦点が定まっておらず、その口からは言葉とも呻き声ともつかぬ音を、唾液と共に垂れ流しながらランを取り囲む。
「コイツらはゾンビ…人が異形化奇病を発症する寸前の状態さ。」
そう言ったランの右手がピクリと動いたかと思った刹那、一閃が弧を描いて走ると、次の瞬間、ランの周りに群がったゾンビ達はピタリと立ち止まり、一呼吸置いてバタバタと倒れていった。
ランに目をやると剣を抜いている。
それは、薄暗い森の僅かな光を反射して美しく輝く、細身で緩く反った片刃の、見た事もない剣だった。
ラン「ほら、ボサっと見てないで!」
リン「ほいほーい!」
リンは丸腰に見えたが、あどけない見た目にそぐわぬパワフルさと、キレ味鋭いダンスの様な動きを兼ね備えた格闘術を披露し、ランと連携して次々とゾンビ達を薙ぎ倒していった。
ラグナ「…殺した…のか?みんな…」
リン「こうなっちゃったら、もうゼッタイ元には戻れない…異形化奇病になるのを待つしかないんだよ。」
ラン「…この際お互いの立場は置いといて、共闘するしかないみたいよ、生きて帰るには。
あたしはラン、こっちは妹のリン。」
リン「よろしくね~♪」
ミシェル「ミシェルです。」
ラグナ「…僕は…ラグナ。」
その時、伝話鳥が鳴き出す。
ラン「もしもし?
……
……
……
わかった。
(一同を見て)
仲間からだ、こっちだよ。」
ランとリンは森の奥に向かって歩き出す。
ラグナはためらうが、どの道ついて行くしかなかった。
リン「ねぇねぇ、さっきの話…気になる?」
ラン「あんたの国にも、この子を探してる奴が居るみたいね。
異形化奇病まで利用してさ。」
ラグナ「君達だって異形化奇病を…」
ラン「あぁ、あの子は異形化奇病なんかじゃないよ。
竜…ドラゴンさ。」
ミシェル「おとぎ話に出てくる、大昔に滅んだって言う…?」
話の腰を折るように度々襲ってくる6脚猫科獣や野犬の様な生き物も、異形化奇病発症者なのだろうか?
それらを退けながら、ひたすら森を歩く。
ミシェル「皆さん、私にどういった御用が…?」
ラン「宝探しに付き合ってもらう…かな?」
リン「それと、世界平和の為!…だね♪」
ラグナ「真面目に答えて下さい!」
ラン「大マジなんだけどなぁ~。」
しばらく森を進むと、奇妙な建造物に辿り着いた。
ラン「ここか…待ち合わせには打って付けの目印だね。」
そこへ、先程のドラゴンが舞い降りる。
ラン「あんたも連れてったげようと思ったけど、お迎えが来たから大丈夫そうね。」
リン「ミシェルちゃんの事、悪いようにはしないからさ、心配しないでよ。」
そう言うと、突然ラグナは突き飛ばされ、ミシェルを抱えてランとリンは竜の背に飛び乗る。
ミシェル「ラグナ君‼︎」
ラグナ「ミシェルさん‼︎ミシェルさーーん‼︎」
そこへ、搜索に来ていたシグルズら騎士団が辿り着いたが、3人を乗せた竜は飛び去った。
シグルズ「チッ、逃げられた!
(ラグナを見つけ)
おい、坊ちゃん、無事か⁉︎」
騎士団に保護されたラグナは、アースガルドに帰国する。
アースガルド国・ヴァルホル邸…
ラグナ「父さん!」
オーディン「おぉラグナ!
無事で何よりだ。」
そう、ラグナは、かつての革命軍のリーダーにして、現アースガルド国議長・オーディン=ヴァルホルの息子であった。
ラグナ「でも、僕の…友達が拐われてしまいました。」
オーディン「案ずるな。
すぐに捜索隊を派遣しよう。
とりあえず今日はゆっくり休んで、明日、何があったか話しなさい。」
ラグナ「僕も捜索に参加します!
