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第1章 ファイナル・サーガⅦ遺跡

第3話 セカンドヒロインと供に

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 ファイナル・サーガはファミコン時代に発売されたレトロゲームである。

 販売元の『エリプス社』はそれまでに何本ものゲームが大コケして多額の負債を抱えていた。これが最後の賭け、そのつもりで制作したファイナル・サーガは記録的なヒット作となり2作目、3作目とシリーズ化された。

 そもそも土壇場の挑戦から始まっている為か、シリーズを重ねる度毎に革新的な試みがなされた。ただ、その様な行いには多くの失敗が伴いそれらは大量の没データと化した。

 古代遺跡群《アナザー・ダイヴ・リワールド》にシリーズ1作目のワールドがオープンし、2作目、3作目と続いた頃。このシリーズは妙に掘り甲斐があると感じ始めた発掘プレイヤーたちによって、掘り出した没データに異名が付けられる様になった。『エリプス文明の黒歴史』と。


「さて、どこから手をつけようか。こいつは結構な埋没量になるぞ」

 俺が古代遺跡群《アナザー・ダイヴ・リワールド》へ入った時に受付係のフェアリーシステムから教えられたコンプリート率は88%だった。モンスターやらアイテムなんかの回収率を示す図鑑はオリジナル版の時からあって100%になっていたはず。それがそこまで落ちた。

「まあ、基本は没モンスターと没アイテムからになるだろうな」

 どんなゲームにも共通する事だが没モンスターと没アイテムは結構多く埋もれていて、トータルではそれなりの割合を占める。シナリオとかシステムを変えるのは作品の根幹に関わる大仕事だが、そっちは枝葉の様なもので変更しやすいからだろう。

 没モンスターが没アイテムをドロップする場合は一石二鳥。で、意外と見落としがちなのは正規採用モンスターのドロップアイテムが没になっていた場合だ。オリジナル版では何回狩っても何も落とさなかった、それが古代遺跡群《アナザー・ダイヴ・リワールド》でやってみたら没アイテムを落としたなんてのは発掘プレイあるある。

 そんなわけで初回プレイと同じ順にフィールドをめぐりモンスターをしばきまくる、町やらダンジョンやらへも立ち寄る事にしよう。没クエストなんかが湧き出していたらついでに回収の方針。結局、発掘のテンプレでしかないのだが。

 ほんと、この地道感あふれる作業ってハケで土を丁寧に掃く様な本物の遺跡発掘とそっくりだ。


 道すがら遭遇するモンスターとの戦闘は実に楽。パーティメンバー6人ともLv70カンスト、面倒クエ突破で入手の専用装備も全員が揃っているのだから。

 当時のバトルシステムのままに4人までしか参加出来ないバトルでは2人が待機となる。このパーティにおける補欠の人選は簡単だ。モンスターを瞬殺するので回復の必要なし、1人はヒーラーの爺さん。もう1人は、動くのが面倒だからという理由で俺が直接操る主人公《オクラ》。以上が安定の補欠ポジションだ。

 バトルに出す4人は適当に指示しておけば勝手に戦ってくれる。オリジナルの頃はいちいちコマンド入力だったが、そこはAI活用で便利に仕様変更。ファミコン時代からAIによるオートバトルというものはあったがポンコツなだけ。ほんと、時代の進化を実感出来るほど優秀になった。

 この自分で何もしなくても誰かがやってくれる感じって最高だわ。朝起きれば朝飯が出て来て、昼も夜も自動的に。冷蔵庫の中も勝手に補充されてるしな。俺が謳歌している至福の実家暮らしとよく似ている。

 そう言えば、6人中の4人しかバトルに入れないってリアルで考えれば実におかしな話だ。何かしら全員で連携していないのは不自然、仲間が必死に戦っている最中に何をしている?という話にもなる。

 その不自然を自然なものにする為に自動生成AIが出した答えは…、荷物の守衛係の様だ。バトルに入ると、山積みの所持アイテムの前で2人が強制的に仁王立ちさせられる。

 で、メンバーチェンジの際は手と手でタッチというプロレス方式を採用…。なんか、古代遺跡群《アナザー・ダイヴ・リワールド》で使っているAIは妙な学習癖がついている様な気も…。


 そんな観戦を繰り返し。いくつかの没モンスターを狩り、いくつかの没アイテムを手に入れた。

「ヘイケノカブトにヘイケノコテ? きっと一式揃う平家シリーズ装備って事だろうな」

 妙に防御性能が高い。主人公《オクラ》が装備出来るようなのでそうしてみた。残念ながら、きっとあるはずの鎧は未入手だが。

「なんか、観光地で見かける浮かれた外国人観光客状態だな…」

 スクショして確認してみた感想…。その浮かれた外国人観光客でモンスター戦を繰り返してみた。

「なるほど、盛者必衰の理だったか……」

 使ってみてわかった、平家物語そのものだった。最初は隆盛を誇っているが次第に落ちて行く、それを表わすかの様に戦闘を経験する度に防御力が落ちていき最終的には1になる。このゲームの冒頭で装備している村人の服と同程度だ。

 防御力が落ちる度に少々ビジュアルが変化するのはフルダイブ化の影響だろうな。組紐がほつれ、鉄板が剥がれ落ち、気が付けば矢が刺さっていて。

「徐々に落ち武者感が増しているじゃないか」

 まあ、あってもいいが別になくてもいいネタ装備のようなもの。容量の関係で没にされたかな?

「南無三……」

 落ち武者っぽい恰好になっているせいもあってか没アイテムに向かって手を合わせてしまった。はっきり言って使えないが性能なんてどうでもいい、没データを掘った事実のみが重要なのだから

「じょうしゃひっすい? おちむしゃ? なむさん? ねぇ、主人公《オクラ》。さっきから何を言っているの?」

「あぁ、マリカ、ごめん。何でもないから気にしないでくれ」

 戦闘を終えたところで俺の右隣からそう声をかけてきたのは仲間、星に選ばれし者の1人、マリカだった。彼女は戦闘要員としては攻撃魔法のエキスパートにあたる。

 俺の言葉に彼女が首を傾げたのも仕方ない。ゲーム世界に直接関係ない様な言葉は理解出来ない様に制限がかかっているらしい。

 何でも、他のとあるゲームのワールドでプレイヤーによる女性キャラへのセクハラ事件が起きたとか。フルダイヴ型のゲームがぶち当たるべくして当たった壁だが未だこれといった対策はない様だ。現状プレイヤーのモラルに一存らしい

 まあ、色々と課題は残るがレトロゲームがフルダイブ型で甦った事で、苦楽を共にした昔の仲間と初めて会話が出来る様になったのは嬉しい進化だ。

「行こうか、マリカ」

「そうだね。私達には目指すところがある」

 特にセカンドヒロインとも呼ばれるマリカとは。
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