今すぐにでも…!」
「馬鹿を言うな。
お前はまだ学生だ、何も出来まい。
とにかく今日はもう休め。」
オーディンはそう言って部屋を去った。
翌日、ラグナは伝話鳥から発せられた言葉を聞く。
いや、ラグナだけではない。
世界中に普及した伝話鳥が、同時に同じ声明を伝えた。
「我が名はルーシェ=グレゴリウス。
グレゴリウス帝国の正当なる王位継承者である。」
ラグナ「‼︎
この声…ミシェルさん⁉︎」
続く…
そこはグレゴリウス皇帝の玉座の間。
帝国軍最強と謳われる近衛兵長シグムントと、革命軍の若き志士シグルズの、剣技の応酬。
互いに、自身の身長程もある大剣を両手で振るい、その長大さから想像される重量にそぐわぬ、無数の剣閃が描かれる。
だが、それらがぶつかり合う衝撃音は、紛れも無く重量級武器特有の響きだ。
やがて、同時に剣舞を止めた両者。
共に肩でする息は荒い。
「見事だ…我が息子よ…」
それは、シグムントの生涯最期の言葉となった。
近衛兵長が力尽きた今、皇帝を守る者は誰も居ない。
「チェックメイトですな、皇帝陛下。」
革命軍のリーダー・オーディンが、そう言って不敵な笑みを浮かべた。
「愚かなり逆賊供よ。
グレゴリウス王家のみが神より授かりし力… 『魔法』による裁きを受け、滅び去るがよい。」
皇帝の召喚魔法によって現れた聖獣ピュラリスが炎の息吹を放つ。だが、その前に立ち塞がった革命軍のアリハマ博士が手をかざすと、光の壁が炎を遮った。
皇帝「⁉︎
バカな…その力はまるで魔法…
なぜ王族でもない者がその力を…?」
オーディン「陛下、ご覚悟を…」
それから16年後、舞台は同じくグレゴリウス城…
課外授業の史跡見学に訪れていたアカデミーの学生達を相手に、教師が講釈を述べる。
「かくして革命戦争は終結し、グレゴリウス帝国の統一支配から世界は解放されたのである。
さて、ではその結果、世界はどうなったか、説明できる者はいるかな?」
「はい。」
女生徒が挙手する。
教師「ではミシェル君。」
「はい。
世界各地に独立国が誕生しました。
そして、それまで帝国が独占していた魔法の力の恩恵を、多くの人々が受けられるようになり、その生活は便利で快適なものになりました。
それから…」
言いかけたミシェルの表情がやや曇る。
教師「他にまだ何かあったかね?」
ミシェル「…人が異形化、凶暴化する奇病 『メタモルフ』が流行しました。」
教師「ふむ、その通り。
まぁ、メタモルフの流行と革命戦争の因果関係は無いと思うがね。
(生徒を見渡し)
さて諸君。
これより、ここ 旧グレゴリウス城跡にて、自主見学をしてもらう。
アースガルド騎士団の方々が警備にいらしているが、外には異形化奇病も出没するので、決して出ないように。
では解散。」
そのアカデミーは、戦後、独立したアースガルド国の議長となったオーディンが設立した、貴族から孤児まで身分に関わりなく教育を受けられる学校である。
何やらソワソワしている男子生徒が、意を決して、しかし緊張しながら口を開く。
「…あっ、あのっ、ミシェルさん!」
ミシェル「あら、ラグナ君?」
ラグナ「あのっ、い…一緒に見学しませんか?」
「そうね、そうしましょう。」
ミシェルはあっさり承諾したが、残念ながら、どうやらラグナの真意には気付いてない様だ。
「いいねぇ、青春だねぇ…
…つーか、なんでこの俺様が、ガキんちょ供の史跡見学の護衛なんざ…」
警備に参加していたシグルズが、遠くで眺めながらぼやいた。
革命軍の若き志士も、あれから16年…
今や 『革命戦の英雄』と呼ばれるに相応しい風格を携えている。
一方その頃、怪しい女生徒が2人…
「潜入成功っと♪
さ、行くよリン!」
リン「でもランちゃん。
こんだけ居る中から、どやって探すの?」
ラン「そうさねぇ…
異形化奇病でも乱入すれば、ご主人様のピンチに駆けつけるんじゃない?」
リン「な~るほど、異形化奇病…ね♪」
2人は学生になりすまして潜入し、何やら探しているようだ。
城内を探索し、城門付近に差し掛かる。
ラン「シッ!隠れな!」
城門に衛兵が2人。
「おい。」
「なんだ?」
「二階級特進おめでとう。」
「?
何の話だ?…ぐわっ‼︎」
「君は異形化奇病の襲撃で殉職した。」
兵士は同僚を槍で突き殺し、城門を開けた。
血の匂いに誘われ、外を徘徊する異形化奇病が続々と侵入する。
ラン「どうやらウチらと同じ事考えてる奴が居るみたいね。
しかも本物の異形化奇病使って…
死人までだすとは、ヤリ方がスマートじゃないね。」
リン「どうする?」
ラン「先越される訳いかないからね。
この騒ぎに乗じるよ!」
突然の異形化奇病の襲撃に、シグルズをはじめとする騎士団が応戦する傍ら、騎士を目指すラグナも、史跡内に展示されていた槍を手に取り奮戦する。
また、ミシェルにも剣の心得がある様だ。シグルズ「嬢ちゃん、剣はどこで習った?」
ミシェル「わかりません…
物心ついた頃からお稽古が習慣だったんです。」
シグルズ(どっかの戦没貴族の出身か?)
そう、ミシェルは戦災孤児なのだ。
シグルズをはじめとする騎士団の活躍により、一時は騒然となったものの大事には至っていない。
ラン「革命戦の英雄シグルズか…
流石に厄介だね。
やっぱウチらの『メタモルフ役』も出番かね。
(肩の上の小鳥に話しかける)
…もしもし?」
その鳥はアルキュオネという、元々は帝国に使役されていた聖獣である。
テレパシー能力で、遠くの者と会話が出来る。
アリハマ博士が模倣して造り出す事に成功し、今や富裕層を中心に多くの人々に普及していた。
その伝話鳥で、どこかに連絡を取っている様だ。
異形化奇病の駆除は着実に進み、騒動は沈静化しつつあるかに見えた。
そんな矢先、城内に轟音が響き、1人の兵士が走って来る。
「シグルズ卿、応援頼む!
今までの異形化奇病とはまるで違う奴が現れた!
我々では全く歯が立たん。」
「ほほぅ、そいつぁ面白ぇ…
(ラグナを見て)
坊ちゃん、騎士を目指すってんなら、嬢ちゃんを体張って守ってやんな。」
そう言い残してシグルズはその場を去る。
その直後、異形化奇病の生き残りが再び襲い掛かって来た。
ラグナはミシェルを庇って傷を負う。
ミシェル「ラグナ君!」
すると、どこからか不思議な小動物が現れ、光り輝く息吹をラグナの傷に吹きかけた。
光を浴びた傷は見る見る塞がり、活力を取り戻したラグナは辛うじて異形化奇病を退ける。
小動物はミシェルに懐いている様だ。
ミシェル「ありがとう、ラグナ君。
それと…小さな騎士様♪
でも、見た事ない子だね…」
リン「ターゲットは~っけ~ん♪」
ミシェル「きゃあっ!」
ラン「坊や、あんたの彼女、ちょっと借りるわね。」
突如現れた2人組に、ミシェルは捕らわれる。
小動物にも、この事態を打開出来る様な能動的な力は無いらしい。
なす術なくミシェルの傍らで威嚇するだけだ。
ラグナ「かっ…彼女って…
ってか、ミシェルさんを放せ!」
リン「照れてる?
かわい~坊や。」
ラグナ「君の方が子供だろっ⁉︎」
リン「あーっ、子供ってゆったなー⁉︎」
ラン「ふざけてないで行くよっ!」
逃走するランとリン。
再び伝話鳥でどこかに連絡する。
「待てッ!」
ラグナも後を追う。
一方その頃…
シグルズと対峙するのは、長い尾と大きな翼を持ち、全身鎧の様な鱗で覆われた、異形化奇病にしては醜悪と言うより精悍な姿の生き物だった。シグルズ「…コイツぁ確かに普通の異形化奇病じゃねぇな…
これだけ圧倒的な力を持っていながら、誰も殺さねぇで、あしらってるだけ…
まるで時間稼ぎだ。
…時間稼ぎ⁉︎」
その生き物は、何かに気付いたかの様に戦いを止めると、突如飛び去った。
シグルズ「待ちやがれ!
お楽しみはこれからだろ⁉︎」
城の外に逃走するも、崖っぷちに追い詰められたかに見えたランとリン。
そこへ、先程までシグルズと戦っていた生き物が飛来する。
ランが放り投げたロープを掴むと、3人と1匹を連れて空へ舞い上がった。
「待てッ!」
ラグナも必死にロープにしがみつく。
リン「ちょっとッ、エッチ!」
ラグナ「あっ、ゴ…ゴメンッ…」
リン「しつこい男はモテないよ!」
ラン「アタシはその情熱、嫌いじゃないけどな~。」
リン「ええぇぇぇ~、ランちゃん⁉︎」
そこへ、別の追跡者が辿り着く。
ラン「あッ、アイツ!
仲間を殺して城門あけた奴!」
ラグナ「えっ⁉︎」
「逃がさん。」
兵士は渾身の力を込めて槍を放り投げた。
それはロープを切断し、4人(と1匹)は崖下の森へと落下する。
ラグナ「ミシェルさん!大丈夫ですか⁉︎」
ミシェル「…私は大丈夫。
あの方達が庇ってくれたから…」
ラグナ「えっ?」
ラン「ウチらは平気さ。
慣れてるからね。」
リン「落ちたのが森で良かったよね~♪」
ラグナ「…あの…さっきの話…」
「…‼︎
後でね、坊や。」
何かに気付いたランは一歩前に進み、剣の収まった鞘を腰に、低く身構える。
ミシェル「…人?」
ラグナ「武器も持たずにこんな所に居たら危な…
リン「近づいちゃダメ!」
茂みの奥から現れたのは一見すると人間だったが、その眼は焦点が定まっておらず、その口からは言葉とも呻き声ともつかぬ音を、唾液と共に垂れ流しながらランを取り囲む。
「コイツらはゾンビ…人が異形化奇病を発症する寸前の状態さ。」
そう言ったランの右手がピクリと動いたかと思った刹那、一閃が弧を描いて走ると、次の瞬間、ランの周りに群がったゾンビ達はピタリと立ち止まり、一呼吸置いてバタバタと倒れていった。
ランに目をやると剣を抜いている。
それは、薄暗い森の僅かな光を反射して美しく輝く、細身で緩く反った片刃の、見た事もない剣だった。
ラン「ほら、ボサっと見てないで!」
リン「ほいほーい!」
リンは丸腰に見えたが、あどけない見た目にそぐわぬパワフルさと、キレ味鋭いダンスの様な動きを兼ね備えた格闘術を披露し、ランと連携して次々とゾンビ達を薙ぎ倒していった。
ラグナ「…殺した…のか?みんな…」
リン「こうなっちゃったら、もうゼッタイ元には戻れない…異形化奇病になるのを待つしかないんだよ。」
ラン「…この際お互いの立場は置いといて、共闘するしかないみたいよ、生きて帰るには。
あたしはラン、こっちは妹のリン。」
リン「よろしくね~♪」
ミシェル「ミシェルです。」
ラグナ「…僕は…ラグナ。」
その時、伝話鳥が鳴き出す。
ラン「もしもし?
……
……
……
わかった。
(一同を見て)
仲間からだ、こっちだよ。」
ランとリンは森の奥に向かって歩き出す。
ラグナはためらうが、どの道ついて行くしかなかった。
リン「ねぇねぇ、さっきの話…気になる?」
ラン「あんたの国にも、この子を探してる奴が居るみたいね。
異形化奇病まで利用してさ。」
ラグナ「君達だって異形化奇病を…」
ラン「あぁ、あの子は異形化奇病なんかじゃないよ。
竜…ドラゴンさ。」
ミシェル「おとぎ話に出てくる、大昔に滅んだって言う…?」
話の腰を折るように度々襲ってくる6脚猫科獣や野犬の様な生き物も、異形化奇病発症者なのだろうか?
それらを退けながら、ひたすら森を歩く。
ミシェル「皆さん、私にどういった御用が…?」
ラン「宝探しに付き合ってもらう…かな?」
リン「それと、世界平和の為!…だね♪」
ラグナ「真面目に答えて下さい!」
ラン「大マジなんだけどなぁ~。」
しばらく森を進むと、奇妙な建造物に辿り着いた。
ラン「ここか…待ち合わせには打って付けの目印だね。」
そこへ、先程のドラゴンが舞い降りる。
ラン「あんたも連れてったげようと思ったけど、お迎えが来たから大丈夫そうね。」
リン「ミシェルちゃんの事、悪いようにはしないからさ、心配しないでよ。」
そう言うと、突然ラグナは突き飛ばされ、ミシェルを抱えてランとリンは竜の背に飛び乗る。
ミシェル「ラグナ君‼︎」
ラグナ「ミシェルさん‼︎ミシェルさーーん‼︎」
そこへ、搜索に来ていたシグルズら騎士団が辿り着いたが、3人を乗せた竜は飛び去った。
シグルズ「チッ、逃げられた!
(ラグナを見つけ)
おい、坊ちゃん、無事か⁉︎」
騎士団に保護されたラグナは、アースガルドに帰国する。
アースガルド国・ヴァルホル邸…
ラグナ「父さん!」
オーディン「おぉラグナ!
無事で何よりだ。」
そう、ラグナは、かつての革命軍のリーダーにして、現アースガルド国議長・オーディン=ヴァルホルの息子であった。
ラグナ「でも、僕の…友達が拐われてしまいました。」
オーディン「案ずるな。
すぐに捜索隊を派遣しよう。
とりあえず今日はゆっくり休んで、明日、何があったか話しなさい。」
ラグナ「僕も捜索に参加します!
今すぐにでも…!」
「馬鹿を言うな。
お前はまだ学生だ、何も出来まい。
とにかく今日はもう休め。」
オーディンはそう言って部屋を去った。
翌日、ラグナは伝話鳥から発せられた言葉を聞く。
いや、ラグナだけではない。
世界中に普及した伝話鳥が、同時に同じ声明を伝えた。
「我が名はルーシェ=グレゴリウス。
グレゴリウス帝国の正当なる王位継承者である。」
ラグナ「‼︎
この声…ミシェルさん⁉︎」
続く…
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる